The sunshine underground -after life-2
いま、お前はどこにいるんだ、音量を最小限に絞っているにも関わらず、鼓膜に食い込むような、耳触りな声。そして、その声は僕を咎めているようだった。
電話の相手は……言うなれば僕の飼い主だ。主人の機嫌を損なうと僕は食べることさえままならない存在なんだ。
相手の感情、気配と云うものは素早く察知しなければならないらしい。真っ直ぐに気分を言葉にするのはこの国においてはあまり喜ばれないことだと知った。誰に教わったわけでもない、ただ、アンダーグラウンドを離れ、それを保有していたニホンと云う国に暮らすようになって気づいた。
「別に……ただ、少し外の風に当たりたくなっただけです」
噛みつくように所在を聞き続ける電話相手に、僕はそれだけ言って切り、携帯電話の電源をオフにした。
被験者A。
それがいまの僕のもう一つの名だ。軍は本国に乗り込んだ僕の身柄を拘束し、騒動が収束したあとは「抗体を持つ世代」として、ある機関で検体として、ありとあらゆる手段で僕を調べあげた。
あの特殊な環境下で生まれ育った人間は恰好の研究対象だったわけだ。
動物園ってものがあるんだ、ガゼル。野生動物を鉄の檻に封じて見世物にしてるわけなんだけど、捕食動物であることを忘れてしまってるんだ、外敵もいないそのなかに生きるのはどんな気分なんだろう。
僕はそのなかにいる動物たちを観ながら、自分自身の姿に重ね合わせたことがある。
いっそ牙など持たずに生まれてくれば、そんなふうに思ったりするんだろうか。
それとも安住の地を与えられて、その幸運に身を委ねているだけだろうか。
分からない。
分かりたいとも思わない。
かなりの制限こそあるものの、すでに僕は研究対象ではなくなって、少しだけの自由を手にすることができた。
お払い箱ってことだろう、だけど、僕は、闇にされた歴史の生き証人だ、檻から解放されても、首輪は外されていない。
生き延びるためには、選ぶ方法がなかったんだ。
あの海を望む高台から、遠く霞む島を見ている。その僕を見ている者がいる。皮肉なものだ。見放されて生まれた子供だったのに、大人になったいま、何処に行くにも監視されてる。
なあ、ガゼル。
僕はまたあの時のように、再び牙を剥くことができるだろうか。
もう一度、島に目を凝らす。眉をしかめ睨んだところで、あの鉄塔は見えやしない。
僕は……あのころを捨て、忘れたふりをして生きなきゃならないんだろうか……。
……続劇