「岩井俊二のMOVIEラボ」~#3 「ラブストーリー編」 | 日々のダダ漏れ

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「岩井俊二のMOVIEラボ」

「岩井俊二のMOVIEラボ」

Eテレ 
毎週木曜 午後11時~11時45分
翌週木曜 午前0時~0時40分 (再)

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#3 「ラブストーリー編」

「ベニスに死す」

樋口尚文) ある時こう、何でこの映画に、こんな話に、
      何で惹かれるんだろうってちょっと冷静に考
      えてみたら、要するにラブストーリーっていう
      か、恋愛映画の鉄則っていうのが、壁があ
      ると。コミュニケーションの間に壁がある。国
      籍の壁かもしれない。男女かもしれない。っ
      ていう意味では、これは、男同士でまず壁が
      あって、年齢差があって、最後は死別ってい
      う、壁だらけの映画なんで。何か追い詰めら
      れていくんですよね、気持ちが。
      でも岩井さん、これ大好きな…。
岩井俊二) そうですね。人間が、人間ドラマとしてこ
       う、届いた到達点のポイントが非常に…。
       映画でここまで描けるんだというような。


旅行でベニスを訪れた主人公の作曲家は、その道中
で見かけた、ある美少年に、心を奪われます。それ
以来、作曲家は、その少年を追い求めるようになりま
す。年齢差、病、そして同性愛などの障壁が、主人公
に対し、幾重にも立ちはだかるのです。作曲家は病
におかされ、少年の体に触れることもできないまま最
期の時を迎える。

岩井) もう、最初から最後まで絶対的に他人だって
    いう状態の壁を一歩も踏み越えられないとい
    うところが。
樋口) ほぼ見てるだけですもんね。
岩井) うん。だから何かもう、イリュージョン見てるよ
    うな。相手がイリュージョンみたいな状態の中
    で、最後に何か死に装束のような。あれも映画、
    初めて観た時に衝撃でしたけど。
    この、男のやってる事って、本当に、決して別
    に感情移入できるようなものではないんだけど。
    最後、ここまでやられるとあっぱれみたいなと
    ころである臨界点超えるというか。あの少年は
    どこへ向かって指さしてんのか。最後天国まで
    連れていく使者のように、なっていくという。
    そこへ老人というか、初老の芸術家の、人生
    の重さもかぶってきてっていう。
    本当、深い映画、ですよね。


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●「花とアリス」

岩井) 昔、「花とアリス」という映画を
    作った事があるんですけど。
    あれは、ラブストーリー、だったのかね?
鈴木杏) 起こってる事は三角関係だよね。
蒼井優) 杏ちゃんが演じた、花にとってはもの
     すごいラブストーリーだったんじゃない?
岩井) なるほどね。アリスにとっては?
蒼井) 火遊び?
一同) (笑)


「花とアリス」花とアリスという2人の少女の、恋愛
と友情を描いた物語です。同じ高校の先輩に恋す
る花は、頭をぶつけて倒れた先輩に、彼が記憶喪
失だとウソをつき、恋人のフリをします。花は、その
ウソを貫くために、親友のアリスを巻き込みます。
結果、3人は、淡く切ない三角関係に、陥っていく
のです。


蒼井) 岩井さんはどう…ラブストーリーだと思う?
岩井) 意外と父親が出てきて。アリスの場合、父親
    に対する、ファザコン的な思いを、花の好きな
    男の子にぶつけていくというね、何か、不思議
    な展開で。自分の中で、関係で言うと、四角関
    係なのかな、あれは。何か、肉親も入って、非
    常に不思議な…。
蒼井) 面白いですね。
岩井) ラブストーリーという観点で、考えると、まあ
    ラブストーリーのような、そうじゃないような。
    ただ、意識してんのは、恐らく…人と人が織り
    なすケミカルっていうか、化学反応というか、
    そんなものを、追いかけているのかなという気
    は、するんですけど。


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●岩井監督作品は少女マンガ的なのか?

