「哲子の部屋」~どうしたら“恋”できるの? | 日々のダダ漏れ

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日々想ったこと、感じたこと。日々、見たもの、聞いたもの、食べたものetc 日々のいろんな気持ちや体験を、ありあまる好奇心の赴くままに、自由に、ゆる~く、感じたままに、好き勝手に書いていこうかと思っています♪

「哲子の部屋」
どうしたら“恋”できるの?



●千葉雅也(哲学者・36歳)
立命館大学准教授。
専門はフランス現代哲学。
ギャル男ファッションの
表象文化論的研究も行う。

●清水富美加(女優・20歳)
NHK連続テレビ小説「まれ」に
蔵本一子役で出演。映画・バラエ
ティ番組でも活躍する注目の女優。

●マキタスポーツ(俳優・ミュージシャン・45歳)
俳優・ミュージシャン・コラムニストなど、
マルチに活躍する異才タレント。


千) 千葉雅也
富) 清水富美加
マ) マキタスポーツ


富) 「未婚で異性の交際相手がいない」。



千) …のデータ。どうなってます、これ?
富) えっと、上がってってますね、だんだん。
千) つまり、付き合わなくなってるっていう
  事なんですよ。恋しなくなってる?
富) 半分が?
マ) これはゆゆしきデータですよ。
富) ゆゆしきデータですか。
千) 今、よく「草食系」なんてね…。
マ) 言いますよね。
千) もうほんと、恋しなくなってるというか、
  「絶食系」なんていうね。
マ・富) 絶食!?
千) …言い方すら、されてると。
  これ、清水さんとかどうですか?
  若い世代としてこのデータ見て。実感的に。
富) いや、でも、分かりますよ。
   で、そうなっちゃってるから、
   今こういうふうに、「恋」って何だっけ?
   みたいになっちゃってるから。
マ) 絶食系? あなた。
富) 今、絶食系ですよ。
  だから、もうじゃあ、いいやみたいな。恋はしばらく。
  もうちょっと大人になってからでもいっか…。
千) 先延ばしになってる?
富) 先延ばしになってる。
マ) 恋のしどき、惚れどきでしょ?
富) いや、思うんですよ。
千) マキタさんの世代なんかからしたら、
  全然理解できないんじゃ?
マ) 理解できないですよ。
富) えっ、してました? 恋。20とか。
マ) 僕なんかもう惚れまくりですよ。ちょっと
  目が合っただけで、「あ、俺の事に好意持
  ってる」ってすぐ勘違いしたりとかして。
富) へえ~。絶食系はじゃあ、
  あり得ないって事ですか? マキタさん。
マ) 考えづらいですねぇ。
富) うそ~。
千) いや、僕の世代なんかもこのデータからすると、
  今から15年前とかは、もっともっと恋するっていう
  ような雰囲気があったと思うんですよね。結構こ
  の10年ちょっとで結構変わった感じが。まあ、とも
  かく、恋をしなくなってる? というのが一つの現代
  の大いなる謎として、あるわけなんですよ。で、い
  ろんな事は言われてるんですよね、理由は。今日
  はですね、1つの角度なんですけど、まあ、大きく
  言ってね、今この現代っていうのは、もう物もあふ
  れてる、情報もあふれてる、非常に便利な社会で
  すよね。でも、何かがおかしい。その、「便利な社
  会」っていう状況と、「恋をしなくなってる」って事も
  関係してるかもしれない。
富) はあ~。
千) 豊かで便利な社会っていう事はいい事だと思う
  わけですけど、恋する事ってのも失われてるんじ
  ゃないのかなと僕は思うわけなんですよ。う~ん。
  もっと言うと恋するための出会いが失われている。
  だから今日はですね、その情報過多社会をどうい
  うふうに生きるか?という事の、一つの切り口とし
  て「恋」について考えようと。
マ) なるほどなぁ。
千) 今回も次回も。
  とりあえず、身近なとこから入っていきますよ。今
  日はその第1回で、今回の「恋」するっていうのは、
  人を好きになるということだけじゃなくてね、何か
  に夢中になるとか、すごい広い意味で捉えてもら
  いたくて。だから若い人だけの話でもないし。
  さて、それで、哲学。哲学はものの見方をガラッと
  変えてくれる、そういう考え方をですね、与えてく
  れる、そういうロゴスを与えてくれるものですね。
富) 出た。
千) 「きょうのロゴス」を発表したいと思います。
富) 「きょうのロゴス」。
  「この世界には、『出来事』しかない! 」
  ん!?
千) 「この世界には『出来事』しかない!」。
富) 「出来事しかない」?
千) そうそう。
富) 「出来事しかない」?
千) 全ては出来事だと。
  まあ、ちょっと、考えてってみましょうか。こういう
  ような事を言った哲学者がいるんですよ。はい!
マ) 誰だ?
富) ドゥルーズ?
千) お~清水さん、分かった!


