終戦スペシャルドラマ「百合子さんの絵本」~陸軍武官・小野寺夫婦の戦争~ | 日々のダダ漏れ

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終戦スペシャルドラマ
「百合子さんの絵本」
~陸軍武官・小野寺夫婦の戦争~



昭和16 年―
小野寺百合子(薬師丸ひろ子) は、陸軍武官と
してストックホルムに駐在していた夫・信(香川
照之)
がいるスウェーデンに旅立った。到着し
たその日から、
百合子は夫が入手した極秘情
報を暗号化し日本の参謀
本部に送る毎日を過
ごす事となる。夫婦共同で諜報作
業にあたり、
機密を守るためだった。外出の時には必
ず見
張りがつき、子供の命が危険にさらされる緊張
日々が続いた。百合子は母としての悲痛な
気持ちを押
し殺し電文を送った。そんなある日、
信はヤルタ会談
で交わされた連合国の密約の
存在を知る。それは「ソ
連ガ対日参戦ヲ決メタ」
というもの。日本の敗戦を決
定づける極秘情報
だった。百合子は、この情報を本国
が受け取れ
ばきっと和平に動くと信じ打電し続けた。
しかし、
小野寺夫婦の情報はついに活かされる事なく、
原爆が投下され、日本は敗戦を迎える…。

戦後、百合子は、『ムーミンパパの思い出』など
児童文学の翻訳に携わる。一方、信は戦時中
の事には堅く口
を閉ざし、無念の思いで日々を
過ごしていた。夫にか
つての誇りを取り戻して
欲しいと願う百合子は、自分
たちはもう1度、過
去と向き合うべきだと語る。信は、
消えた電文
の行方を探る決意をする。戦争の最前線を

きた稀有な女性の姿を通して描く、夫婦の愛の
物語。

**********

私は以前、この本を翻訳した事があります。
題は、「ムーミンパパの思い出」。
ムーミン一家の主が、自分の半生を、
子供たちに語って聞かせる物語です。
その冒頭の言葉が、印象に残っています。


「世の中で、何かよい事、あるいは、
本当によいと思われる事をしとげた人は、
みんな誰でも、自分の一生について、
書き綴らなければならないのです」。


**********

信) へえ~ムーミンか。
  これ、どういう話だったかな?
百合子) ムーミンパパが遠い海に出て
     冒険をした、思い出話ですよ。
信) ははあ…遠い海でね。
  そこで不思議な竜と戦ったり。
百合子) はい。あなたもそうでしたわね。
     遠い国で戦って…。
信) そして…負けた。


夫は、ムーミンパパのように、
遠い国で不思議な竜と戦ったのです。
そして、その戦いは、
私の戦いでもあったのです。


**********

佐佐木) 百合子さんの歌を、
     詠んでさしあげなさい。
女性) ましろなる 花にむかひて 我が心
    清くやさしく なりし心地す
百合子) ありがとうございます。
佐佐木) 文字どおり、
     清く優しいまっすぐな歌だ。ただ、
     世の中には、光もあれば、
     その裏に、闇もある。
     よい歌を作るには、闇を見る、
     心の幅も必要だと、思いますよ。
百合子) 闇を見る…?


**********

いちやく草
静にたたずむ いちやく草
今はまだ夏
でも 秋はもうすぐ
花の命は 短いよ


**********

8月、広島と長崎に原爆が投下され、
夫の情報どおり、ソ連も参戦しました。
戦争は、無残な終わりを迎えました。

翌年の3月、私達は、
日本へ戻ってきました。

夫は、久里浜港に着くと、
すぐアメリカ兵に連行され、
この巣鴨の拘置所に入れられました。


**********

信) 米軍の連中がね、私を、日本語で、閣下
  と呼ぶんだ。「閣下は、朝から便所掃除だ」。
  大笑いさ。
百合子) ストックホルムで、あれだけ一生懸命
     戦争をやめさせようと、努力なさったん
     ですもの。閣下ですよ。あなたは閣下
     ですよ。私は心の底からそう思います。
     この間ね、和歌の先生から、お便り頂
     いて、久しぶりに、歌を作ってお送りし
     たんです。読んでくだすって、返事頂い
     たんです。「あなたは、どこまでも、明る
     い歌を詠む方ですね」って。「でも、以前
     とは少し違います。生活があって、苦し
     みがあって、あなたの世界が見えます」
     って。初めて、褒められました。
信) そう。
百合子) 苦しみなんて、ないのにね。

**********

MPに 見据えられつつ 差し入れの
本の包みを おもむろに解く

今日も亦 雨戸あければ 日はさしぬ
明日こそ早く 起きて出ではや


夫は、戦争犯罪の罪には問われず、
4ヶ月余りで巣鴨を出所しました。

**********

31年後―
昭和52年(1977)


