今日は以下の本と、この本の著者によるyoutubeを紹介します。

 

 

 

 書いたのは兵庫県立ひょうごこころの医療センターの認知症が専門の小田陽彦医師です。

 タイトルに「高齢者への」とありますが、高齢者に限らず、一般の方にも参考になる向精神薬についての(裏)情報が盛りだくさん。

 

 そして、youtubeは著者によるこの本の解説です。

 この回では「精神科の薬のデータねつ造について」語っています。

 

 同様の内容が上記著書にもありますので、まずはそちらを紹介しようと思いますが、その部分を抜粋する前に、著者が「抗うつ薬」についての驚くべき(いや、向精神薬ではよくあること?)エピソードを書いていますので、紹介します。

 

 最近日本で発売されたボルチオキセチン(商品名・トリンテリックス 武田薬品工業)

 著者によると、この薬、発売前に日本人を対象に3回のプラセボ対象試験が行われているそうです。なぜ3回なのか?

 2回やっても試験でプラセボとの有意差が確認できなかったからです。

 そこで、武田製薬は考えました。ボルチオキセチンが効きそうなうつ病患者だけに的を絞って治験を行ってみてはどうか。

 まず、プラセボで良くなるうつ病患者をあらかじめ試験から除外することにしました。うつ病初発の人はプラセボの効果が高いことは知られていますので、再発経験のない人は試験から外すのです。

さらに、実際の試験の前にプラセボを1週間飲ませて、改善した人を除外する。

また、難治性(慢性)うつ病(12カ月以上症状が継続)の患者も除外しました。

 つまり、治療しなくとも自然に改善するほど軽くなく、難治例というほど重くない、ボルチオキセチンにとってちょうどよい程度のうつ病患者だけを集めて試験が行われたわけです。

 こうして、ようやくプラセボと実薬の間に有意な差が出る試験結果を得ることができました。発売されたのは2019年11月。(この薬は薬価が高いです。2020年4月時点で、10㎎錠が168.9円。)

 

 このように、抗うつ薬の試験ではボルチオキセチンに限らずかなり「操作」されたものがあります。製薬会社は自社にとって都合の悪い試験を公表しない傾向があります。

 

 そもそも抗うつ薬の試験の成績は、アメリカにおいて承認を得るために製薬会社が1987年から2004年にFDAに提出した74試験中、実薬がプラセボを上回ったのは38試験(51%)。つまり1勝1敗(ボルチオキセチンは1勝2敗)程度です。にもかかわらず、抗うつ薬は精神科で処方され続けています。

 Youtubeではそのあたりの裏事情を解説しています。

 

 以下、本書からも少し引用します。(54頁)

 この程度の成績にもかかわらず抗うつ薬が広く使われている理由の一つに、論文出版の偏りがあるとされています。抗うつ薬がプラセボを上回った38試験中、医学雑誌に論文として掲載されたのは37試験(97%)だったのに対し、抗うつ薬がプラセボと変わらなかった36試験中、医学雑誌にそのまま論文として掲載されたのはわずか3試験(8.8%)にとどまるのみならず、あろうことか11試験(31%)は主要評価項目で実薬はプラセボを上回らなかったことを伏せてあたかも薬が効いたかのような内容の論文となって医学雑誌に掲載されていました。

 たとえば日本国内の試験ではかませ犬にも勝てなかったセルトラリンについてみてみると、FDAに提出された実際の試験成績はプラセボと対決して1勝4敗と海外でも振るわなかったのですが、論文の世界では2勝0敗という現実離れした有効性を示したことになっています。このように抗うつ薬が効いたという方向に偏って出版された精神医学論文に基づき、製薬会社はパンフレット等をつくり医師に営業をかけますので、それに影響された医師が抗うつ薬を処方してしまっているというわけです。(以上引用おわり)

 

 効果の(ほとんど)ない薬であるにもかかわらず、副作用はしっかりあります。

 抗うつ薬は重症のうつ病患者(症状が12カ月以上継続する。うつ病患者全体の20%程度)には効果が期待できますが、80~90%は特別な治療をせずとも2年ほどで自然治癒します。ただし再発するケースも多いです。

が、こうしたケースをわざわざ「うつ病」という病気にしなくてもいいように思います。考え方の癖を知ったり、成育歴の見直し、環境の見直しで改善していく可能性が大きいし、もしそうしたアプローチでは物足りず、自然治癒が待てないのだとしたら、プラセボで十分なはず……。

 2000年頃から始まった「うつ病キャンペーン(SSRIの販売促進運動)」は、こうしたうつ病ともいえない人たちを「精神疾患」として取り込むことで販路を拡大してきました。

 製薬会社の不誠実な態度を燃料にして「精神疾患」の拡大解釈、国民により多くの精神薬をばらまく風潮が増殖し続けています。

 患者抜きの医療……。