ということで、記念講演の企画をおこないました。


日 時 平成22年5月28日(金)13:30~18:30
      13:30~15:30 青木茂  ・講演
      16:30~18:30 遠藤秀平氏・講演
      終了後         懇親会
会 場 スガツネ 東京ショールーム(東京都千代田区岩本町2-5-10)

80周年 講演の大儀と意味、そして概要

21世紀を迎えて10年が経過した今、世界の潮流はあらゆる面において
大きなパラダイムの転回点にさしかかっていることが、実感をもって
多くの人々にも認識されるようになってきました。

冷戦構造の崩壊以降、IT革命、金融危機、民族衝突、さまざまな変革の兆しに多
くの産業、社会、文化がさらされています。
わが国の建設業においてもその影響は顕著であり、長引く不況の中、公共投資の
激減から、物資の高騰、工事発注価格の減少、市場縮小の嵐はとどまることを知
らないかのようです。
しかし、明けない夜がないように、この激動を乗り切った次のビジョンを模索し
新たな飛躍に向かって準備するときが来ているともいえるのは確かです。
いままでの10年が今後の10年、20年の動きを左右していくことは自明であり、そ
のような時代の要請に応えていくことによってしか、活路を切り開いていくこと
はできません。

そこで、今回のスガツネ80周年記念講演ではそれにふさわしい講師の先生をお迎
えいたしました。

時代を先取りし、今時代が彼らに追いついた、そして彼らが指し示す未来とは、
そんな今後の建築界の荒波を巧みに航海していくための羅針盤となるセミナーで
す。

青木茂先生 講演の概要

リファイン建築とは何か、古い建物を直して使用するとか維持メンテナンスする
ことだけでは、建築の再利用は進みません。
なぜなら、建築には新築されたときの時代的、社会的背景があって必要とされ建
設されるという、いわば社会的機能をもった公的資産のウェイトが高い創造物で
す。
そのため、古い建物を再利用する、一言でいってしまえばそんな単純なことすら
今までなかなか実行できていませんでした。
子供が増えていく時代には当然学校が多く必要になりますし、インフラを整備して
いる時代ではそれらの拠点施設が必要です、生産施設は地域の産業構造を密接
に結びついています。
その社会的要請が失われたとき、それらの建物はどうなってしまうのでしょうか、
当然打ち捨てられたり、機能的に意味を成さなくなってしまったり、維持管理す
ることへの社会的モチベーションを喪失した建築は徐々に廃墟に向かいます。

しかし、建造物はみな長い年月を耐え、持ちこたえることを前提に強度スペック
が設定されています、そのため機能面いわばソフト面が不要になっても、構造面
いうなればハード面は、まだまだ使用に耐えうる多くの建物が日本中に存在してい
ます。

リファイン建築はそれらを社会的ストックと位置づけ、資産として蘇らせること
が目的の、新たな建設産業の市場創造をになっているのです。

建築から数10年を経過した建物を技術的にも文化的にも分析し再定義することで、
新たな価値を見出し、新たな建築的使命を創造し、次の世代に受け継いでいくことが
リファイン建築の醍醐味です。

等、セミナーでは過去10数年間のリファイン建築の事例を学び、現在進行形のリ
ファイン建築の手法を知り、次の時代のリファイン建築を参加者全員で模索する。
そのことによって、日本の建設産業の技術的価値や人的資本を無駄にしない、活
かしきる、そういった大きな社会的大儀を見出していただきたいと思います。


遠藤秀平先生の講演概要

Paramodern建築とはなにか、20世紀はmodern建築の時代でした、それまでの建築
デザインがヨーロッパ文化の発祥地であるギリシャ、ローマ建築を理想とし、中世の
キリスト教文化を胚胎して発達した様式の積み上げであったことを、モダン建築は、
社会運動の一端として自由な発想で颯爽と塗り替えていきました。
20世紀に登場した新しい素材、コンクリートやスチール、プラスチックが可能にする、
プレーンで抽象的な立体形式や、機械の構成方法にもにた機能的モジュールや
部品の組上げによる建築デザインの表現形式です。
モダニズムとはその時代に芽吹いた建築思想なのです。

一方、Paramodernとは、遠藤秀平氏が掲げる建築コンセプトを表わす造語です。
Para-次の、超えて、別の、そういった意味の接頭語を冠することで、遠藤先生は、
modernという前近代の圧倒的な建築文化のテーゼに挑戦する果敢な試みを総称
しています。

戦後数十年の間、わが国の建築界もアプリオリにmodern建築の考え方を無自覚に
前提としてきました。
その結果として、多くの町や都市が一定の機能的価値をもち、普遍的な利用を可
能にし、一定の投資効率を得ていた時代が長く続きました。
この平均的な街を平均的に作り出していくモダニズムの思想が近年、その役割を
終えようとしています。

つまり、どこでもいつでも同じタイプに建築が無尽蔵に建設されていったことに
よって地域や都市の周辺環境が徐々にその輝きを失っていったのです。
それは、個別の建築技術においてもそうです。
大量生産や定量評価に向いた構成部材が、圧倒的な利便性を獲得して流通システムが、建設手法のシステム、ひいては建築デザインを規定してしまっているのです。

Paramodern建築はそうしたモダニズムの一般化過程で失われようとしている先鋭
的な実験精神や、新規の空間を生み出す想像力を、再度作り手の手の中に、個人
の創造性の範疇に取り戻そうという大きな思想を宣言するものなのです。

建設場所ごとに提案される建築形態、構造システムごとに吟味された構成部材、
の結果現れる新たな空間は、自由に巻き取られた鉄板や、ふんわりと包み込む金
属皮膜、自由なボリュームを獲得しようとする多面的な構成方法などによって、
誰にもわかりやすく、楽しげで、爽やかで、若々しく、力強い。
何が何とどのように結びついて建築空間が実現されているのかを明示しながらも、
決して専門家向けだけの説明的でない自由な建築精神、そういったものを目の当
たりにして、次世代の日本の建築文化の進むべき方向を考えていく機会としてい
ただきたいと思います。


という内容です。