注意。
 
長めな上に頭っから最後まで松くん、たっぷり!だよ。
タイトル通り別にヤツが良い目に遭ったりはしてませぬが、お嫌なら今のうちに逃げ出してくださいまし。
 
 
 
あと、甘くもなんともないですぞー☆
( ̄▽+ ̄*)
 
 
 
 
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「っ……だぁぁぁぁっ!!」
 
 
 
アレンジに悩んでいたギターリフの音撮りが試行錯誤を繰り返しを経てやっと終わったばかり、このドアを開けるその寸前までは手ごたえを含んだ疲労感と心地良い達成感で満ちていた筈だったのに。
スタジオにある個人用に用意された控え室のドアを開き、誰も……嫌、居たとしても彼のマネージャーくらいのものな筈のその室内に悠々とまるで当たり前みたいに優雅にソファーに腰掛けて居た男の姿を見つけて、未だにこの国の音楽シーンのレーベルトップを走り続けているロックアーティストは高らかに怒声を響かせたのだった。
「なんだってあんたがここにいやがるんだよ!?関係者以外……特にあんたは名指しで立ち入り禁止を徹底しといた筈だぞっ!!」
苛立ちをたっぷりと含んだ声で、もう嫌だとアピールするように髪をぐしぐしとかき乱す尚。
もし、ここが彼の自室であったならばその辺りにある家具でもなんでも蹴っ飛ばして八つ当たりしそうな勢いで。
「酷いよね……前まで顔パスでひょいひょいと通してくれてたのに。おかげでここまで来るのに、握手を2回とサイン一枚必要だったよ。」
やれやれと、芝居掛かった仕草で手のひらを上にして肩を竦めてみせた男は、この彼の控え室までの潜入に要した賄賂を語ってみせた。
顔写真まで配布して厳重注意していた筈のスタッフが、あっさりと目の前の男にタラしこまれて買収された事実にチッと舌打ちをして男が座ったソファーから一番離れた背の高いスツールにドガッと腰を落とした尚はウンザリと、それはもう心底ウンザリとした諦めを含んだ声で問う。
「んで…………今度は何しやがってあいつを怒らせたんだよ、えぇ?クオンサンよぅ?」
キラサラと輝くブロンドの髪、それさえ視界に入れたくもないと言わんがばかりに目を逸らしたあからさまに嫌々だとアピールした態度で。
 
 
 
 
 
「はぁぁ〜?ついうっかり食べ忘れて食事中の証拠ムービーを撮れなかっただぁ?」
前々から、それこそデビュー前から目に付いて気に入らなかったやつがハリウッドへと活躍の場を年単位で移したってのに、とうとうほにゃららな男NO.1の座を譲りもせずに殿堂入りしてのけて、更には凱旋と同時にその素性と実の姿で恐ろしい程の化けっぷりを暴露したあげくに、尚の幼馴染を掻っ攫っていきやがった俳優。
「ったく、何食分撮れてないんだよ?」
煌びやかで派手な外見で「リアル王子様」だとかまで騒がれきった男がこぼした、尚の幼馴染の怒りを買った要因のくだらなさに、はぁ?と顔をしかめたアーティストがしょうがなしに聞く。
「……6日中、8食…………撮れたのが。」
新進気鋭、向かう所敵なし飛ぶ鳥落とすとまで言われそうなアメリカ帰りの俳優はばつが悪そうに白状した。
「んだと?殆ど一日一食じゃねぇか!?ふざけてんのか!食事は一日の活力の源だぞ?」
聞きしに勝る久遠・ヒズリの食生活への無執着っぷりに本気で腹立たちそうにそう述てみせた尚に、キュラッとした一見輝かしいくせにグサグサと刺々しい笑顔を向けたクオン。
なんて事は無い、ただ怒り方が愛しいあの娘と同じ言い回しだというのが気に入らないだけなのだが……
そんなふたりの耳へと、カツカツと苛立たし気な速いヒールが立てる足音が聞こえて来たのだった。
 
 
 
 
 
尚はこの部屋のあるじである筈なのに、壁側の鏡台に向かって頬づえを突きげんなりとしていた。
そして、そんな尚など目もくれずにぷりぷりと怒りをあらわに懇々とお積極をしている本格派の名高い売れっ子女優と子犬じみた気配でどこか嬉しそうにしている俳優。
ごめんね、キョーコと一緒でないと美味しいと思えなくて……それに、向こうの食事はなかなか口に合わなくって、なんて甘ったるい声でお前の国籍は元々あっちだろうがっ!とツッコミたくなるような言い訳を口にしてるのを背後に聞き流していた筈の尚。
チラリと目の前の鏡に目をやったタイミングが悪かったのか、鏡の中では幼馴染の華奢な身体を抱き寄せてその耳もとへ唇を寄せ何かを囁いている気に食わない男が映っていた。
絡みつくみたいにキョーコの首すじから耳もとに手を這わせる男が囁いた言葉の内容は聞こえなくとも、その妖しいまでに滴るような夜の色香と吹き込まれた途端に見る間に真っ赤に染まるキョーコの頬がありありとその如何わしさを物語る。
鏡の中、尚の前では見せもしなかったぞくりとするようなキョーコの女の色気に、何も出来ずに目を奪われてしまっていた。
 
