先日、ある精神科医に会い、話を聞く機会がありました。

 その中で大変興味深かったのは、精神障害者への差別の根っこが旧優生保護法にあるということです。

 つまり、強制優生手術の対象に精神疾患が含まれていた。その理由は精神疾患は遺伝性疾患であるから、根絶やしにする必要がある、というものです。

 それは保健体育等の教科書にも書かれることになりました。例えば、学研書籍の「保育」にはこうあります。

「遺伝性の精神薄弱、精神病などが家系の中にみられる場合には、こどもにもそのような因子を伝えるおそれがあるので、優生保護法によってこどもを産まないようにすることが望ましい」

 なんとおぞましい言葉かと思いますが、精神分裂症(統合失調症)は遺伝病であるという論拠はここからきているといいます。しかし、当時はこれが「常識」、なんといっても教科書に書いてあるのですから、疑うことなく、誰もがそういうものだと信じたことでしょう。

 そして、この旗振り役を果たしたのが当時の精神科医たちです。そうした医師たちと政治家が集まり、優生保護法はできました(1948年~1996年)。

 国の統計によると、旧法のもとで約2万5000人の不妊手術が施され、うち1万6500人が強制だった。特に分裂病は手術全体の85%を占め、統合失調症がターゲットにされていた事実がうかがえます。

 大前提として医師は患者を治療するのが仕事です。精神科医なら精神疾患の治療を行う、にもかかわらず、「根絶やし」を推進するというのは……何とも言葉が見つかりません。

 精神疾患が遺伝性であるということは証明されていません。にもかかわらず、60~70年代の大学医学部の精神科教室では、精神病の遺伝性を教える教科書がほとんどだったそうです。そういうもので学んでいった医師たち(精神科医に限らず、内科や外科、さらに看護職)が、精神疾患の患者を診たとき、どんなことが心によぎるか。

 こうした精神科教室での教育が精神医療の基礎になっているとしたら……。

 患者に寄り添う……? そんなことは習っていない。彼らが学んだのは精神病者を社会から抹殺することでした。