「大嘘つきのロイ」
ペテン師の家系に生まれた、祖父は国をまるごと売り飛ばし、
父の代では不毛の辺境、一家は終わり近づく孤島に逃げた、
貧民たちが息を潜めて暮らす地は、正しいことに価値はなかった、
神を語れば小銭が散った、甘いだけの愛を歌えば、それがパンとミルクの糧に、
街には自称の詩人があふれ、その場限りを繕って、
一瞬だけの癒しを金に、
嘘つきロイは青年期を迎えると、二度と戻らないと誓った、
誰に誓うわけでもない、言い聞かせたのは自分自身、
信じる者などこの世にいない、島を離れて遥々と、
過密極まる都市へゆく、あらゆる嘘が息づく場所で、
嘘つきロイは干からびオレンジ吸いつく子供、
西の森ならいくらだって実がなってると、
救い求めてひざまずく者、彼女らには見下ろす下に神がいる、
頭垂れることはない、頭上にあるは虚空に過ぎぬと、
嘘つきロイは街灯下、群集たちを集めては、
この世界の美しさと生きることの素晴らしさ、
溢れんばかりに満たされる愛、そのありかを欠伸殺して語り続けた、
世界に加虐も被虐もありはしない、老いも若きも無関係、
美醜も人を隔てない、すべての命にありとあらゆる救済が、
同等たる魂が、ただそれが真理だとさえ言い放つ、
誰を傷つけるわけもなく、ただ小さな光を燈す嘘、
やがてロイは扇動者の札さえ貼られ、加虐者だとされ手配書が、
「真偽のどちらも吸い殻程度さ」
そう嘘ぶきながら、赤い舌出し、
タバコをくわえ、今日もまた陽に背を向ける、
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