現代哲学者の巨人、ジル・ドゥルーズ。



この世界には、「出来事」しかない。
ここから、「恋」するための「出会い」の
哲学が、どう展開されるのでしょう?



千) まあ、このドゥルーズ先生がですねぇ、
  こんな言葉も本の中で紹介してるんです。
富) 「巨大なピラミッドも、出来事だ」。
マ) 出来事?
千) 「巨大なピラミッドも、出来事だ」。
富) えっ、出来事じゃないですよね?
  ものですよね?
千) お~「もの」と「出来事」って、今出てきましたね。
  どうですか? ズデーンと巨大なピラミッドは。まあ、
  ともかくも石の塊ですわね。巨大な建築物ですよ。
  これを出来事だとして考えてみるとしたら、どう?
富) 出来事として考えてみるとしたら。
マ) そうか、出来事。
富) 出来事として考えるとしたら。
千) どういう考え方ができる?
富) まあ、王様がいて、
  人にいっぱい造らせたという出来事?
千) …でもありますよね。またもっと簡単に考えると、
  すっごい長い時間の、スケールで考えたら…。
マ) あ~。
千) 地球がこれから、何万年、何億年と。これ、ある
  時にピラミッドっていうのは人間がわちゃわちゃっ
  と来て、ポコっと出て、そのあと崩れてってなくなっ
  ちゃうんじゃないですか。ある時期だけに起こって
  いた事になるんじゃないですか?
マ) そうかぁ。単なるものとか物理的なものだけじゃ
  なくて、確かに出来事っちゃ出来事だわ。
富) 出来事? まだちょっと掴めないんですけど…。
  どういう事? 造ったという事?
マ) 富美加ちゃんも「出来事」なんじゃない?
富) えっ!? どういう事ですか?
  出来事じゃないですよ!
千) いやいや、出来事ですよ。
富) 出来事じゃないです!
千) ある時期に発生して、ある時期に終わって
  いくだろう出来事、じゃないんですか。
マ) そうか。
富) ん!?
千) もう少しいろいろ考えていきましょう。ただこの
  「出来事」って言葉を、ドゥルーズはある独特の、
  深い意味で使ってるんですよ。この「出来事」っ
  ていう、言葉に、もう一つ、ドゥルーズの概念を、
  ちょっと付け加えて考えてみたい。はい!




富) ドゥルーズが唱えた概念、「これ性」?
千) はい。
富) 「これ性」?
マ) これ…「これ性」?
千) 「これ性」って読むんです。「これ性」。
富) 聞いた事ない。
千) 聞いた事ないでしょうね。
  どういう事かっていうと、はい。
富) 唯一無二の、「これこそ、これだ!」
  という出来事の特異性。
千) ちょっと堅い言い方ですねぇ。
マ) 何? 「これ」?
富) 「これこそ、これだ!」。
マ) すげえ抽象的な…。「これ性」ですか?
千) 「これ性」。


