2016年9月18日の晩 
私の師匠 関侊雲先生のさらに先生の斎藤侊琳先生が急逝されました。



18日の晩 先輩から電話を頂き、斎藤先生が亡くなられたことを知りました。
一瞬頭では理解できずにいたのですが、次の日工房に行き、本当に斎藤先生は亡くなられてしまったのだと、もう直接学ばせて頂けることは叶わないのだと、とても悲しくなりました。


私の父は社寺彫刻家です。
子供の頃から父の仕事を見てきました。けれど、見てきたというだけで「彫ってみたい。自分も将来仕事にしていきたい」という気持ちにはなりませんでした。
ただ「父の仕事はすごい仕事だなぁ」としか考えていませんでした。
恵まれた環境にありながら、誰よりも学べる機会がありながら、その環境やチャンスを無駄にしてきました。
もっと早くに彫刻の世界に足を踏み入れていたら斎藤先生から直接学ばせて頂ける機会があったかもしれないと、頭の中が一杯でした。


入門当初、関先生より教えて頂きましたことがございます。
「斎藤先生は年をとられて手が震えていても、仏画を描かれる筆先だけは微動だにしない」と。
紺野先生より、斎藤先生の使われていました道具(ノミ)を見せて頂ける機会がございました。
「斎藤先生は機械を使わず彫刻刀を全て手で研がれる。そして、ぴたっと平に研がれる」と。
拝見させて頂きましたノミは、とても綺麗で刃先までブレることなく、平に研がれていました。
関先生、紺野先生より教えて頂けます斎藤先生の御言葉、お人柄、彫刻を彫られることに対しての姿勢、聞ける機会がありますことがとても嬉しく、けれど今の自分の中でしっかりと受けとめなければならないと感じます。



生前 斎藤先生に二度だけお会いすることができました。二度目にお会いできたのは7月に開催されました斎藤先生の個展です。
いつも作品集などで拝見しておりました作品をどうしてもこの目で見てみたくて、関先生、紺野先生にお願いし、始発の新幹線で富山県の会場まで行かせて頂きました。

今まで作品集でしか見たことのない作品が並んでおり、大変感激致しました。

そしてなによりも、斎藤先生にお会いできましたこと、「東京からわざわざ来てくれてありがとうね」という御言葉を頂けましたことは、ほんの一言ではございますが、一生の宝物です。


なかでも、とても心に残っております作品がございます。 

〔猿〕





本来ならばあまり見ることのない底の部分にもノミが入り、細やかに彫られた〔猿〕は、命が吹き込まれたように温かみがあり、とても可愛らしい作品でした。

本当にあのような機会を頂きました、斎藤先生、お時間を下さいました関先生、紺野先生に感謝申し上げます。



これからの修行で本当に多くの彫刻に出会っていくのだと思います。
けれど、修行の始まりに斎藤先生に出会えましたこと、作品を拝見させて頂ける機会に恵まれましたこと、心から幸運だったと思います。

学んでいかなければならないこと、学んでいきたいことは本当に多くございますが、一つ一つ歩みを進め、目の前のことから逃げずに修行に励んで参りたいと思います。



斎藤先生 誠にありがとうございました。
ご冥福を心よりお祈り申し上げます。




合掌





最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。
失礼致します。