「あっ、お疲れさまです!」
「森本部長、本当にお世話になりました。
今の私があるのも、部長のおかげです。」
「ああ、いやいや、ロウシもよく頑張ったよ。」
「ありがとうございます!(笑)
では、一応形式どおりご説明始めますね。」
「森本部長は3ヶ月後の9月26日60歳の誕生日を迎えられますので、就業規則第62条に則りご定年退職となります。」
「当社では高年齢者雇用安定法の定めにしたがい再雇用制度を設けております。
部長が雇用継続を希望される場合、『再雇用社員就業規則』に則り65歳の誕生日まで当社での雇用を継続することができます。
お給料は年収400万円をベースに会社への売上貢献度により増加額が査定されます。」
「再雇用を希望されますか?」
「って、されないですよね(笑)
奥様との海外旅行・ご友人とのゴルフ三昧の生活を送られるのですよね。ホントうらやましい。(笑)」
「それなんだけど、再雇用を希望しようかと思っててね。」
「え!そうなんですか?」
「実際、阪神大震災で立て直した家のローンも残っているし。友達も息子の就職が決まっていないとかで、働き続けるらしいんだよ。ハハッ。。」
・・・・・・・・・
私の務めている会社は、大企業の末端のグループ会社だ。毎年のように数名が親会社から移籍してくる。
その大企業では、役員クラスまで上りつめらなかった人だが、私の会社からすれば雲の上の人である。
東大・京大を優秀な成績で卒業し、就職したい企業上位にランクされる大企業に就職し務め上げてきた、いわゆる勝ち組だ。
そう、誰の目にも明らかな典型的な勝ち組なのである。
森本部長もその一人である。
いや森本部長だけでなく、典型的な勝ち組として親会社から移籍してきた人たちが、みなそろって会社に対する愚痴・国に対する不満を口にし、『もう辞める、定年で辞める』といい続けながら、その後も破棄のない顔で通勤しているのだ。
私はといえば、親が敷いてくれた勝ち組への道を自らドロップアウトしてしまった人間だ。
だから、今の自分の境遇は受け止めている。
給料が親会社と雲泥の差があっても、30歳を超えてから、安定した大企業グループ会社に転職できただけでラッキーだと思っている。
給料が親会社と雲泥の差があっても、30歳を超えてから、安定した大企業グループ会社に転職できただけでラッキーだと思っている。
いや思っていた。。
そう、私の親が希望した道をしっかりと歩いてさえいれば、私も勝ち組になれたのだと。
私の子供にはドロップアウトさせず、一流大学に通わせ、一流企業に就職させることができれば、私の子供は勝ち組になれ、幸せな生活を送れるのだと。
でもどうやら、そうではないらしい。。。
勝ち組のホントに気づいてしまったのである。