謎の概念、「これ性」。
出来事が持つ、唯一無二の特異性とは?
これから分かりやすく、
具体的に、解説していきます。

千) 今日は具体的に考えるために、
  いろんな例を持ってきたんです。
  まず、じゃあ1つ目、まいりますね。その例を。
富) はい。
千) お母さ~ん。
マ・富) ん?
母の声) は~い。
富) ええ!? お母さん来てるんですか?
マ) 新手のなんかがね、仕掛けがある。
千) いやいやいやいや。もちろんね、
  うちの母親じゃなくてですね。
  お二人にあるものを考えてもらいたいと。
  まずじゃあ、清水さん。早速今みたいにですね、
  自分のお母さんだと思って呼びかけてみてもら
  えますか。はい。
富) お母さん。
母の声) は~い。富美加ちゃん、お仕事お疲れ様。
     富美加ちゃんが大好きなあれ、作っておい
     たからね。
千) 大好きなあれ作っておいてくれたって、
  何でしょう?
富) え?
千) 何を思いつきました?
富) から揚げ!
千) あっ、から揚げ?
富) はい。
千) へえ~それどんなから揚げ?
富) なんか、うちのは、普通のから揚げと違って、
  ちょっと大ぶりなんですよ。ちょっと、時間をかけ
  て揚げてるので、結構黒い…黒い、大きいから
  揚げみたいな。ものすごく。
千) おいしそうですねぇ。
マ) うん。うまそう、うまそう。
千) じゃあ、次マキタさんも同じように
  ちょっとやってもらえます?
マ) いいんですか?
千) はい、どうぞ!
マ) ママ?
母の声) スポーツや。ほれ、あんたの大好物の、
     ごっそう作っておいたから、食べろし。
マ) これ山梨の方言ですよ。
千) 山梨の方言。
マ) 僕の地元山梨の方言。「ママ」って言った
  割にはすごい年寄りの声が出てきて。
千) …でしたね。何想像しました? 今ので。
マ) 「ほうとう」ですね。
千) ほうとう?
マ) 山梨の郷土料理でほうとうってのがあってね…。
  うちのおふくろが作るほうとうは、もう亡くなってん
  ですけど、ほうとう大好きだったんで…。
千) ああそうですか。じゃあ思い出深い…。
マ) 思い出深いやつですねぇ。
千) まあ、今お二人に想像してもらったのは、だから
  「おふくろの味」ってやつですよね。おふくろの味。
マ) そうですね。
富) ですね、ですね。
千) おふくろの味。それはきっと、富美加さんのその、
  黒いっていうのもそうだと思うんですけど、他に置
  き換えられないような、唯一無二の、味であり、だ
  からね、こんなふうに言えると思うんです。
  はい、出して下さい。
富) おふくろの味は、「これ性」だ。
マ・富) ああ~!
富) はいはいはい! 確かに。
千) 例えばね。
富) 他にないですもん。確かにおふくろの味は、誰に
  も出せないし、似せて作られたとしても、違うんで。
千) 違うでしょ?
富) 違う。
マ) 多分ね、同じお米を使って、同じお塩を使って、
  同じのりを使って、おにぎり作るじゃない? でも
  これはおにぎりなんだけど。だけど、うちのおふ
  くろが作ったおにぎりと他のでは、多分違うって
  思うと思う、俺。
千) 何が違うかって、「これ性」が違うんです。
マ) それが「これ性」なんだ!
千) これ性が違うんですよ。
  同じおにぎりでも、「これ性」が違う。
  出来事としての、そのおふくろの味っていうのは、
  これはもう置き換えられないわけですよ。まあ、
  今の母親の料理というのはもちろん一例であっ
  て、別に母親の料理じゃなくてもいいわけですけ
  ど。いろんなどんな大好物とかね、そういうもの
  でもよくて。それぞれに「これだというもの」ってい
  うのは、いろいろあると思うんですよね。で、完全
  にやっぱりコピーできないものだと。「出来事」っ
  ていうのは、一個一個「これ性」を持ってるんです
  よ。「世界は『出来事』でできてる」。それだけじゃ
  なくて、一個一個の「この出来事」っていうので全
  部出来てるわけですよ。だから、この「これ性」っ
  て言葉でいくと、もう世界っていうのは至るところ
  「これ性」だらけだと。
マ) 「これ性」だらけ。そうか!
富) でも、ピラミッドも、そうですよね?
千) あれはあれで「これ性」がありますし。今、こうや
  って僕らで共有しているこの空気、この雰囲気、も、
  「この雰囲気」っていう「これ性」です。
富) おお。
千) でも、まあ、今回使ってる「出来事」っていうのは、
  特別な事が起こらなくても、なんかその辺の普通
  の事でもみんな、特別な、まあ、言ってみれば全部
  特別な出来事だという発想で、今考えようとしてる
  わけなんですよ。
  さて、そこら辺をもう少し深めていきたくてですね。
  「これ性」っていうのは、それぞれ、ある訳なんで、
  何かを基準にして、比較して、考える事じゃないん
  ですね。「これ性」は比較で考えるものじゃない。
  ここをちょっと、理解したいと思います。
富) 比較で考える事じゃない…。
千) それ実感してもらうためにですね、お二人に
  今からですね、「これ性」を生み出してもらおう
  と思います。


