入院するか? 薬を飲むか?

そこで、正夫さんは地元で一番大きい私立の総合病院を受診することにした。

正夫さんの話を聞き、医師は、「自殺念慮と以前の自殺企図あるので、即入院が望ましいと言い、一応病院を案内してもらったが……。

「入院病棟を見て、いよいよここまで来たかと涙が出てきました」

 しかし、それでも入院の決断がつかない。医師からは入院しないのなら、必ず薬を飲むようにと強く言われた。処方された薬は以下のとおりだ。

毎食後

スルピリド50mg1錠×3

クロチアゼパム5mg1錠×3

就寝前

クエチアピン25mg1

サインバルタ20mg1カプセル

動悸がするとき

パロキセチン10mg1

吐き気がするとき

ドンペリドン10mg1

 

 仕方なく、正夫さんは薬を飲むことにした。私からは、頓服のパロキセチンとドンペリドンは飲まないほうがいいとメールしたところ、自分も飲むつもりはないとのことだった。

 それでも、薬のおかげで、翌日は久しぶりに4時近くまで寝ることができたという。5時間眠れたことになる。普段は12時から2時の間に目が覚めてしまい睡眠時間は1から3時間だった。

 正夫さんは医師に、最初の主治医の処方に関して話したが、医師の答えは、

「離脱は1週間で治まるし、その医師にかかって早々の躁転と、薬が急激に減らされた後のうつ転は、薬によるものではなく、元々あなたが持っていた双極性によるものかもしれない」というものだった。

 地元では有名な病院の院長である。同業の批判はできないのだろう。正夫さんが経緯を書いた紙を渡したが、読もうともしなかったそうだ。

 

現状

 正夫さんの現状だが、一応薬の力で多少眠れるようにはなった。しかし、絶望感からどうしても希死念慮が頭をもたげてくる。

医師からは、以前薬を飲んで躁転したので、抗うつ薬でいつまた躁転するかわからない、気を付けるようにと言われているが、何をどう気をつければいいのか。正夫さんとしては医師も精神医療も信用する気になれない。

「精神状態に不安を抱えながら、お情けで仕事をしているこの状態では、将来の希望もなく、明るい未来を描くことはできません。本当に私の人生は、何て惨めなものになってしまったのでしょう。あの時ああしなければよかったと、いくつもの後悔が浮かびます。病気とこんな運命を背負って生まれきたことを悔やみます」

 

 正夫さんとメールのやり取りをして、途中、たいへん辛い状態になったとき、私はあえて薬を飲むのもありです、とメールしていた。正夫さんのような状態では、正直、どこにも行き付かないどころか本当に最悪の事態も考えられたからだ。一度断薬した人は、再服薬に大きな抵抗を感じるが(当然だとは思う)、薬で崩れた状態はやはり一度薬によって立て直し、足元を固めてから少しずつ減薬していけばいい。

 眠れるようになれば、体もしっかりしてくる。体がしっかりしてくれば、考えもまた別の方向に進む可能性も出てくる。減薬について考えるのは、それからでも遅くない。

 それにしても最初の主治医はなぜ躁転した患者に抗うつ薬(セルトラリン、トラゾドン)を出し続けたのか。途中からベンゾ系の薬2種と睡眠薬になったときもあるが、2週間ごとに処方を変えている(途中アルプラゾラム2錠を一気に切ったり)。

 このように薬を出したりやめたり、減らしたり増やしたり、コロコロ処方を変えても、何の影響もないと、医師は本気で考えているのだろうか。副作用もわからない? 躁転による行動が後々当事者にとってどれほどの「傷」になるか想像できない? 

いやいや、医師たちは、こうしたことはみんな薬の影響ではなく、その人が元々持っていた「病気」ととらえているのだろう。

正夫さんに院長が言ったという言葉。

「離脱は1週間で治まるし、その医師にかかって早々の躁転と、薬が急激に減らされた後のうつ転は、薬によるものではなく、元々あなたが持っていた双極性によるものかもしれない」

この部分で、医師とは永遠に平行線である。

この平行線を解消するには、どうすればいいのか……。これまでいくつもの体験談を書き、そのたびに同じことを訴えてきた気がするが、精神科医の受け止め方、精神医療は変わる様子もない。

この平行線が少しでも交わるようになるにはどうすればいいのだろうか……。