樋口) よく岩井監督の映画って、少女マンガ的って
    言われるじゃないですか。あれは、どう思いま
    すか? 少女マンガチックなものが好きなんで
    すかね? モチーフとして。
岩井) 少女マンガも、あまりラブストーリーとして、見
    てこなかったのかもしんないですね。ある音楽
    プロデューサーの友達が昔言ってた話があっ
    て。男性は、ラブソングを聴いても、その歌詞
    をちゃんと聴いてないっていう。「中島みゆきさ
    んの、「わかれうた」って曲あるじゃない?」と
    言われて、「ああ、ありますよね」と言って。で、
    「ああいう体験ってある?」って言われて。「あ
    あいう体験ってどういう体験ですか?」。「あの
    歌の中にある」。「歌の中にどんな体験があり
    ましたか? 道に倒れてた歌ですよね」、って。
    「途にたおれて誰かの名を、呼びつづけたこと
    がありますか」。「そんな事言ってたんだ!」っ
    て。気づいてなかったっていう。
一同) (笑)
岩井) 言えるのに、歌えるのに、気づいてなかった
    っていうね。そういう事があんのかもしれない
    ですね。だから、少女マンガ読んでても、何か
    音楽のように、その心地よさに、こう、なんか、
    触れてるだけだったのかなと思ったり。だから
    いまだにぼんやりしてるのかもしれない。その
    恋愛という、ジャンルというものが。自分の作
    品と、少女マンガというのを、まあ、よく聞かれ
    るんですけどね。どうですかね? その、女子
    から見て。
鈴木) どうだろう。私はあんまりそう思った事がない
    んですけど。どう?
蒼井) 何か、少女マンガチックとは思わないんです
    けど。何か、おじさんの中にある、いけない少
    女性…っていうもの?
岩井) 危ないじゃない!
蒼井) いや、どのおじさんも、
    持ってると思う、それは。
岩井) 心にみんな持ってる。
蒼井) その、女性の、絶対に、あの、まだ(会場の若
    い人たちには)無いかもしれないけれど。それ
    って、女性からしたらとっても愛おしい、ものだ
    から、女性が見ても、岩井さんの少女っていう
    よりも、おじさんの中にある少女性、っていう、
    ちっちゃいところから見た世界、の面白さって
    いうのは、女性からしたらとっても愛おしいし、
    男性のお客さんから見たら、何か岩井さんの
    中の少女と、自分の中にいる少女が、つなが
    っちゃうから、それで引き込まれちゃうっていう。
    何かその、そういった意味での少女という事だ
    ったら分かるけど。決して少女マンガではない。
樋口) それ鋭いと思うんですけど。世界中の生き物
    で、一番乙女なのって、おじさんですからね。
蒼井) そうだと思う。
岩井) ちょっと変態チックなとこも
    ありつつなんですかね。
岸野) いやいや、純粋だという事。
岩井) 純粋だという事ですかね。


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岩井) 今日は、恋愛映画、ラブストーリーって
    いう事で、話をしてきたんですけど。
行定勲) 「Love Letter」の話していいですか?


●「Love Letter」

婚約者・藤井樹を山の遭難事故で亡くした、主人公・
渡辺博子。樹が中学時代に片思いしていた女性との
文通の中で、自分と出会う前の婚約者の姿を知って
いく物語です。主人公・博子の婚約者・樹は、中学時
代の回想シーン以外、一度も画面に登場しません。


行定) 僕、助監督だったんですけど。
    あれは、やっぱり失った人間が愛してる人間
    が一人いるからこそ、あの愛っていうものが、
    非常に際立ってるんですよね。岩井さんはそ
    の失った人間の最後の姿を見せようとしてた
    んですよ、実は。
岩井) あ~。
行定) 覚えてないかもしれないですけど。雪の、谷
    底で、死んでいった藤井樹という、その人間が
    …まあ、幼少期は出てきますよね。幼少期は
    出てくるんですけど。大人になって死ぬ間際見
    えないから、みんながそれを忘れていた、藤
    井樹の記憶を巡っての話じゃないですか。そ
    れぞれ嫉妬もあるだろうし、羨望もあるだろうし、
    記憶の中の美しさもあると。だからこのラブスト
    ーリーは優れてる、と僕は語ってるんですよね。
    シナリオ読んで。「ああ、そう。ところでさ」っつ
    って。谷底に落ちたシーンの事をず~っと言う
    んですよ。そのキャスティングの事をずっと言
    われて。「いやいや、だから要らない。要らない
    と思うんですよ」。長電話ですよ。僕から電話
    かけてんのに。「これ、どういう事? これ」って。
岸野) 「不在」が一番感情移入しやすい。
行定) そうですね。
岸野) ああ、なるほど。
行定) それって、多分ね、自分の好きな人間とか、
    当てはめやすいんだと思うんですよ。
不在に
    するっていう事で、それを随分、話した覚えが
    あって、岩井さんと。堀辰雄の話もしたんです
    けど。「風立ちぬ」の話をして、小説の「風立ち
    ぬ」を。途中からサナトリウム入って、
描かれ
    なくなっていく。残された人間たちの、この思
    いというのは、何でそうなっちゃうんだ?
    読者も、気になって仕方ないっていう。

※「風立ちぬ」
堀辰雄の小説。重い病の婚約者・節子の死を覚悟し
た主人公が彼女とともに生きる姿を描いた愛の物語。


岩井) 「風立ちぬ」ね、最終章はもういないからね。
行定) いないでしょうね。
岩井) 死ぬシーンないんだよね、確かね。
行定) ないんですよ。突然いなくなってるんですよ
    ね。あれ語りましたよね? 何か岩井さんと随
    分語った記憶があるんですけど、あれは…。
岩井) あの子がいない時間が描かれて
    終わるっていうね。


「Love Letter」のように、物語の重要なキャラクター
をあえて不在にする事は、観客の想像力をかきた
てるという意味で非常に効果的である事が分かり
ます。こうした、不在を使った表現も、恋愛映画に
おいて、重要な手法の一つです。


