犬と串はこのたび、無期限の活動休止期間に入ることとなりました。

 同時に、劇団員の藤尾勘太郎が、犬と串を退団することとなりました。

 

 

 

 

 経緯としては、藤尾からまず退団の申し入れがあって、それを受けて劇団全体での話し合いを行ったのですが、僕も他のメンバーも、藤尾の件とは関係なく、元々それぞれが思うところはあって、そういった思いを告白しあう中で、「ここでいっちょ活動を休止するか」という結論に全体で至りました。

 

  「思うところ」が、一体何なのか。それはメンバーによっても違うでしょうし、お互いちゃんと言葉にして話したこともあれば、あえてそうしていないこともあるかも知れません。なのでここから先は、劇団の総意ということではなく、あくまで僕個人の話として聞いてください。

 

 犬と串は十年前、早稲田大学の演劇研究会というサークルの中で生まれました。僕は大学五年生で、他の中心メンバーは四年生でした。これはもう、学生劇団としてはだいぶスタートが遅いというか、僕に至ってはこの時点で既にはみ出しちゃってるわけで、結構自分たちとしては、人生の進路決定のようなつもりで劇団を旗揚げたのです。

 

 そういう焦りもあって、当時の僕らはよく、「○○年○○月までに○○を達成出来なかったらやめよう」的な話をしていました。走り出したばかりの若い集団によくある話ではありますが、それでも僕たちは、そのハードルを無理やり越えていく中で、なんとか活動を続けてきました。

 

 ですが、旗揚げから数年後。その決まりを、達成できなかったことがありました。ルール的にはそこで「やめよう」となるべきだったのですが、その時の僕は、「それでも続ける」という選択肢を取りました。

 

 その判断自体が間違っていたとは、正直言い切れません。何せ当初に僕たちが立てた計画は、何も知らない若者の夢だけが詰まった、無茶なモノすぎました。ただそれでも、旗揚げたばかりの自分が、無知なりに見た夢に対して、もっと真摯に向き合うべきだったのかもしれないなと思っています。

 

 最初から今まで変わらず、作品作りは全身全霊を傾けてやってきました。ですがあの頃から、「集団としての夢」を青臭く語りあうことを、少しずつ躊躇うようになっていったのかもしれません。

 そんな中でも、何とか新しい集団の形を模索し続けてきましたが、藤尾の話を受けた今回のタイミングで、活動自体をストップしようという結論に至った、というわけです。

 

 …とまあ、ここまで自分の胸の内をつらつらと書いてきましたが、勿論これが全てということではありません。全ては、到底ここでは書ききれないですし、仮に無限のスペースを貰ったとしても、うまく書けないことは沢山あると思います。それは別に何かを隠しているというわけではなくて、原色からパステルカラーまで、様々な色が複雑に入り混じって出来ているこの色に、もはや名前は付けられないということです。

 

 ここまで一緒に走ってきてくれた、仲間。

 一言だけしか伝えられないとしたら、本当に陳腐ですが、陳腐すぎて死にたくなりますが、「ありがとう」と言いたいと思います。十年間、ほぼ初期メンバーのまま続いてきた劇団というのは、やはり一つの奇跡なんじゃないでしょうか。

 

 話題が話題なので、どうしても悲しい感じの言葉が並んでしまうんですが、間違いなく犬と串は、僕の二十代、そしてちょっとはみ出した三十代を捧げた、大事な場所でした。この場所が、僕が東京で生きていく意味を作ってくれました。毎日が、とてもエキサイティングでした。

 

 僕の理論ですが、劇団には「その主宰が居ればそれで成立する型」と、「それじゃ成立しない型」の二種類があります。犬と串は完全に後者で、仮に僕以外のメンバーが全員入れ替わったとしら、それはもはや犬と串ではないと思います。

 

 そんな、犬と串という活動拠点が機能しなくなった時、自分は一体、何者になるのか。正直、不安はとてもあります。

 

 でも、それでも僕は、もうちょっと、創作活動を続けてみようと思います。これまで、当たり前にあったようなものがなかったりするスタートなんだろうなという覚悟は出来ています。うーん、出来てんのかな。どうなんだろう。分かりませんが、でも、やります。具体的なことは今色々考えているので、もうしばらくお待ちください。何か、楽しそうな話があったら是非、持ちかけて下さいね。今なら今年の秋以降のスケジュール、完全に白紙ですから、いやマジで。

 

 最後になりますが、これまで犬と串に関わって下さった方々、応援してくださった方々、本当にありがとうございました。また、ご期待に添えず申し訳ありません。そして、この二か月間、善意で僕に「次の公演はいつなの?」と聞いて下さった方々、曖昧な返事をしてしまってすみません。本当はずっと、心がチクチクしていました。

 

 結局のところ全ては、これから僕たちがどうやって生きていくかだと思っています。活動再開のお約束は出来ませんが、それでも解散ではなく活動休止という形を取ったのは、数多ある未来の選択肢の一つとして、もう一度集まって何かをやる可能性は残しておきたいと思ったからです。

 

 各メンバーの今後の生き様を、温かく見守っていただけますと幸いです。

 

 重ね重ね、今まで本当にどうも、ありがとうございました。

 

犬と串主宰 モラル