**********

千) スケッチブックが、出てきました。これで何をして
  もらおうかっていうと、お二人に「記憶でお絵描き」
  をしてもらおうと。
富) 記憶でお絵描き?
マ) 記憶スケッチか。
富) 絵かぁ…結構苦手なんだよな。
千) で、何を描いてもらおうかっていうとですね、
  NHKのBSのキャラクターの
  「ななみちゃん」っていうのが…。
マ) え~…。
富) え~「どーもくん」じゃなくて?
千) どーもくんじゃない。
マ) どーもくんがいい。
千) なんかね、白くて、かわいい感じのやつ。
マ) ちょっと待って下さい。僕全然分かんないですよ。
富) ななみちゃんって最近じゃないですか?
千) ななみちゃん最近ですか?
富) 割と。
千) なんかとにかくななみちゃんという事で、
  描いてみましょう。はい、じゃあどうぞ!


正解は…



千) じゃあ、清水画伯のななみちゃんをはい、どうぞ。
富) 私結構惜しいですよ、ほら。




マ) 惜しくないだろ。
富) 惜しい惜しい! ほら。
千) あっ、でも丸い丸い!
富) 丸くて、耳が黒くて、
  なんか犬みたいな感じっていうの…
千) あ~口のとこね。
富) はい。
千) 目がちょっと怖いなぁ。
マ) 決定的にね、目が怖いんだ。
  寝てない人の目になってる。
千) じゃあ、マキタ画伯、どうぞ。
マ) 僕は可愛いですよ。
千・富) あ~!




富) 「N」…。
千) ちょっとロゴが入ってる!
マ) もう全然分かんないんで。
富) NHKだから、「NK」なんですか?
マ) そうです。ここ「H」になってる。
富) 腕がね。
マ) 全然違いましたね。
千) まあ、全然違うんですけど、これを基準にね、
  どっちがうまいとか下手とかっていう、そういう
  比較をするんじゃなくて。「これ性」の観点でこ
  れを見てみようと。そうすると、清水画伯、マキ
  タ画伯、それぞれのななみちゃんの「これ性」
  が今ここに、生み出されたわけなんですよ。
マ) あ~そうか。
千) でそれはね、本物に比べて、
  別にいいでも悪いでもないんですよ。
マ) そっか、
千) 「これ」なんです。
  単に、単に、「これ」なんですよ。




マ) はあ…単に「これ」って事か。
千) 「これ」なんですよ。
富) ああ、今この場所で…。
千) 生み出された…。
富) 指定されて、思い出して、私が描いた、ななみ
  ちゃん、っていう、「これ性」。ああ、なるほど。
千) というわけで、だんだん「これ性」という概念が、
  具体的に、少しは分かってきたのかなぁとは思う
  んですよね。


**********

千) 何ですか、それは?
富) これは、あの、あれですよ。これは、私の、
  大好きな、お気に入りのCDです。これは。
  なぜこれが?
千) ちょっと聞けるのかな?




