前のエントリの「症状は氷山の一角」では、精神的な症状が出ても、必ずしも精神的な問題とは限らず、身体やその他さまざまな事柄が関連して症状が出ている可能性について書きました。

 今日はまさにそうした体験をされた方の話を紹介します。

 

 現在大学3年生(20歳)の娘さんについての体験談です。

 お母さんからメールをいただきました。娘さんが体調を崩したのは中学1年生、1月のこと。

症状は、全身倦怠感、嘔気、頭痛、立ちくらみ、全身の関節痛、腹痛、下痢、無気力、不眠、ときにはいくら呼んでも起きないくらいの深い睡眠状態など、多岐にわたったとお母さんは言います。

 お母さんは看護師さんで、発症直後、自身の勤務する小児科を受診させました。しかし、一般的な検査で異常なしとのこと。

その後もそのときどきで症状が変わるため、内科や、整形外科など、計4か所の病院を受診。しかし、どこも原因がわからないままだったと言います。

 それどころか、3か所目に行った内科クリニックでは、「精神的なことからくる症状が考えられる」との診断で、ドグマチールとセルシンが処方され、カウンセリングを受けることをすすめられました。

 お母さんから見ても、確かに娘さんはうつ状態といえばうつ状態です。看護師としてドグマチールやセルシンがどのような薬かわかっていましたが、それでも親としては「この子を何とかしなくては」という一心で、一応処方に同意したと言います。

 しかし、1~2日飲んだ時点であまり変化はなく、これ以上飲んだとしても効果は期待できないと判断し、それ以上は飲ませませんでした。

 このお母さんの場合、体験的に医師を全面的に信用する危険性を知っていたため、薬をやめる判断ができました。もし、医師に全面的に依存し、言われるまま服薬を続けていたら……薬漬けの人生になってしまった可能性もあるかもしれない、そう思うと本当に恐ろしいと言います。

 

その後、症状を頼りに、ネットで検索を繰り返し、「起立性調節障害」という病名を見つけました。

しかし、ネットで書かれていたのは、思春期外来で起立性調節障害に対して精神安定剤などの薬が処方されている体験談でした。

長年の臨床経験から、医療サイドの安易な処方の場面は日常茶飯事として経験してきたことから、「これは、診断を受けるにも安易に受診できない」と思い、この先生なら大丈夫という確実な情報を手に入れるまで、受診はさせなかったそうです。

そして、起立性調節障害のお子さんが通院しているという方の紹介で受診した病院で、ようやく起立性調節障害と診断を受けました。最初にかかった小児科のクリニックから数えて、5軒目の病院でした。

 

起立性調節障害って?

日本小児心身医学会のホームページには起立性調節障害についてこう書かれています。

http://www.jisinsin.jp/detail/01-tanaka.htm

・たちくらみ、失神、朝起き不良、倦怠感、動悸、頭痛などの症状を伴い、思春期に好発する自律神経機能不全の一つです。

・有病率……軽症例を含めると、小学生の約5%、中学生の約10%。重症は約1%。不登校の約3~4割にOD(起立性調節障害)を併存する。

・性差……男:女 1:1.5~2

・好発年齢……10~16歳

・遺伝・家族性……約半数に遺伝傾向を認める。

 

症状から見ると、精神科領域のようにも見えてしまうかもしれません。そこで精神科を受診するケースも多々あると考えられます。精神科を受診すれば、ほぼほぼ精神疾患の診断になります。この娘さんもそうだったように、うつと診断されたり、あるいは適応障害と診断されたり。そしてそれ相応の薬を飲むことになります。

もちろん、うつでも適応障害でもないので、症状が改善するはずもなく、薬の副作用が出て、それをまた精神的な悪化ととらえられて、下手をすれば「統合失調症」というところにまでいってしまいかねない、それが精神科の「治療」です。

精神科受診のきっかけが、実は起立性調節障害だったという人は案外多いかもしれません。ただ、すでに向精神薬を飲み続けてしまっているため、最初の症状は姿を変えてしまい、現在は本物の(薬による)精神疾患のような状態になってしまっている可能性もあります。

この娘さんが体験した7年前に比べて、現在は起立性調節障害の認知度は上がっているようです。したがって、精神疾患との誤診は減っているかもしれませんが、やはり最初にどこを受診するかによっては、将来が大きく変わってしまう。精神科を受診して、起立性調節障害の可能性を指摘される確率はかなり低い、ということです。

