「精霊の守り人」
第４回
決戦のとき
ラルンガの襲撃を何とかかわしたバルサだが、
救い出したチャグムは何者かに操られるよう
にバルサの腕をすりぬけ森の中に消えてしま
った。帝の密命でチャグムの命を狙う狩人・ジ
ン（松田悟志）と、どちらが先にチャグムを見
つけるか、手に汗握る追跡劇が始まる。一方、
王宮に連行されたトロガイはシュガとともに伝
説に残るラルンガ退治の方法を探り、伝説に
隠されたある真実に気づく。その頃、チャグム
は吸い寄せられるようにサーナンと呼ばれる
伝説の水源にたどりついていた。そして卵を
狙うラルンガの殺気がチャグムに忍び寄る…。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊救い出したチャグムは何者かに操られるよう
にバルサの腕をすりぬけ森の中に消えてしま
った。帝の密命でチャグムの命を狙う狩人・ジ
ン（松田悟志）と、どちらが先にチャグムを見
つけるか、手に汗握る追跡劇が始まる。一方、
王宮に連行されたトロガイはシュガとともに伝
説に残るラルンガ退治の方法を探り、伝説に
隠されたある真実に気づく。その頃、チャグム
は吸い寄せられるようにサーナンと呼ばれる
伝説の水源にたどりついていた。そして卵を
狙うラルンガの殺気がチャグムに忍び寄る…。
ﾊﾞﾙｻ） もし、精霊の卵を産んだら、
チャグムはどうなる？
ﾀﾝﾀﾞ） どうなるって？
ﾊﾞﾙｻ） また、私たちのところへ
戻ってくるのか？
ﾀﾝﾀﾞ） それは分からないよ。
きっと戻ってくると、俺は信じてるけど。
だって、今のチャグムにとって、頼れる
人はお前しかいないんだから。
ﾊﾞﾙｻ） その私が、この手を離してしまったんだ。
私が、チャグムの手を離さなければ…。
ﾀﾝﾀﾞ） 珍しいな。そこまでお前が弱気になる
なんて。本気で守りたいものができると、
誰でもそうなるんだな。きっとジグロにだ
って、そういう時が、あったんだと思うよ。
俺は、そういうお前に会えて、
何だかうれしいよ。
ﾊﾞﾙｻ） 分かったような事を言うな！ 私は
自分の事を言ってる訳じゃない！
こうしている間に、チャグムがラルンガ
に襲われたらどうすんだ！？
ﾀﾝﾀﾞ） 分かってるよ！ すまない。
分かるけど…まあ、そんなに焦るな。戦
うためには休息も大事だろ。ほら、食え。
…あっ、そうだ！ 火だ！ 火は水に弱く、
水は土に弱く、土は火に弱い。
そんな事は呪術の基本じゃないか！
ﾊﾞﾙｻ） どうした？
ﾀﾝﾀﾞ） 水の精霊であるニュンガ・ロ・イムは、
土の精霊であるラルンガに弱い。そし
て、ラルンガはきっと、この世では、火
に弱いんだ。
ﾊﾞﾙｻ） 火で、退治できるという事か？
ﾀﾝﾀﾞ） 夏至祭りに、そういう踊りがあっただろ。
大たいまつを持った男たちが、その火を
ブンブン振り回して、踊り狂う化け物を
追い詰めていくんだ。そこに帝が登場す
るものだから、ヤクーの祭りもすっかり王
宮の神話に塗り替えられてしまったと思
って、こんな簡単な事に気付かなかった
んだ。あの火には、ちゃんとそういう意味
があったんだよ。ヤクーの言い伝えは、
夏至祭りにちゃんと残ってたんだよ！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
ﾄﾛｶﾞｲ） ヤクーの言葉でサアナンは、青弓川の
源。水源のことだ！ チャグムは、サア
ナンに向かったのか。この世でサアナ
ンにたどり着いた者は誰もおらんのだ。
少なくとも、私らが生きている間にはね。
そこは、巨大な木の中にあると聞く。
ｼｭｶﾞ） 木の中？
ﾄﾛｶﾞｲ） 枯れて、化石のようになった木だ。その
中に水源があって、そこは、この世とナ
ユグの、結び目だともいわれておる。
ｼｭｶﾞ） 結び目…。
ﾄﾛｶﾞｲ） 何が起こっても不思議ではない。
そうか。そこで精霊の卵は産まれるの
か！ これに、ラルンガの退治法も書い
てあったのか？
ｼｭｶﾞ） それが…分からないんだ。
ﾄﾛｶﾞｲ） 分からない？
ｼｭｶﾞ） もともとラルンガは、
退治されていなかったのだ。
ﾄﾛｶﾞｲ） 何だって！？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
ﾄﾛｶﾞｲ） 結びの水源で、ニュンガ・ロ・イムの卵
は、ラルンガに食われちまったのか？
ｼｭｶﾞ） いや、卵は助かったんだ。でなければ、
建国神話は生まれていないだろう。
