七夕なものを思いついて、なんとかぽちぽちと作ってみたはいいが………甘さもないし、なっがい。
そんで、ひじょーに中途半端なものとなりました。
けど、まぁせっかくの七夕ものですし?なんでもありで大丈夫でおヒマな方はよろしければお付き合いくださいましー。
( ´ ▽ ` )ノ



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その日、撮影の関係で朝一なんて珍しい時間に蓮と社が顔を出すこととなった業界でも最大手である所属事務所のビル1階の広大なフロントの景色は、前日とは一変して一面緑に染まっていた。
「今年もまた……本格的だな。」
「まぁ、社長に掛かればなんだってお祭りさわぎになりますからね。」
慣れたとは言え、これでもかっとひしめく程に群生する笹飾りを見上げ、呆れたような社と苦笑を浮かべた蓮。そこへ
「本日、事務所へいらっしゃいました全ての方に記入していただく事となっております。」
と、いつもあの名物社長の傍に控えている褐色の肌の男がふたりへと短冊を差し出す。その装いは漢服であり、たぶん社長が登場するあたりでは織姫もきっと登場するだろうと予想された。
渡された短冊。
「無記名でいいらしいし、お前だって神頼みしたい願いだってあるだろ?」
少しニヨっとした雰囲気の社が頭に浮かべているのは、きっとラブミーピンクな蓮のつわものすぎる想い人の彼女だろう。
「……………」
「ありがたいことに敦賀蓮にやって来る仕事よ依頼は千客万来だし、蓮くんは仕事人間でお休みもあんまり欲しがらないからなぁ。健康面も最近はお説教してくれる力強い味方がせっせっとごはん詰め込んでくれるからますます万全だもんなぁ〜、蓮くんが頼みたいのはそんなありきたりなお願いじゃないもんなぁ〜。」
おもしろくない顔をしまっている蓮を置き去りに社は迷いなく短冊へと願いを書き込んでいく。
はぁっと、小さくこっそりため息を吐いてから諦めた蓮も短冊へと手を伸ばした。


さやさやと涼やかな音をさせている笹の葉。
そこにくくり付けられた青碧色の短冊、それを見上げてうんうんと満足気に頷いている社。
少し離れたところには、浅紫色の短冊を手に取って見ていた蓮。
「社さん、今年に入ってから携帯変えたの何度目でしたか?」
「…………………5回目」
しょんぼりどんよりと沈み込む社に、明後日の方向へと視線を泳がせた蓮。
「叶うと…………いいですね。」
そんな会話を交わしながら、目的のフロアへとエレベーターのボタンを押した。



こうして、本日7月7日の芸能事務所LMEの1日がはじまったのだった。




*****




色取り取りの羽衣を着た女性と織り機の奏でる音、更には牛飼いと言うより皇帝と言えそうな派手派手しく装飾された漢服の社長が乗り回している暴れ牛ですか?な勢いで走り回る牛なんかの賑わいで溢れている事務所のフロントフロア。
さわさわと鳴る笹の葉とそれに吊るされた色取り取りの短冊。
その下に、煌びやかな飾りに少しメルヘン思考へと浮かれた様子の少女がひとり。
高校から事務所へと直接やって来たのでに制服姿な最上キョーコである。
笹の葉を見上げ、うろうろキョロキョロと彷徨うキョーコの視線。
『せめて携帯だけでも手袋なしで使えますように』
そんな願いの書かれた短冊を見つけて、あーと納得したような少し困った笑みをこぼしていた。
けれど、その笑顔はその短冊から少し高い位置に揺れた一枚を見つけると、一変して感情が消え去ってしまう。
記名もなく、ただひとことを書かれた青碧色。その文字を書いたひとを特定出来てしまったのは、信者としてデータ収集に精を出したせいだったのか………書いてあるその願いのせいか………
茫然と立ち止まった脚、凍り付いたような色のない瞳からは涙すら落ちないまま。
キュッと唇を強く噛んだキョーコ。
その手の中で紅梅色の短冊が、くしゃりと微かな悲鳴をあげた。




