「逃げるは恥だが役にたつ」
第７話
あのキスのあとさき
（妄想・バスガイドになったみくり）
みくり） え～こちらをご覧ください。私の雇用主
の、津崎平匡さんでございます。この方、
先日の旅行の帰りに、何と、突然、キスし
てきたんです。ところが…
（回想）
平匡） すいません。
みくり） 平匡さん！
みくり） そうして、次の電車も、
バスの中でも、何も言わずに爆睡。
でも絶対タヌキ寝入り。
家へ着いてからも…
（回想）
みくり） あの、平匡さん、さっきの…。
平匡） あっ。
月曜の仕事の準備を忘れてました。
みくり） 今日はまだ、土曜ですが。
平匡） 時間がかかるんです。
みくり） 夜食、作りましょうか？
平匡） お休みの日ですし、カップラーメンで
すませます。気にしないで。
みくり） それからというもの、
あの日のことは完全にスルー。
鬼スルー。ノータッチ、ノーリアクション、
バックオーライ。
何なんですかねえ、この人は。イーッ。
みくり） 今朝のお味噌汁どうですか？
平匡） はい、いつもどおりおいしいです。
みくり） よかったです。
このお味噌汁は、旅館の食事のおいしさに、
私も本格的にだしを取ろうじゃないかと発奮。
今朝早起きして、
きちんとかつお節から一番だしを取った、
特製のお味噌汁なんですけど。
それはまあ、どうでもいい。
問題は、平匡さんがどういうつもりなのか。
火をつけておいて放置とは。
燃え広がったらどうするつもりなんだ。
あなた、放火犯ですか？
みくり） この魚どうですか？
平匡） あっ、おいしいです。
今まで出たことないですよね。
みくり） はい。焼いたキスです。
（むせる平匡）
平匡） （かすれた声で）
へえ～おいしいですよね。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
みくり） はあ…。
ここまでスルーされると、
何だかもう、今までの全て、
幻だったんじゃないかしら？
（マッチ売りの少女になった自分を妄想）
就職活動に疲れ、
誰からも必要とされない、
行き場のない悲しい女が、
死ぬ間際に見た幻想。
社員旅行という名の疑似新婚旅行も、
列車の中のキスも、
全て、全て、全て、私の妄想。
みくり） 嬉しかったのにな…。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
僕としたことが、どうかしていた。
プロの独身とは、
人を簡単に好きにはならないし、
発展しない。
むしろ発展させないことが重要だ。
それこそが平穏。
あのときは、どうかしていた。
あのとき…
離れ難くて、
通じ合っている気がして、
愛おしくて。
（みくりとのキスを思い出す平匡）
平匡） わあっ！
（トイレの個室から出てくる平匡）
渡辺） 中で叫びました？
平匡） いえ、別に。
完全にどうかしていた。
なぜ、あんなことができたのか。
疑似新婚旅行によるハイ。
ハネムーンハイだ。
調子に乗っていた。
心が通じ合ったなんて、
勝手な思い込みだ。
雇用主として、最低の行為。
セクハラだ。
みくりさんは口では何も言わないが、
確実に腹を立てている。
このまま嫌われ辞職されてしまったら、
あとに残るものといえば、
（妄想・平匡）
平匡） そうですね。
このくらいの年になれば、さすがに、
キスくらいはしたことがあります。
言える。
今までモヤッとごまかしてきたことを、
堂々と言える。
それだけでも、よかったと思うしかない。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
みくり） お帰りなさい。
平匡） 「残業で、遅くなるので先に
寝てください」とメールで…。
みくり） メールは読みました。
でも今日は火曜日なので。
平匡） たった今、水曜日に。
（腕を広げるみくり）
平匡） 失礼します。
平匡） おやすみなさい。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
みくり） はあ…。
ずるい。
仕方なさそうに、ぞんざいに、
キスを、後悔してるみたいに。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
できただろうか？
今までどおり、何もなかったように。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
なかったなんて、
思えるわけないのに。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
どうかこのまま、
この生活を、一日でも長く。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
風見） 新婚旅行、どうでした？
津崎さんとついにそういう関係に。
みくり） まさか！
風見） 一線越えてないんですか？
みくり） 越えるどころか、踏み外しましたね。
風見） 踏み外す…具体的には？
みくり） 風見さん、会社いいんですか？
風見） 土曜に出たんで、今日は代休です。
みくり） ふ～ん。そこどいてください。
風見） みくりさんでも、感情的になるんですね。
みくり） 元々こういう人間で、猫かぶってただけ
です。余裕があればかぶり続けられる猫
も、余裕がなければ、中身が出てきてし
まいます。
風見） 余裕ないんだ？
みくり） うれしそうに言わないで下さい。
風見） そういうみくりさんも、魅力的ですよ。
みくり） 風見さんだったらなあ。
風見） えっ？
みくり） 相手が風見さんなら、何かドキッとする
ような事をされても、「あっ、これはテクニ
ックに違いない。私をドキドキさせる作戦
だろう」と思える。でも、どう考えてもそう
いうタイプじゃない人だと、どうとらえたら
いいものか。はあ…。
（みくりをハグする風見）
風見） ドキドキします？
みくり） 遊ばないでください！