ﾄﾛｶﾞｲ） それじゃ、卵はどうやって？
ｼｭｶﾞ） それは、ナナイ大聖導師たちと一緒に
いた、ヤクーの呪術師が救ったんだ。
ﾄﾛｶﾞｲ） え？
ｼｭｶﾞ） 「ヤクーの呪術師、命を賭して、ラルン
ガの爪のうちへ自ら飛び込み、裂けたる
子供の体より、産まれたる卵を手に取り
て、天に投げ上げたり。卵は、海に至る。
深き海にて卵はかえり、天に雲を吐く。
ああ、これぞ天のことわり。天にむら雲
湧きて、あまき雨、地を潤したる」。これ
が、精霊の卵に関する、最後の記述だ。
ﾄﾛｶﾞｲ） その呪術師は、子を救えなかったが、
卵はかえしたのか。
ｼｭｶﾞ） それをトルガル帝が、魔物を退治した
という事にして、この国の神話は、生ま
れた訳だ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
ﾄﾛｶﾞｲ） タンダ！
タンダ） し…師匠！
ﾄﾛｶﾞｲ） ナージだ！
ナージに卵を投げ上げるんだよ！
（鳴き声）
ﾄﾛｶﾞｲ） ナージだ！ ナージだ！
ｼｭｶﾞ） 「ナージ、飛べ飛べ。海まで飛べば、
雨降り稲穂はすくすく育つ」。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
ﾀﾝﾀﾞ） ナージだ！ チャグム！
ナージに投げろ！
卵をナージに投げ上げるんだ！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
ﾄﾛｶﾞｲ） 大丈夫。卵は助かったよ。
王子も無事だ。バルサが守ったよ。
ハッハッハッハッ。ハッハッハッハッ！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
ﾊﾞﾙｻ） どういうつもりだ？
ジン） なぜためらう？ ためらうな！
ﾊﾞﾙｻ） わざと負ける者を、斬る気はない。
ジン） 王子を守るのがお前の役目だろう。
それなのに…。なぜ俺を助けた？
敵に助けられるとは…。その時から
俺はもう狩人ではない。
ﾊﾞﾙｻ） 私はあんたを助けた覚えなどない。
ジン） お前があの時！ 俺の腕を斬らなければ、
俺はあの化け物に引き裂かれ、この世で
はない所に、消されていただろう。
借りは返す。どこへでも、王子と逃げろ。
ﾊﾞﾙｻ） あんたはどうなるんだ？ 裏切り者とし
て、一生王宮に追われる身となるぞ。
ジン） お前に救われた命だ。己のために使う
気はない。お前が斬らないと言うなら、
帝にこの首を差し出すまでだ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
ｼｭｶﾞ） ナナイ大聖導師には、ナユグが見えて
いました。この国をつくったのは、もとも
とは帝ではなく、その聖導師でした。そし
て、ナナイ大聖導師は手記の中で、この
国が、やがて終わる事も予言していたの
です。その時はもう、目の前に迫ってお
ります。
聖導師） その予言が、
その手記にも書いてあったのか？
ｼｭｶﾞ） 知っていたのですか？
聖導師） それは、聖導師だけが代々
引き継いできた、秘め事だ。
ｼｭｶﾞ） では、聖導師様も
その予言が正しいと？
聖導師） されど、今の帝には、この国は救え
まい。だからこそ、チャグム王子の
資質を見極め、その上で何としても、
生きてもらわなければならなかった
のだ。シュガよ。お前が、チャグム皇
太子の、教育係となれ。
シュガ） え？
聖導師） そして、新たな帝の、
聖導師となるのだ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
ﾀﾝﾀﾞ） 精霊の卵が産まれて、魔物が消えれば、
これからどう生きていこうとチャグムの勝
手だ。もうお前と旅をする理由もなくなっ
たんだよ。
ﾁｬｸﾞﾑ） 一緒に旅をする理由なら、あるよ。
ﾀﾝﾀﾞ） え？
ﾁｬｸﾞﾑ） 私は、バルサのように強くなりたい。
だからこれから、
私は、バルサの弟子になる！
ﾀﾝﾀﾞ） え…え？ ちょっと待て、チャグム。それ
はやめとけ。用心棒の弟子になって、
みすみす命をまた危険にさらすのか？
それだったら、この俺か、
トロガイの弟子になれ。
ﾊﾞﾙｻ） ちょっと待った。トロガイやあんたが、
チャグムにナユグの事を教えられる
のか？ 弟子よりも劣る師匠ってのは、
どうなんだろうね。
ﾀﾝﾀﾞ） あ～！
でも、とにかく、バルサだけはやめとけ！