*****



来客のピークを越えお騒がせな社長のパレードも終わり、ひとの疎らになっている事務所フロント。
朝に見た緑一面から、カラフルな色合いの短冊に飾られた笹の群生。
本日の業務の終了報告へと事務所に帰ってきた社と蓮、ふと何気なく視界の隅を掠めるような感覚を覚えて笹飾りへと向かう。
笹の葉の群れの奥、人目を避けるように隠すように吊るされていたくしゃっと皺の走った短冊。
その願いを見た蓮の顔からは、何時もの穏やかな笑みが消える。
ヒンヤリと底冷えするような気配に、ひーーーなんでいきなり闇の国の方に豹変?と恐る恐るその短冊を覗き込んだ社。
そこに並んだ文字。それは、日頃ラブミー部への依頼のやり取りなんかで見覚えのある綺麗な書体だった。
「………彼女の『願い』は……まだ、復讐のままなんでしょうか?」
彼女がこの世界へと飛び込むきっかけとなった動機の願望。
「社さん、すみませんが……送って行けませんので今日はタクシーで帰ってください。」
ぷちりと、密やかな音を立て紅梅色の短冊は蓮の手によって笹飾りから奪い取られた。




*****



もうとっくに夕日も落ちて暗い色へと変わり出し、もう少しすれば七夕のメインである星が煌めき出すだろう頃合い。
けれど、明るい街明かりと薄く立ち込める雲に覆われた星の気配もない空。
事務所の屋上にポツンとあるベンチに座りそんな空を見上げていたキョーコ。
膝の上に置かれた手の中に、縋るように握り込まれた小さなガマ口。その中にあるキョーコの魔法の石。
悲しみを失くしてもらいたいのに………その魔法の石に、更に悪い魔法を掛けた男を思い出してしまい開ける事の出来ないままでいたガマ口。
ガチャリと、そこへ屋上への鉄の扉が開かれる音がした。
途端、ぞわりとキョーコの背中を走る震え。にょろにょろと嬉しげに躍り出る怨キョたち。
「あぁ……最上さん、やっと見つけた。」
こわごわおずおずと振り返ったキョーコが見たのは、キュラキュラと輝かしく笑う蓮だった。
椹さんに聞いてみたらまだ帰ってないみたいだって言ってたから探してたんだなどと言いながら、ぶるぶると小動物みたいに怯え震えるキョーコへと、蓮がゆっくりと歩み寄る。
カツカツと鳴る靴音がキョーコの前で止まると
「ねぇ、この『願い』はなんで?」
のそりと落ちた低い声と、差し出された短冊。
紅梅色の短冊に書かれた願い。
『私の願いが叶いませんように』
彼女の復讐が叶わないように………まだあの、キョーコを酷く傷付けたあの男に囚われ続ける事を望むのかと、蓮の瞳に仄暗い怒りが揺れる。
「そんな事………許さないよ?」
きゅっと小さく身を肩を竦めるだけで、その場から動くことの出来ないキョーコ。
キョーコを閉じ込めるように座るベンチの背もたれを掴んだ蓮の両手。キョーコへと覆いかぶさるような蓮の影。
「ど……し、て……そんな……だって…」
驚いたように蓮を見上げるキョーコの大きな瞳。震える唇から落ちたつぶやき。
「だって……なに?」
微かなそれの先を促す低い声。
キョーコの瞳に映っているのは、彼女が過去ニワトリの着ぐるみの中で見た大切なひとは作れないと言っていた時みたいなあの辛そうな蓮の表情。
そんな顔をしてほしくなかったから……だから、キョーコは短冊へと願ったのに。 
『想いが届きますように』
青碧の短冊に書かれた蓮の願い、その成就を祝えないどころか蓮の願いが叶わなければいいなどと願ってしまったキョーコが、泣きそうな思いで吊るした願い。
それを、許さないと言う蓮の言葉と表情がキョーコを混乱させ、迂闊にも唇からそのままこぼれ落ちていく。



「だって、敦賀さんが………敦賀さんが願ったから」





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さーて、すれ違ったまんまだよ。
がんばれ、蓮くん!!←




↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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