マ) 渋いの聴くねぇ。
富) 私あの16ビートの、感じが、
  カッティングとかすっごい好きで。
千) 跳ねてますね、いい感じに。
富) いや、いいですね。
千) これ、どういうこだわりがあって?
富) これは、音楽番組を、ローカルでやってまして。
  そこで教えて頂いて、それで聴いて、すごく気に
  入っちゃったんで、買いに行こうと思ったんです
  ど、置いてなかったんですよ。で、わざわざ店員
  さんに聞いたところ、在庫にあるので取ってきま
  すって言って。「最後の一個でした」って。
千) もう一個しか残ってなかった。特別ですね。
マ) それ、「出来事」じゃん。
千) 「出来事」ですね。ほんと一個しかないのを…。
富) そうですね。
マ) もう、それ、あれだよ。
  ただの「ブギー・トレイン」じゃないよ。
富) 「ブギー・トレイン」じゃない?
マ) じゃないよ。
千) この、「ブギー・トレイン」。
富) この。そうです、そうです! これは、そうですよ。
  私は、この…この、ファンキー・ビューローの、この
  アルバムが、いいっていう。
マ) なるほど。
富) 思い出が…。
(ノック)
千) これがね、同じCDなんですよね。
  これはディレクターさんにお願いして、同じものを
  買ってきてもらったんですけど。