ﾊﾞﾙｻ） そうだね。とりあえず、これからどこに
行こうか？ チャグムはまだ王宮には見
つからない方がいいだろうからねえ。
それじゃあ、異国に行くか。
ﾁｬｸﾞﾑ） うん。異国に行ってみたい！
ﾊﾞﾙｻ） カンバルも新ヨゴも駄目だとしたら、
とりあえずロタか。
ﾁｬｸﾞﾑ） はい。お供します！ 師匠！
ﾀﾝﾀﾞ） 知らないからな。
何があっても俺は知らないからな。
（回想）
ｼﾞｸﾞﾛ） バルサ…。
私はお前を助けたとは思っていない。
お前と旅をして、楽しかった。
お前の成長がうれしかった。
幸せだった。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
ﾁｬｸﾞﾑ） ちょっと待ってよ！
私はバルサといたい。
王宮には戻りたくないよ。
バルサやタンダと、旅をしたいんだ！
戻りたくない！
ﾊﾞﾙｻ） それなら、
私がここで一暴れしてやろうか？
どうする？
どちらでもお前が望むままだ。
ﾁｬｸﾞﾑ） 分かったよ。自分から逃げるなって…。
どんな事でも、笑って受け入れろって、
バルサは言うんだろ？
だったら、王宮に戻るよ。
皇太子にもなるよ。
ﾁｬｸﾞﾑ） 皇太子になって、
いつかバルサを、カンバル王国に、
帰れるようにしてあげる。
ﾊﾞﾙｻ） え？
ﾁｬｸﾞﾑ） カンバル王を、倒してでも…。
そのために私は、王宮に戻り、
皇太子になる。
ﾊﾞﾙｻ） チャグム…。
誰かのために生きるなんて、
愚かな事はよせ。
誰かのために生きるなら、
顔も知らない者たちのために生きろ。
お前なら、きっとそれができる。
お前には、いつか、
そういう帝になってもらいたい。
（迎えの者の方に歩きだすが、戻って
きてバルサに抱きつくチャグム）
ﾁｬｸﾞﾑ） ありがとう、バルサ。ありがとう…。
ﾊﾞﾙｻ） 礼など必要ない。
私は、金で雇われただけだ。
（タンダに抱きつくチャグム）
ﾀﾝﾀﾞ） あ～！
ﾁｬｸﾞﾑ） ありがとう、タンダ、
ﾀﾝﾀﾞ） じゃあ、またな。チャグム。
（トロガイに抱きつくチャグム）
ﾄﾛｶﾞｲ） おっ！
ﾁｬｸﾞﾑ） ありがとう。
モン） 出発！
ﾄﾛｶﾞｲ） ほっといてやりな。
あの子は本気で、チャグムのために、
暴れたかったんだろうねえ。
自分のためには、ついぞ何かをした
事のない子だよ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
ﾊﾞﾙｻ） それじゃあ、もう行くよ。
ﾀﾝﾀﾞ） どこに？
ﾊﾞﾙｻ） 仕事だ。ロタに向かう商人に雇われた。
そのまま、新ヨゴ国には戻らないよ。そ
の方が、チャグムにとってもいいだろう。
…といっても、
それを知らせる術もないか。
ﾀﾝﾀﾞ） バルサ…。
ﾊﾞﾙｻ） それじゃタンダ。達者でな。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
ﾀﾝﾀﾞ） 見ているか？ バルサ。
この国を守ったのは、
誰が何と言おうと、お前だ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
バルサがめっちゃかっけえ～！ 強い女性って
のはホントかっけえ。少年を守る女用心棒だな
んて、しびれる～。綾瀬はるかはやわらかい役
もこういう凛とした役も、どっちも上手だな～と。
チャグムとの別れが切ないったらもう…。ちょっ
と大人になってしまったチャグムが頼もしくもあ
り、寂しくもあり。でもきっと、バルサを助けられ
る大人の男になってくれそうで、楽しみでもあり。
それにしても、ラストでガッツリ引き付けておい
てのシーズン１終了って！ うわ～なんてこと！
せっかちな私には待たされるのがかなり辛い。
とはいえ、シーズン２は、７年後のお話という事
なので、いったんここで、視聴者にとってもリア
ルに時間が流れることで、７年後のキャラを受
け入れやすいような気もするし…。成長したキ
ャラに再会する日を楽しみに、待つしかないか。
公式ＨＰでの、原作者のインタビュー記事が、
このドラマの成り立ちを理解するのにかなり
役立つと思うので、ぜひご一読を！
～シーズン１最終回に寄せて 上橋菜穂子～
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●「精霊の守り人」ＨＰ
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