ある精神科医とのやり取りで、以下のようなメールをいただいたのだが、どう解釈すればいいのやら……?

 

 日々薬物療法に抵抗する患者家族の説得に苦労し(その一部は医師側が明らかに間違っていると思いますが)、精神医療を批判する人々を苦々しく思ってもいる精神科医が大半だろうとも思います。

多くの患者家族が『心の問題は薬物で治療することは出来ない』とか『精神科の薬はいったん始めたら止められない麻薬のような薬である』と信じておられるのですね。そのために治療が手遅れになる場合がしばしばあるのです。精神病院の中に沈殿している重症患者さんの中には、『もっと早く薬物療法をしておればこうならずにすんだであろう』と言う事例も多々あるのです。従って患者さんや家族に薬物療法が必要であると説得するのに苦労することは日常的にあるのです。

しかし、薬物療法が必要であるという医師の判断が間違っていることも多々あるわけですね。例えば神経症圏の疾患にベンゾを使うことは明らかに間違いですけど、それが正しいと信じ続けられてきた。統合失調症や内因性うつ病には薬物療法が必要です。

問題は誤診の可能性がかなりあることです。軽症うつ病には、そもそもうつ病でないケースが数多く含まれている。だから軽症うつには薬物の有効性は確かめられていない。しかし、多くの精神科医は抗うつ剤で治療しようとします。多くの精神科医は薬物療法が正しいと信じているから薬で治療しようとする。しかしその信念はしばしば間違っています。

 

回りくどくて、肯定のあとすぐ否定がくるので、わかりにくいのだが、いくつかの疑問が浮かんでくる。

 

① 統合失調症という病気は「もっと早く薬物療法をしておればこうならずにすんだであろう』と思わせるような病気なのか? 

 

② 「薬物療法が必要であると説得」しつつ、一方で、「薬物療法が必要であるという医師の判断が間違っていることも多々ある」としたら、患者(家族)は何を信じればいいのだろうか。

 

③「統合失調症や内因性うつ病には薬物療法が必要です」としつつ、でも「問題は誤診の可能性がかなりある」としたら、ここでも患者(家族)は宙に浮くしかない。

 

それでも医師は診断をし、薬を処方する。

薬物治療が必要でないかもしれない人に対して、誤診かもしれない診断を元に、医師の判断が誤っているかもしれないという前提で。

飲むのは患者である。

そして、一度ついてしまった診断は、おそらくいろいろな前提があって迷いながら下した診断であるにもかかわらず、いつしか、その診断名が、その患者の「病気」であるという規定事実になっていく。

 

神田橋條治という精神科が面白いことを書いている。

「「『統合失調症』という病名には確たる確証がありませんし、本質としていくつかの『病』のとりあえずの寄せ集めであり、『変だけどよくわからない』に毛が生えた程度の確かさなのです。(略)『統合失調症』と誤診されるのは……よくわからないので屑籠に入れたのですが、患者や家族はそのことを知りませんし、当の精神科医も失念して診断が確定したと思いこんじゃったのです」(『こころの科学』一四三号 二〇〇九年)

 

 精神科の診断とは何なのだろうか?