千) さあ、同じなんだけど、もうね、「これ性」の概念
  を理解した清水さんだったら、もうこれが同じもの
  なんだけど、でも違うっていう事は、ご理解頂けま
  すよね?
富) え? これって私のですか?
千) そう。
富) 先に出て来た方が、私の?
千) ちょっとごっちゃになると怖いよね。
富) はい。紙入れときます。
千) 紙入れとく。
富) それぐらい間違えたくないので。
マ) 間違えたくないんだね。間違えたくないよね。
  うん。分かる分かる。
千) ほんと、だからはっきりしてるように、
  同じものでも、「これ性」が違う。
富) はい、全然違います。
千) 全然違うわけ、だよね?
富) だって、入ってる曲同じですし、
  でも、そっちのファンキー・ビューロの
  「ブギー・天国」はいらない。
千・マ) うん。
富) こっちじゃないとやだから。そう。
千) こっちはこっちで、まあ、ディレクターさんが買っ
  てきてくれた。そこにいろんな事情があるわけで。
  そういう別の「これ性」を帯びてるわけですよね。
富) はい。
千) そうjそう。それそれで、これはこれ、なんですが。
  そっちはそっちで、これはこれ、なんですよ。
富) これはこれ。
  だって、考えてみて下さいよ。CDを買いに行くっ
  ていうのは、たかがCDを買いに行くですけど。
  わざわざ、家から、最寄りの駅まで歩いて、電車
  に乗って、一番気に入っているCDショップで、買
  いに行ったところ、もう、ないって、置いてません
  って言われて、在庫にあるかもしれないので探し
  てもらって、しかもあったらそれが一つしかなくっ
  て。もう、運命だし、私はこれに、このCD一枚に、
  それだけの熱量を、使ってるわけですよ。
マ) それ大事だよ。
富) …という一枚なんですよ。
マ) すごく大事だと思う。
富) かなり「これ性」ですよね、これは。
千) ことごとく、
  だってその過程が「出来事」ですよね?
富) 出来事…あっ、そうですね。
千) 出来事ですよね。だから、大量生産品だって、
  全部同じってわけではないわけですね。
マ) うん! 同じじゃない!
富) 全然違う。
マ) 全く同じものなんだよな。
富) やめて下さいよ! 混ぜないで下さいよ!
  ねえ、ホントに怒りますよ!
(笑い声)
富) 怒りますよ。
千) こういうわけで、だいぶ「これ性」っていう
  概念は、随分分かってきた?
富) もうだいぶ分かりました。
千) だから「きょうのロゴス」で
  「世界には『出来事』しかない!」っていう事を
  まず言って、もっと言うとその出来事は唯一無
  二の出来事で、至る所「これ性」だらけである。
  我々はいつも無数の「これ性」と出会ってるん
  だという。まあ、そういうまとめに一旦なるわけ。
  で、そこでですね。ここまで踏まえて、「あれ?
  「恋」の話、どこ行っちゃったの?」っていう。
富) あ、確かに。
千) そうなんです。そこでもう一回最初のテーマに
  戻ってきたいと思うんですね。つまり「情報過多
  社会」、情報もものも多すぎる社会の中で何が
  失われてるんだろうかと、いう事ですよ。
  で、冒頭では、便利で豊かであるが故にかえっ
  て「恋」するための「出会い」が失われていると。
  それってどういう事か…。
富) 情報が多いと、なんか、出会い増える気が、
  しますけどね。たとえば、なんか、すぐに連絡
  取れたりとか、取れそうにない人とかとも連絡
  取れたりとか、するから。
千) まあ、可能性はいっぱいあるわけですよね。
  可能性はいっぱいある。「可能性」っていうのは、
  ちょっとキーワードなんですけど。
マ) 可能性?
千) 可能性がね。ここでね。 今、例えばデジタル化
  ですごく便利な社会で、何でもスマートフォンで検
  索できる。例えば僕がリアルのお店に行って、何
  か気に入ったものを、たまたま見つけるとするじゃ
  ないですか。何でも、小物でも、本屋さんでもいい
  けど。そういう時って、ついつい、「あれ? これっ
  て、どういうものだっけ?」って、検索しちゃったり
  とかしません?
富) しますします。
マ) するする。
千) しますよね? 特に本屋とかだと、
  レビュー見ちゃったりとかね、あるし。
マ) ちょっとね、分からないというのがね、
  すぐ調べられるんだよ。
富) 確かに。
マ) だからテレビとか見てても、よく知らない人が
  テレビで出てくると、自分で検索し始めるんで
  すよ。で、ウィキペディアとかがすぐ分かるから、
  そこで見るんですよ。そうするとすごく気持ちが
  浄化されて落ち着くんです。
千) ああ…。
マ) それでそれ以上僕深追いしない。
  分からないっていう事が、
  一瞬の、何ていうかな、恐怖っていうかな:…。
千) 不安定じゃなくなるわけですよね。
マ) そうそう。
千) でも、それって「恋」っていうのは不安定
  だっていう話と、関係してくるんです。
マ) そうだ。
千) もうそこで、何かを調べて安心するって事は、
  「恋」から遠ざかってるっていう事に。
マ) そうか!
  ごめん。ちょっと声でかくなっちゃった。
富) 今、「そうか!」は
  ちょっとビックリしちゃいましたけど。
千) つまりその場での「たまたまの出会い」
  っていうのがあるわけですよ。よく分から
  ないものとのね。ところがそれを、ネットで
  調べちゃうと、すぐ分かっちゃうし。
マ) 分かる。
千) 浅い理解でね、しかも。
