珍しい時間に投下。
この時間帯のイメージなお話なんですよ。



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夜の街を彷徨い歩く男と
夜の道に何かを画す少女


何処か歪で

何処か行き詰まった

ふたり


街灯が灯すアスファルトの上で
夢を失くした男と
孤独を抱く少女


夜道で出逢う。




『月夜を共に。』



眠らない街なんて呼ばれていても、流石にこの時間では昼間の雑踏が嘘のような静けさ。
それなのに、灯りの消えないビルディングの群れと街灯が人工的に闇を濃くしているみたい。
ひとの気配が少ない、車の一台も通らない、そんなアスファルトに舗装された車道の真ん中にしゃがみ込む。
サンダルの足もとと、白いノンスリーブのワンピース。
剥き出しの肩が少しだけ肌寒くも思えた。
片手に持った白のチョーク。


お母さんは今日も帰らない。
新しいお父さんは私を見ない。
お姉ちゃんは……いなくなった。
家に居場所のない私。
こっそりと抜け出した夜の道に
白のチョークで……叶わない夢を描く。





「風邪ひくよ?」
肩にぱさりと掛けられた上着のぬくもりと優しい低い声、アスファルトの上に長い影が伸びる。
「………雨、降らなくてよかったね?」
私の隣に立つダメージデニム。
「道路規制の許可が下りたの今夜から3日間だけですもんね。」
仰ぎ見るとくしゃくしゃのシャツをだらしなく着て、野暮ったい丸い眼鏡、ぼさぼさの髪にセットされたひと。
信じていた戦友とも言える親友に裏切られ、研究の成果を奪われた事によって自暴自棄になってしまった男を演じる、このドラマの主演俳優。
「そうだね。やっぱり、セットよりもロケの方がリアリティが出るからね。」
彼の演じる男が私の演じる少女がアスファルトに描いた落書きを見つけるシーンからはじまるこのドラマ。
タイトルにあるように夜のシーンが多かったが、雨のシーンはないので梅雨のこの時期に雨粒が落ちて来ないでいてくれてるだけで儲けものだ。
ひとも車も規制された夜の道路、リハの途中での中断だからその場所から動かずにいる私たち。
少し離れたところにライトとカメラ。
慌ただしく動き回っているひとの様子から、まだもう少しリハの開始には時間がかかりそう。
カイン兄さんとはまた違った方向でひとから避けられそうな衣装の癖に………嫌になるくらいに私を惹きつけるひとから視線を逸らすように空を仰ぐ。
ただでさえ星の少ない都会の空には、曇が一面に塞がり月の姿も見えない。
天気予報でも予測された通りの空…………わかってたのに、どこかがっかりしてしまっていた。



だって…………敦賀さんと月が見たかったの。
今夜のストロベリームーンを



わかってた筈のことなのになぁ……
「敦賀くーん、京子ちゃーん、ごめん!もうちょっと待機で!!」
監督からの声に了解と頷いてみせて、夜の空からアスファルトへと視線を這わせた。
ジクジクと痛むような胸の奥、きっと変な顔をしてしまってるだろうから薄暗い夜の撮影で良かったなんて思っていると
「あ……今日、満月なんだね。」
ぽつりとこぼされた小さな低い呟き。
思わずに顔を上げれば、いつの間に雲が動いたのか重たい雲の切れ間に、薄っすらと朧雲の中にまぁるい光。
ほんのりと色付くみたいな薄紅色。
手を伸ばしても伸ばしても届かない高みの空に浮かぶ孤高の月。
それなのに、更にその上、私を嘲笑うみたいに遮るベールを張る薄雲。
お前の手は届かない………そう、突きつけられてるみたいで………あんなに一緒に見たかった月なのに泣きたくなってきた。
馬鹿だなぁ、本当に愚かで嫌になる。
それでも………夢を見たかった。
ちゃんと理解出来てるつもりでいたのに。
私の恋は、報われない。



「月、綺麗だね。」


不意に、聞こえてきた敦賀さんの声。
不思議に思って見上げると、そこには私を見る何処か真剣な色をしてる黒の瞳と目が合ってしまった。
「雲のない空の月もいいけど、さっきみたいな薄曇りの空の月はより一層優しい光に見えて………月が綺麗だよね?」
夜の空に浮かぶ月より、敦賀さんのその瞳に魅入られたように、声も出ないし目も反らせない。
「敦賀君、京子ちゃん!お待たせー、カメリハ再開するよー?位置に付いてねー!」
監督の声に、大袈裟なほどビクリと肩を震わせてしまった。
シーンスタートの位置へと戻って行く敦賀さんの背中。
だ、だだだだだ大丈夫、大丈夫ですよ!
敦賀さんのあの言葉に意味なんてないって、ちゃんとわかってますよ!
そう!だって……ほら、てんてこ舞いも知らなかったお方ですもの!?
しゃがみ込んだまま、髪で隠すように顔を伏せた。




敦賀さんの、今夜の満月が綺麗だと言ったさっきの言葉に…………私、死んでもいいかもしれないなんて考えてしまうだなんて




焼けたみたいに熱くなってしまっている頬を、緩い夜の風が撫でていく。
あぁ、もう本当、夜の撮影で良かった。





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I  LOVE  YOU  を、夏目漱石は「月が綺麗ですね?」二葉亭四迷は「私死んでもいいわ」と訳したとされるらしいですが、蓮さんはご存知だったんでしょうか?
どうでしょうね?


さーて、某飴なぅで敦賀さん度が高いと言われている私の夫。
今日、帰ってきてからちょこちょことやたらとベランダを気にしてたんですよ。
どうしたんだろう?外に何かいるのかと思って聞いてみれば……
一緒に月が見たかったんですって。
今夜の満月、ピンク色なストロベリームーン。
んで、好きなひとと一緒に見ると結ばれるそうですよ。
………………いやいや、今更結ばれるもなにも既に妻ですけど?乙女かっ!?
更には雨ですよ?月なぞ欠片も見えませんでしたとさ。笑
(・Д・)ノ


そっからなんとなくぽちぽちと作ってみた月の夜なお話でした。



↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。

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