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行定) 僕が恋愛映画でいいなと思うものは、とにか
    く、もうダメになった男と女が、失いかけたもの
    を取り戻そうとしたりとかですね、非常に見苦
    しいんですよね。恋愛の実体は、綺麗ごとじゃ
    ないっていうか、見苦しいって気持ちがあるん
    で、「情事」とか、その辺りの、何かそういうも
    のはやっぱり、引かれますね。


1960年に公開された、ミケランジェロ・アントニオーニ
監督の、「情事」。地中海に旅立つ、サンドロとアンナ
のカップル。アンナの親友、クラウディアの3人。アン
ナの突然の失踪がきっかけで、残されたサンドロとク
ラウディアの関係に、異変が起こります。2人は、や
ましさを感じながらも、引かれ合っていくのです。


行定) 男と女の、あの引かれ合うどうしようもなさと
    か、欲望がね、もう映画に介在してるから、ど
    うにもなんないですよね。だから、もうダメにな
    ればダメになるほど、何かこうね、狂おしく、感
    情が高ぶっていくっていうか。
岩井) 自分の原体験に根ざしてる、
    何かあんのかな? そういう…。
行定) う~ん。邪でしょ、人は。まあ、不倫とかね、
    略奪とか、そういう何かこう、正しいと世の中
    ではされてないものの方が興味がある訳じゃ
    ないですか。でもそういう方が、何だろう、障
    害がある分燃えるんでしょうね、きっとね。
    そういうラブストーリーの方が、抑圧した気持
    ちが、やたらモンモンとしていいっていうか。
    何かそういうのが、恋愛映画としては、すごい
    印象に残るかなあと思いますね。


**********

岩井) という訳で、ラブストーリーについて、追いか
    けようとしたんですけど、
あまりにもやはり、壮
    大なこの「愛」というテーマに、
追いかけきれた
    んだろうかという思いがありつつ、
これから、
    何か、ラブストーリーどうなっていくのかという。
    ここまでやってきて、もう、出尽くしてると言い
    つつ、時代は進んでいって…。まあ、でもね、
    スマホで1分間、愛を撮ってもらいましたけど。
    こうやっていろんなコミュニケーションが変わ
    っていく中で、またきっと何か新しい、愛の物
    語が、
出来上がっていくのかなという気も、し
    なくもないんですけど。
という訳で、今日は、
    そんな感じで終わります。
    
**********

「ロッキー」の「レオン」も、個人的には恋愛ものとして
ピンと来ないので…省略w 「ベニスに死す」が出てき
たのが懐かしく、壁だらけの映画っていうのにも納得。
ビョルン・アンドレセンが、夢のように美しい。美少年、
という言葉は彼のためにあると言っても過言じゃない。
ちなみに、思わずググって、年を取った彼の姿を見ま
したが、思っていたより、渋くダンディーな男性になっ
てました。太ってハゲてないだけでも十分カッコイイ。
絶対に手が届かない存在に恋焦がれる…究極の片
想いは嫌いじゃない。「ベニスに死す」を観たのは20
代。今ならどう感じるのか、もう一度観たくなりました。

今回、私的に面白いと思ったのは、岩井俊二がラブ
ソングを聴いていても、その歌詞をちゃんと聴いてい
ないってところ。それが男性の特徴かどうかはわか
らないけれど、身近なところではあるあるって感じで。
聞いているようで聞いてないって、結構あるなあとw
そして、もう一つ、「岩井監督作品は少女マンガ的な
のか?」という問いに対する蒼井優の答えが秀逸だ
った。少女マンガじゃなくて、内なる少女性だという。

何か、おじさんの中にある、
いけない少女性…
っていうもの?」

「岩井さんの少女っていうよりも、おじさんの中にあ
る少女性、っていう
ちっちゃいところから見た世界、
の面白さって
いうのは、女性からしたらとっても愛
おしいし、
男性のお客さんから見たら、何か岩井さ
んの
中の少女と、自分の中にいる少女が、つなが
っちゃ
うから、それで引き込まれちゃうっていう。
かその、
そういった意味での少女という事だったら
分かるけど。
決して少女マンガではない」。

そうそう。時々、ある種の男性監督の作品には、その
人の中にある少女性が、もの凄く感じられる時がある。
そして、そういうものが、嫌いじゃないんだな。少なくと
も私は。リアルな少女の少女性以上に、どこか少女的
な、何だろうね? 本質的な異性感覚が、男女ともにあ
るのかも。女性の中にある、少年性もあると思うし…。
まあ、女性以上に乙女だったりするよね、時に男性は。
いそうでいない、ありそうでありえない、でも、心の中
に存在する少女や少年も、それもまた、一種のリアル。
…と、書いている自分も訳が分からなくなってきたので
この辺で終了。「愛」の形は人の数だけあるのだろうし。
一度で、いや何度語り合っても、恋愛を語り尽くせるも
のじゃないのは確か。恋愛は、だから面白いのかもね。

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