高校生を42㍍はねて死なせ「執行猶予」 無念の遺族 検察に控訴嘆願 | 近江毎夕新聞

高校生を42㍍はねて死なせ「執行猶予」 無念の遺族 検察に控訴嘆願

 前方不注視のまま違反のハイスピードで交差点に進入し、横断歩道を徒歩で渡っていた男性高校生をノンブレーキではね飛ばして死亡させたドライバーの男に下された判決は「禁固三年、執行猶予三年」。高校生の親は、そのあまりに軽い量刑に驚き、絶望し、「息子の命の重さに見合う厳罰を」と検察に控訴を嘆願。控訴期限が迫るなか、家族が必死で嘆願署名活動に取り組んでいる。
 検察の控訴を嘆願しているのは、元米原市高溝の公務員、大槻浩二郎さん(46)と妻の真里子さん(41)。昨年二月二十七日の事故で死亡したのは、彦根東高校の二年生だった長男、祐仁(ゆうと)君(当時16)。
 電車通学していた祐仁君は、坂田駅から徒歩で帰宅途中、自宅近くの市道交差点を横断中に普通乗用車にはねられた。警察の調べなどによると、乗用車は制限時速四十㌔の市道を二十~三十㌔オーバーするスピードで走行し、ノンブレーキのまま祐仁君に衝突。祐仁君は四十二・七㍍もの距離をはね飛ばされて頭を強打し、脳を損傷。植物状態のまま、病院の生命維持装置につながれ奇跡的に命の火を灯し続けていたが、事故から八十四日後の五月二十一日に十七年二カ月余りの生涯を閉じた。
 祐仁君をはねたのは米原市梅ヶ原在住で長浜市内の大手企業に勤務する男性(46)。事故直後、現場で「前をまったく見ていませんでした」などと話していたという。十一月四日から大津地裁長浜支部で始まった会社員男性に対する過失運転致死事件の刑事裁判では、検察側が、速度超過、交差点での徐行義務、横断歩道手前での徐行義務の三件で違反があり、「前方注視のおびただしい欠如」が事故原因とした。男性が過去に複数回、スピード違反で検挙されていることや、事故現場を「人が通らない道路だと思っていた」などと供述していることから、新興住宅地内の帰宅時間帯の道路に人車が通行することは充分に予見できたとして、男性に安全運転意識の深刻な欠落があったと断じていた。
 車の前方は大きく割れてへこみ、祐仁君は約三十㍍、バンパーに挟まれるようにして飛ばされ、車が急ブレーキをかけたことで前方へ約七㍍投げ出されたことが判明している。男性は取り調べに対し、時速六十~七十㌔で走行し、車から横断歩道に人がいることの確認できる五十㍍弱手前ですでに前方を見ていなかったなどと供述していた。真里子さんらは独自に現場を検証し、車が六十㌔で交差点に接近すれば歩行者ドライバー双方が、充分に双方を回避できると判断。事故時、前方不注視の距離が長過ぎ、交差点手前で前方を見ないことは不自然だとして、携帯電話や車載オーディオを操作しながら時速八十~百㌔の猛スピードで運転をしていた可能性を指摘。昨年六月に検察に提出した上申書で再検証を求めていた。
 また、遺族の上申書や裁判の意見陳述では、男性が直接謝罪を行おうとしないこと、電話連絡も事故後五カ月間で実質四回、うち一回は祐仁君の祖母に面会しているものの、六月二十日以後は連絡がないことなどを切々と訴えた。
 控訴期限は今月三日の判決から二週間以内に限られていることから真里子さんらは、親族、知人らに嘆願署名を求めたほか、六日に続いて八日午後四時から、JR長浜駅頭に立ち市民に控訴に賛同する署名を求める。
〔写真〕事故から84日間、意識のないまま懸命に生きた大槻祐仁君