マ) そうそう。
千) 分かって、しかも似たような商品が次々に、
  検索で出てきて、比較とか始めちゃうわけ。
マ) そうなんだよ。
千) 「今これ買わなくたってあとでも買えるでしょ」
  とか、「もっといいものがあるんじゃない?」とか。
  どこが一番安売りかを調べるサイトとかね、そう
  いうもので…出会いの可能性がどんどん増える
  と、この「たまたまの出会い」と、出会えなくなる。
  出会いが先延ばしになるわけですよ。
マ) そうか。
富) ちょっとまだ分かんない。
  何で先延ばしになるんですか?
千) それは「可能性」が広がって、今ここで買わなく
  てもいいやって、今ここで結論ださなくてもいいや
  ってなるわけ。
富) 「またあるだろう」、みたいな。
千) そう。「またあるだろう」。それから
  「他にもっといいのがあるかもしれない」。
富) ああ。
マ) 「またいつか、買えばいいか」とかって
  感じとかになっちゃうかもしれない。
富) 確かに。
千) いつまでもカタログが
  ネットにはあるわけですよね。
マ) そうだよ。
富) 「いつでもいいや」とか。
千) そうそう。
  すぐに違うものに横滑りしてっちゃうんですよ。
マ・富) 横滑り。
千) 情報化で。
マ) それが情報化の怖さですよ。
  俺、「横スベラー」だわ。
富) 横スベラー?
マ) すぐ横滑るだわ!
千) だから、情報化で「出会いの可能性」が広がれ
  ば広がるほど、かえって、出会いが先延ばしにな
  って失われるっていう逆説があるわけですよ。
富) ああ。
千) これはまさに…「出会い」のパラドックスですよ。
富) パラドックス。
千) 逆説ですよ。一見、可能性が広がれば、出会
  いはできるようになりそうですけど、
ところが逆
  に、むしろ、出会いが失われるっていう。
一見し
  たところと逆の事が起こってるっていう事ですね。
富) そっか。
千) 
だから出会いの可能性が広がったとはね、
  確かに言えますけど、現代の便利な社会で。
  ところが、結局、一回の「これ性」に向き合わ
  ないで、
なんか薄っぺらな比較ばっかりして
  るんじゃないですかね。
富) 私正直、映画で、感想とか、なんか先に読んじゃ
  ったりとか、「こういう感じでした」みたいなの見たり
  とかして、その日、「じゃあ今日やっぱ映画館行く
  のやめて、帰ろ」みたいな感じに、なっちゃったりと
  かしてますね。
千) ああ、そうですか。
富) 出会ってないですね、これは。
千) そうするとですね、逆に、どうやったら「これ性」
  との
向き合いができるかっていう事。
富) 確かに、知りたい!
千) 
そう。それは、逆に考えればよくて。情報が多す
  ぎるからそうなるんだから、
意図的にですよ、むし
  ろ、限定された状況の中で、
「これ性」と出会うとい
  う事になるんじゃないですか。
富) 限定された中で…。
千) そう。
可能性を限定するっていう、ことですよ。
  あえて、可能性が限定される状況を選ぶ。
マ) それが、対人的な、恋愛とかにも、先生これは…。
千) 関係してくる。
マ) 関係してくるんでしょうか。
千) だから、恋するっていうのも、他の人、他のもの
  の可能性が、いくらでもあるかもし
れないとカタロ
  グ的な発想でいたら、結局
一つの出会いっていう
  ものに賭けることができない
わけですよ。偶然の
  出会いに向かってジャンプする。
偶然の出会いに
  賭けるってことができなくなるわけですよ。
それは
  ある、やっぱり限られた状況に、身を置かないと、
  その偶然の出会いって、起きない。
マ) う~ん。
千) いくらでも可能性が広がってるところだと、
  いくらでも、出会いは先延ばしになる。
  恋は先延ばしになるわけですよ。
富) 出会いが増えていくと、なんか、比較はすごく
  しちゃいますね。「ああもう気が利かないなぁ」み
  たいな。だからちょっとカタログ性ですよね。人を
  ちょっとものとして見ちゃってる部分とかってあっ
  たと思います。うわ、最悪な女だ~!
  二十歳にして…。
千) いやいやいや、そう見る時はありますよ。
富) あ~…ちょっと私、
  余計「恋」が怖くなっちゃいました。
千) 何か、限定された状況を選ぶことで、そこで、
  恋が生まれる、ということなんですね。
マ) これ、でも、職場恋愛みたいなものとか、
  限定された世界の中で、当然だよね。
千) そうですね。
そこには、それなりの、豊かな
  「出来事」があったんですよ。きっと。う~ん。
  というわけで、まあ今日は「恋」するための「出
  会い」っていうのを考えてきたわけなんですが。
  そろそろ、本日の結論を、出したいと思います。
  はい!
富) 〆のロゴス。
  「これは、これでいい」に、出会いまくれ!
マ・富) はあ~…。
千) 「これは、これでいい」と。
  ま、「これは、これでいい」っていうのは、違和感
  も含めた、これでいいんだっていうこと。
やっぱり、
  それを全部なしにして、
ベストなものだけ選ぼうと
  思っていたら、
何にも出会えないわけですよね。
  「これは、これでいい」っていうものが、いっぱい
  あるんだと。違和感も含めた
「出会い」の肯定が、
  大切だろうと。
マ) 僕なんかはもう、こういう仕事をしてると、ほん
  と綺麗な女性とか、周りがこう、いるわけですよ。
  で、僕は家に帰って、ちゃんと奥さん見て、
  「ああ、これは、これでいいんだ」。