そのあとは生活との闘いでした。
さまざまな仕事を転々とし、
スウェーデンの友人に勧められて
始めた貿易業が形になったのは、
日本が復興を始めた頃でした。
私が、翻訳の仕事を引き受けるよう
になったのも、その頃の事です。


**********

百合子) あの頃、陸軍の参謀本部で、私達
     の電報を読んでた人が出てますよ。
     作戦班で参謀をやってらした方ね。
     今は、財界の、ご意見番ですって。
     「陸軍時代の経歴が、輝かしい」
     って書いてある。
     勝った国の軍人みたいに。
     本当の事を誰かが言わなければ、
     こういう人が、次々に出てくるんだと
     思いますよ。そういう人がいて…。
     あなたのような人がいて…。
     何か、変ですよ、この国は。


**********

信) その停戦が遅れたから、
  長崎と広島に原爆が落ちましたよね。
  その責任は…誰が取ったんですか。
一同) ………。
男性) まあ、いろいろ問題があったと思いま
    すが。大局からものを見るのが下手だ
    ったという事でしょう。僭越ながら、ドイ
    ツの原島さんは優秀な方だったが、ド
    イツを知り過ぎていた。だからドイツが
    分からなかった。つまり、陸軍の中にい
    る者は自分が見えなかった。だから敗
    れた。しかし、外にいた武官は少し違っ
    た。陸軍というものを、日本という国を、
    外からよ~く見ていた。そういう事だと
    私は思うのです。
男性) まあ、今更言ってもしょうがない事です。

**********

百合子) 二人で書くのよ。あの頃の事を。
     あなたは、あの頃の事に誇るべき事が
     何もないとおっしゃる。そうかしら?
     今日ね、押し入れを整理していたら、
     絵本を見つけたんです。ストックホルム
     から、潜水艦で日本に送ってもらった
     絵本。あの戦争をくぐり抜けて、ちゃん
     と残ってたんだって、今日まで。嫌な時
     代だったけど、あなたも、私も、出来る
     事は何でもしようって、必死で…。その
     事は、誇りに思ってますよ、私。いろい
     ろあったけど、それでいいんだって。
     今になって、そう思うんですよ。
     あなたと一緒にやってきて、
     何も後悔する事はないんです。
     そう思う自分がいるんです。
     そういう自分に、誇りを感じるんです。


**********

信) 子供達には、大きな借りがある。私達が
  戦争の間、何を考え、何をしていたか、一
  度も話した事がない。みんなが、休みの日
  に…いつでもいい。集まってもらって、話し
  てみよう。子供達が聞いて、「おやじもまあ
  まあ頑張った。お母さんも頑張った」。そう
  思ってくれれば、ほっとする。
百合子) そうですよ。
信) 話してみようか。我々の、思い出を。
百合子) それを基にして、
     私達の本を書きます。
     夫婦の、正直で、真実の物語です。
信) 明るくて、まっすぐな、本だね。

**********

あの「ムーミン」を翻訳した女性が、戦時中、ス
パイ活動をさせられていたなんて…。ビックリ。

戦争は、怖いなあと。ありきたりだけれど、とて
もシンプルにそう感じた。何が怖いって…人間
が一番怖いと思った。戦争は、人間が起こすも
の。戦争が、ある日突然勝手に始まる訳じゃな
い。誰かが、意志を持って、始めるもの。そして
終わらせるのもまた…人間。人間が一番怖い。
殺すも殺さぬも、人間が決めて、実行するのだ。

小野寺夫妻が、正しい情報を得て、何度も日本
に伝えていたのに、その情報は生かされず…。

…怖い。その事実が、とんでもなく怖いと思った。
正しい情報を得ていても、それが正しく、届くべ
きところに届くとは限らない。
情報を、正しく生か
せる人に届くとは限らない。
届けた人の思いが、
届いた人に伝わるとは限らない。それが、怖い。

軍の中のつまらない人間関係、力関係、あまり
にも小さすぎる世界で、目が曇った人間に握り
つぶされてしまった情報。大きな流れの中では、
もうすでにどうしようもなくなっていたのかもしれ
ないけれど…。大きな惨劇の蔭に、人間が引き
起こしたつまらないきっかけもあったんだろうな
と思うと…本当に恐ろしい。だってそれは、昔の
話ではなく、今も、きっと変わらないだろうから。

人は間違う。間違ってから気付く。昔も、今も…。
戦争は怖い。戦争は嫌だ。そう言い続けないと。



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