最近ニュースでよく伝えられる「子ども庁」。

 その後、いろいろあって「子ども家庭庁」にする、とか、もうなったとか。

 その「子ども庁」を推進している議員の一人が自民党参議院議員の自見はなこ議員です。

 子ども庁は、これまで文部科学省・厚生労働省・内閣府の主に3府省にまたがる縦割り行政を一元化し、抜け漏れがない迅速な対応を実現する目的で菅政権時代に持ち上がった構想です。

 その推進者である自見議員(小児科医でもある)も参加して、12月16日、以下のような会合がオンラインで開かれました。

(オンライン開催)こどもの健康プロジェクト 第1回専門家会合 「こどもの権利を尊重したメンタルヘルス教育プログラムとサポートシステムの構築」~こどものメンタルヘルスに対するライフコースアプローチを考える~(2021年12月16日) - 日本医療政策機構(Health and Global Policy Institute) グローバルな医療政策シンクタンク (hgpi.org)

 

「子どものメンタルヘルス」! 

 子ども庁は子どものメンタルヘルスに高い関心があるようです。

 まず基調講演で自見議員の話があり(まあ、政治家の演説)、続いて登壇したのが神尾陽子さんでした(お茶の水女子大学 人間発達教育科学研究所 人間発達基礎研究部門 客員教授。さらに「神尾陽子記念会 発達障害クリニック」というのもやっているらしい)。

その講演で以下のような話が出てきました。

 

・2人に1人は生涯でメンタルヘルスの問題を経験する。

・5人に1人の子どもがメンタルヘルスの問題を抱える。

・うつ病や不安症の成人の約半数は児童期に初発。

・子どものメンタルヘルスの問題は(放置すると)成人後のメンタルヘルスのみならず、身体健康、司法、経済、社会生活に広汎にダメージを与え、自殺リスクを高める。

 

 おやおや、いつかどこかで聞いたような話……児童期の行動や情緒の問題を放置すると、将来大人になって、とんでもないことになる……。

 もちろん、このような主張の背後にはアメリカ等で行われた「ちゃんとした」研究があると言います。

 そのアメリカの以下のような数字も紹介されていました。

 「アメリカの2~8歳の6人に1人が、情緒、行動、発達の障害を持つ」

 2歳の幼児の中から、情緒、行動、発達の障害を、いったいどういう基準で見出すのか? 

 2歳の幼児……です。

 

「〇人に1人、そういう状態の人がいる」という言い方は、人々に統計的に物事を考えることを強い、そこから導きだされる感情は、「そんなに大勢の人が!」という驚きです。(このやり方で、「たったそれしかいないのか」という感想を抱く人は多くありません)。

 つまり、こうした数字は人々に脅威を与えるために活用されます。そして、専門家には、「何とかしなければ」と思わせ(叱咤激励し)、保護者には、「うちの子もそうかもしれない」というメッセージを伝えることになります。

 そして、それを解決するために登場するのが、精神医療というわけです。

 

 神尾さんの後に登壇したのが、まさにそういう立場の方でした。

 小塩靖崇さん。https://researchmap.jp/yojio

肩書は、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 常勤研究員、となっていますが、この方、こんなところにも登場しています。以前もブログで紹介したと思いますが……

「こころの健康教室 サニタ」https://sanita-mentale.jp/material.html

 

 来年度から高校の保健体育の授業において、精神疾患教育が、約40年ぶりに復活することになりました。

このサニタはその教材でもあり、その制作を担っているのが上記、小塩さんです。

教材の一つ、「アニメで理解する精神疾患の予防と回復」を見てください。

例えば「統合失調症」

https://sanita-mentale.jp/video/anime/ja/tougou.html

 この教材を見て、「精神疾患への偏見、差別がなくなる」のでしょうか?(精神疾患教育を行う理由の一つが差別偏見の解消だからです)。

 よくわかりません。

 あまりに安易な作りと感じるのは私だけでしょうか。

描かれているのは、幻聴=統合失調症と、被害妄想=統合失調症という図式にすぎず、要するにDSM等に出てくる症状をこの主人公の男の子はそのまま体験し、統合失調症として病院に通うようになったら、よくなったというお話です。

 以前、絵本で幼い子どもに精神疾患を教えようとした宮田雄吾先生。『そらみみがきこえたひ』を彷彿とさせます。

 じつに、じつに、薄っぺらい内容。

 こんな情報では、かえって統合失調症の偏見差別が助長されるのではないかと危惧します。

そして、教師たちはこうした情報を頭に叩き込み、子どもたちを色眼鏡で見るようになるかもしれません(もしかして、この子、統合失調症ではないか? と)。

 また、当然のことながら、こうしたページが好んで使うのがチェックリスト。もちろん、それもそろっています。

まさに早期発見という名の「あぶり出し」。あるいは「魔女狩り」。

 

 こうした動きは、東京大学大学院、教育学研究科「学校精神保健プロジェクト

でも活発に行われているようです。中心にいるのは、精神科医の佐々木司さん。

 表にはあまり登場しませんが、佐々木さんの名前は、こうした動きのそこかしこにうかがえます。https://toyokeizai.net/articles/-/428955

 https://www.gakkohoken.jp/special/archives/219

 

 ちなみに一節を紹介しますと……。

この授業の特徴は、

1)日本の学校のスケジュールの忙しさに合わせて、短時間(小学校では45分1回、中高は原則として50分を2回)で実施できるようにしたこと

2)学校の教員が実施できるようにしたこと

3)専用に開発した視聴覚教材を活用すること

4)精神疾患と生活習慣との関係に注目すること

で、早期対処とともに一次予防(発症予防)も目指していることが大きな特徴である。このうち2)の利点は、学校教員が実施できれば多くの学校で広げることが可能であること、および学校教員が実施することで、学校教員自身の知識を向上できることにある。なお3)の視聴覚教材の活用方法と合わせて、教員向けの指導案と授業実施解説書も作成しているので、これまで精神疾患に関する知識が不十分であった教員でも、大きな困難なくこの授業は実施可能である。既に小中高合わせて50校近くで本授業は実施されている。

(引用以上)

 

  言ってみれば今回の「子ども庁」が行う子どものメンタルヘルスは、早期発見、早期介入に基づいて実施されるということです。しかも学校ぐるみで。

 こうしたやり方は、以前私が『精神医療につながれる子どもたち』という本で取り上げた問題そのままです。さらに悪いのは、そうしたことが「子ども庁」という政府お墨付きで正々堂々、大手を振って行われること。

 

 上記のようなあまりに安易な、あまりに薄っぺらくて短絡的な精神疾患教育(間違いも多くはらんでいるし、精神医療につなごうという意思が背後に見え隠れする)より、もし精神保健教育というのなら、教えるべきことは他にたくさんあるはずです。

  たとえば、精神医療との付き合い方(誤診が多い等、恩恵ばかりではないという事実も含めて)、また、精神薬の副作用や依存性について(最近も「オーバードーズ」に関して、女子高生の死亡という事件がありました)、視野の広い精神疾患のとらえ方(症状だけで判断することの危険性について)、レッテルを貼ることのリスクについて等々、本当の意味での精神保健リテラシーを提供すべきではないかと考えます。

 でも、学校の先生も「精神科医」の言うことは丸ごと信じて、それを児童生徒に教えて、精神疾患への認識はますますおかしな方向に向かってしまうのでしょう。

 そして、こういう教育を受けた子どもたち(保護者を含めて)の精神医療に対するハードルはますます低くなり、「気軽に」精神科を受診するようになるのでしょう。精神医療につながれる子どもたち、増産計画です。