(笑い声)
マ) …というふうに、
  「これ性だな」っていうふうに思いますからね。
  はい。比較なんかしません!

(笑い声)
富) 「これは、これでいい」。
千) どうですか? これで、「恋」ができそうに?
富) 「これは、これでいい」ですか。
  ちょっと待って下さいね。えっとね…。
マ) 自分の考えられない、不慮の事が起こったり
  とかするっていう事も、そういう事も、リスクのう
  ちの一つなんだけど。でもそれは恋愛というか、
  恋とかに化けたりするかもしれないしね。全部
  が自分の考えられうる予定調和の中にいる事
  じゃなくなるんだよね。なんか恋愛とかさ。  
富) 予定調和若者、すごい多いと思いますよ。
マ) 予定調和若者…。
富) 実際に関わってみたら全然違う事が起きたり
  とか。なんか、もし次、何か、出会いがあった時、
  とかは、すごい大事にできそうな気がします。
千) そうですか。「これ性に」向き合って…。

「これは、これでいい」、との「出会い」から、
思いもよらない、「恋」が始まる。

**********

「徹子の部屋」はよく見るけれど、「哲子の部屋」は初
めて。「まれ」の一子役、清水富美加ちゃん、マキタス
ポーツさんが自然体の聞き役になっていて、わからな
いところを素直に聞いてくれるのがわかりやすかった。

この世界には、「出来事」しかない。

いわゆる「哲学」なので、「これ性」というちょっとわか
りにくい(言葉から想像する印象という意味で)概念
使われるのだけれど、つまりは、この世には、同じ
ものは存在しない。すべて唯一無二の出来事である。
…ってことだよね? と私的にざっくり理解しましたが。

出会いの可能性がどんどん増えると、
「たまたまの出会い」と、出会えなくなる。
出会いが先延ばしになるわけですよ。

これ、単純に「買い物」する時にものすごく実感する。
巨大なショッピングモールに行くと、あまりにもお店が
多くて、お店を見て回るだけでもう精一杯になってしま
って結局何も買えなかったりする事が多いという事実。
品ぞろえは少なくても、勝手知ったる商品のありかが
頭に入っている規模のデパートの方が買い物しやす
かったりするんですよ。この中で、っていう、限定され
た空間のほうが、これでいいと決断できるからなのか。

だから、恋愛も情報が多いと、選択肢が多くなればな
るほど、決断が先延ばしになるし、選べなくなるという
のは分かるような気がして。もっといい人が、もっとも
っと自分に合う人がいるかもしれない…と思う気持ち
が止まらなくなっちゃうんだろうなあって。学生の頃は、
恋するパワー、というより、恋をしていたいだけの暴力
的な恋愛への渇望により、とりあえず目に入る中から
好きになれそうな人を探して恋していたような気が…。
まさに、この中でっていう「限定された中」だったから
恋ができたのかもしれないなあと。恋に関しては、今
の時代じゃなくてよかったと本気で思います。情報が
多過ぎるのも、チャンスが多すぎるのも、それは自分
だけじゃなく、無数に存在するだろうライバルも同じと
いう環境はかなりのストレスになると自分で思うから。
不自由な頃の恋愛でよかったぁ~と思うわけですよw
もっと素直に無防備に、「たまたまな出会い」に身を委
ねてみたほうがいいのかもね、今の若い人たちは…。
カタログを見てるだけではわからない、生身の人間の
魅力に気づく事ができたなら、恋が始まりそうな予感。

世の中には、たくさんのイケメンも美女もいるけれど、
愛し愛され生きていきたい人は、これはこれでいいっ
っていう、唯一無二の出来事、これ性の人なのかも。
久々の哲学話、なかなか面白かったです~(*^。^*)