 
 
 
 
「っ!!……も…もぅ……コォーンの、ばかっ!破廉恥大魔王ーーー!!」
そんな肺活量を活かしまくった耳の痛くなるような叫びを残して、やって来た時同様に颯爽と逃げて行ったキョーコ。
「かわいいだろ?俺の奥さん」
ひとことも……憎まれ口どころか挨拶さえもないままに居なくなった幼馴染と、鏡越しにクスリと満足気に小さく笑みを浮かべてみせる男。
「俺の」にしっかりくっきり強調のアクセントが置かれてる辺りにもう苦々しい苦笑も出ない。
「…………あんた、ワザとやってやがるだろ?」
毎回、こんな痴話喧嘩の度に尚の所へと逃げ込みやがる俳優にいい加減に勘弁しやがれとうんざりしてみせる。
「ん?…………偶には吐き出させてあげないと、ギリギリまで溜め込んで我慢してしまう娘だからね?」
尚には、頼る事も泣き付く事も弱音を吐く事さえせずに……ただ、笑って尽くしていた幼馴染。
その関係を壊した頃から、顔を合わせば喧喧囂囂とケンカ腰でやり合っていたやり取りさえも、もう尚から取り上げてしまった男。
「ケッ!……さっさと帰りやがれ!二度と来んなよっ!!」
取り返せない過去がチクリと胸を刺す痛みを搔き消したくて、吐き捨てる。
 
 
 
 
そんな尚に執念深い男は告げる。
「おや、つれないな。君が俺を嫌いでも……ある意味、俺は君を好ましく思っているのに」
さらりと、ごく当たり前のように。
はぁ?と、盛大に顔を顰めてみせるトップアーティストへと。
「君も、今の彼女を形作る要因のひとつだから。君が居なければ、君が彼女を傷付けてこの世界へと呼び込まなければ……出逢えなかったかもしれないしね。」
先ほど勢い良く閉じられたドアの向こう側に、走って行った愛しい存在をうっとりと想い描くような瞳で、あぁ……でも、執念でキョーコを探し出してたかもしれないけど…なんて、笑えないような事を零しながら。
 
 
 
心底、それこそ息の根さえ止めたい程に、ひとりの女を巡って張り合っていた筈の尚の存在さえ……今のキョーコがある為の要因のひとつだと認める言葉。
胸を巣食う敗北感なんて認めくもないまま、黙り込んだ尚に
 
 
 
「最もまぁ、それ以上にどうしても気に食わない存在なんだけどな。」
 
 
 
と、優しげなようで辛辣な気配たっぷりな低い声で、ニヤリとあからさまに勝ち誇った笑みを男は見せた。
その表情に、この男はまだまだこれからもワザとキョーコのガス抜きなんて言い訳で、ただ尚に見せなかったようなこいつだけのキョーコをチラッと見せ付け思い知らせる為だけに自分のもとに侵入しやがる気でいやがると感じ取った尚。男が敦賀蓮と呼ばれていた頃から端々に感じ取れていたその恐ろしいまでのキョーコへの終着と執念深さに、今からでも遅くない。バツイチでもいい、思い直せ?なんて諦め悪く考えてしまっていた。
 
 
 
 
「駄目だよ、もう俺のだからね。」
 
 
 
 
あらゆる手を尽くしそうな本気を含んだ低い声で、今更にザックリと釘を刺す執念深い男。
またね、とさらりとこれからも続ける嫌がらせの予告を残して優雅に立ち去って行った男に、やっぱりどこまでも嫌なやろーじゃねぇか!!と頭を抱え、はぁぁぁーとため息しか出ない尚だけが虚しく残っていた。
 
 
 

 
 
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キョコさんは結構サラッと怨みとかなかったことにしそうですが、蓮さんは特に松くん絡みはいつまでもねちねち甚振ってそうなイメージががががが……
(°Д°;≡°Д°;)
 
 
 
 
しっかし、三人称にするとねっちりして読みにくい文章になってしまうのですが大丈夫でしたかしら?
(´□`。)
三人称も書くの、好きなんだけどなぁ〜。
 
 
 

↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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