99歳の義母の話です。

 ずっと老健でお世話になり、ショートステイで、施設と自宅を行ったり来たりの生活を送っていました。しかし、3年前、コロナによって「出入り」ができなくなり、老健に入ったきりとなりました。

 その頃、睡眠薬のサイレースを2錠、処方されていました。

 それより10年以上前のことです。うつ病との診断でドグマチール(スルピリド)を長期に服用しており、副作用で廃人のようになったため、断薬した(入院しました)のですが、その後、元気を取り戻しました。

 ところが、4年ほど前、食欲不振ということで内科を受診するとスルピリドが出たのです(スルピリドは抗精神病薬ですが、胃腸の調子が悪いと言うと、わりに簡単に処方される薬です)。

 飲んで2日ほどで、薬剤性のパーキンソンを発症しました。ブルブルブルブル、震えが止まらない。

 一度やめた薬を再服薬すると、身体が以前飲んだ薬のことを覚えていて、過剰な反応を示すことがあります。義母もまさにそれでした。

 なので、「この手の薬はあまり飲ませたくない」と家族から施設の医師に伝えていたのです。そこでサイレースもやめることになりました。

 その医師は離脱症状というものを知ってか知らずか、一気に1錠減らして、その後もとんとんとゼロにしてしまいました。その間、義母の体調がどうだったかわかりませんが、特に訴えはなかったようです。

 しかし、老健なので一か所に居続けることはできず、別の老健に移ることになりました。当然、施設の医師も変わり、その時も医師に「この手の薬は飲ませたくない」と伝えたのです。

その施設に移ってからは、コロナで面会もままならず、ほとんど会えない日が2年以上続きました。

 そして、先日、施設から電話があり、便秘が続いている、吐いている、これから救急車で病院に行く、と言うではないですか。びっくりして病院に駆けつけると、一応しゃべれるくらいの状態でしたが、腹部がカエルのように膨らんでいます。CTを撮ったところ、どうも腸捻転らしい。緊急で手術となりました。

 炎症が広がっており、結局ストーマー(人工肛門)をつけることになったのですが、難局は何とか乗り越えたと思います。全身麻酔で3時間半の手術でした。

 しかし、そのとき初めてわかったことがあります。

 施設の看護師が病院に、義母に処方されている薬の情報を持ってきたのですが、見ると、2種類の便秘薬の他、マイスリー(5㎎・睡眠薬)とロラゼパム(1㎎・ベンゾ系抗不安薬)があるではないですか。処方したのはもちろん「この手の薬は飲ませたくない」と伝えておいた施設の医師です。

 コロナで面会もままならず、こちらとしては知る術もないあいだに、「この手の薬」を勝手に処方している・・・そのことに憤りを覚えました。

 99歳で熟睡できる老人などいません。

 しかもマイスリーとは・・・。

 そう言えば以前、施設の職員から夜中に大きな声を出すという電話があったので、そのせいで、マイスリーやらロラゼパムやらが出たのかもしれません。

 一応、日本老年学会では、ベンゾ系薬剤に対して注意喚起しています。

 

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 不眠症では特にベンゾジアゼピン系の薬の副作用としてふらつき、転倒に注意が必要です。また物事を判断したり、記憶するといった認知機能の低下がみられることがあります。非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬も、ふらつき、転倒が起こることがあります。

 うつ病の薬では、特に三環系抗うつ薬による副作用(便秘、口腔乾燥、認知機能低下、眠気、めまいなど)に注意が必要です。副作用が認知症の症状と紛らわしい薬には、ベンゾジアゼピン系の薬、三環系抗うつ薬の他に、パーキンソン病薬の一部、アレルギー薬の一部などがあります。高齢者では認知障害を発症する可能性を高める薬はできるだけ使わないほうがいいでしょう。

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 こうしたことをこの医師が知っているのかどうか。

 この調子だと、義母のいた施設ではほとんどの老人が同様の薬を処方されていると推察されます。

 もともと便秘症だった義母ですが、「この手の薬」の抗コリン作用によって、さらに便秘が強まったとしたら・・・。

 しかし、多くの医師がまだまだこんなレベルなのかもしれません。

 眠れない? じゃ、睡眠薬。

 せん妄? じゃ、抗不安薬。

 出すなら、頓服で出すべきです。

 本人はもちろん、家族にも知らせずに、定時薬として、知らない間に何年も飲まされるなど、たまったものではありません。