もしお子さんに上記のような症状が出ていたら、起立性調節障害を疑ってみてください。

 

起立性調節障害とHSCとの関係

 以下はお母さんからのメールを紹介します。

「私は、2016年から不登校となった子どもを持つ親のお茶会などを開いていますが、不登校状態のお子さんの中には、診断は受けていなくても症状からみて起立性調節障害だと思われるお子さんも多く、数に上がっていない症例もかなりあると感じています。(略)

 ここからはこれはあくまでも私(私の周りの不登校の子を持つ親)が、体験的に感じていることを述べさせていただきたいと思います。科学的な根拠には欠けますが、40例以上のお子さんのケースから感じた傾向です。

起立性調節障害は医学的には思春期における自律神経失調症と解釈されていますが、私の娘をはじめとする多くのお子さんにHSCの特性が見られると感じています。

 医学的にも起立性調節障害になりやすい子どもの特徴として「まじめで周りに気をつかう子」ということが挙げられていますが、「気をつかう」以前の問題でHSC(Highly Sensitive Child)の特性から「無意識的に、周りの情報を他の人より多くキャッチする結果、周りのことも気にせざるを得ない状況になっている」と私は考えています。

  また、他の人の発する感情や身体的状態に対する共感能力が高すぎる、いわゆる「エンパス」といわれる人の特性が強いケースも多くあり、そのために「他の人に共感共鳴しすぎてしまい、本来の自分の状態を見失ってしまう」状態が多くなり、そのことがいわゆる「生きにくさ」になっているケースも多く見受けます。

  学校という場所は、非常に多くの人間が狭い空間に密集しているために、周りに人が放っている感情や身体的状態の情報が渦巻いています。

 それを、特にHSCやエンパスというような特性を持った子どもにとっては、無意識のうちにその情報をとらえ、共鳴してしまうのため、それだけで精神的にも肉体的にも過剰なストレスがかかります。そのストレスが、自律神経を狂わせる要因となり、起立性調節障害を発症しやすくなるのでないかと感じています。

 実際に私の娘のケースでは、起立性調節障害の症状が悪化するときには、友達同士がけんかをしていたり、他の人から相談を持ち掛けらているときでした。また、クラスの雰囲気が良くないとか、先生がイライラしているとか、いわゆる「空気を読むタイプ」であるために、過剰適応の状態になってしまいがちでした。共感能力が高く、自分と他人の境界線を引く必要性を知らないため、自分自身に起こっているわけでもないことの影響が、身体症状として現れてしまいやすいのです。

 起立性調節障害のお子さんを持つ親御さんの傾向にもまた共通点があって、自分を犠牲にしてまでも人もために尽くすようなタイプの方が多くいます。つまり、親自体が他人との境界線が曖昧でスパッと割り切れないようなタイプなのです。

私自身もそのようなタイプでしたので、それが育て方の中に反映され、娘の性格が形成されていたことに気づきました。

色々なセミナーに通う中で、自分と他人の境界線を引く必要性を知り娘に伝えたことから、娘も徐々に周りの友達の状態に影響を受けなくなり、体調も安定していきました。

   起立性調節障害の治療としては昇圧剤が処方されますが、実際に飲むと動悸が激しくなったりするだけで、効果はありませんでした。

むしろ、無意識的に場の空気を読み過剰適応状態になりやすいという、自分の特性を知り、周りと自分を切り離す意識が持てるようになったことが、症状を抑えるのに大きな効果があったと思います。

 起立性調節障害を「病気」ととらえ医療の力だけを信じていては、その症状をなくすことはできないと思っています。

 私が一番危惧しているのは起立性調節障害・HSP(HSC)・エンパス・発達障害そのどれもが、単なる「特性」であるにもかかわらず、西洋医学的に見れば薬物によるコントロールが必要なケースとされてしまうことが多いということです。

 また、親御さんも正しい情報を知らず、売り手である製薬会社の「あなたのお子さんはこのお薬を飲む対象者です」といううたい文句に乗せられて、薬で解決することに疑問を持つこともなく受け入れてしまいやすいことにも危険性を感じます。

親が自分や子どもの特性を正しく認識し、「特性」と「病気」は別の物である。医療に頼りすぎない。まずは親の認識を変えていく必要があると思っています。」

 

 起立性調節障害という視点をもつ重要性とともに、薬物療法への傾倒は問題の本質的な解決にはならないようです。

 

 お母さんが書かれているブログです。