風見） はい。
みくり） あっ、どいてください。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
風見） 津崎さんが羨ましくなりました。僕みた
いなタイプは本気にされないんですよ。
遊んでると思われる。
百合） 思われたの？
風見） みくりさんにキスしようとして。いや、
本気でしようとした訳じゃないんですが。
百合） どっちよ！ 心臓に悪い。
風見） 津崎さんは見た目も中身も誠実
だから、真面目な恋が手に入る。
百合） 気持ちは…分からなくもない。
私も若い頃よく言われた。「土屋さん
が俺のこと相手にするはずがない」。
風見） モテたんだ。
百合） さあねえ。本当の意味では
モテてなかったのかもね。
風見） 刺さるなあ、それ。
百合） ああ、もう行かないと…。
風見） ここは僕が。
百合） 何よ。詫びるつもりがあるなら
奢れって言ったのそっちでしょ。
風見） 百合さんって奢られるの嫌いそうだから。
百合） 分かってるじゃない。
風見） だから、僕が払います。
百合） 嫌がらせ？
風見） ムカついた？
百合） 別に。
あなたに対する認識を改めたから。
風見） もう「ムカつくイケメン」じゃない。
百合） 生意気な甥っ子。
風見） 甥なら「おばさん」と呼べばいいですか？
百合） 呼んだら殺す。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
安恵） みくりってさ、すぐそういう事言うよね。
みくり） うんっ？
安恵） こうすればああすればって、自分です
るのは勝手だけどさ。言われるとうざい。
みくり） あっ。今の言葉、ハードヒット。
安恵） マジ？
みくり） 色々うまくいかなくて。
安恵） 彼氏？
みくり） 本当は、彼氏ですらないの。
安恵） えっ？
みくり） 結婚はしてるんだけど。
籍は入れてなくて。
あと…キスされた。一度だけ。
安恵） 妄想…？
みくり） 妄想かも。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
自分だけが（みくりの誕生日に）
気付いていなかったという、
目の前の、この、事実。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
平匡） 少し前の話になりますが。
みくり） はい。
みくり） はい？
平匡） みくりさんの。
みくり） 少しどころか、だいぶ前…。
平匡） ホントに、すいません。
みくり） それは特に。それよりも。
（封筒を差し出す平匡）
みくり） えっ？
平匡） いろいろ考えたんですが、
これがベストかと。
平匡） それはプレゼントではなく、賞与です。
みくり） 賞与…。
平匡） 雇用主が、従業員の誕生日に、個人的
な贈り物をするというのは、あまりよろし
くないと思いました。だけど、日頃の感謝
の気持ちは、形にしたい。
みくり） それで、ボーナス…。
平匡） なので、お返しは、不要です。
以上です。おめでとうございました。
みくり） ありがとうございました。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
１か月も過ぎてから、なぜ？
これはもしや、キスの慰謝料？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（メール・みくり）
賞与、ありがとうございます。
きいていいですか？
どうして私にキスしたんですか？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（メール・平匡）
すみませんでした。
雇用主として不適切な行為でした。
謝罪じゃなくて、理由！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
言えるはずがない。
調子に乗ってキスしてしまったなんて。
重ねてお願いしておこう。
（メール・平匡）
どうか、なかったことに
してもらえませんか。
（…と送信する前にみくりからのメール）
（メール・みくり）
謝る必要はありません。
謝らなくて、いいの？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（メール・平匡）
しかし、一方的で許されない行為
だったように思います。
深く反省しています。
だから、なぜ反省？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（メール・みくり）
社員旅行としてはセクハラでアウトですが、
新婚旅行という体でもあったし、
一応形式上は恋人なのでスキンシップの
延長でアリじゃないでしょうか。
アリなの！？（平匡）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（メール・平匡）
ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
何を？ 何をよろしく？
分からない。
何て返せば正解なのか。
分からない。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（メール・みくり）
こちらこそよろしくです。
末永く。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
平匡） 今晩は、残業でかなり遅くなると
思います。夕飯は会社で食べる
ので結構です。
みくり） はい。
平匡） 今日、火曜日ですよね。
平匡） 今日はちゃんと、先に寝てください。
みくり） はい。
平匡） 行って来ます。
みくり） 行ってらっしゃい。
好きの、嵐が。
私の中の、平匡さん旋風が。
（みくり・妄想）
みくり） ザ・ベストテン。今月の、第１位！
「今日はちゃんと先に寝てください」。
津崎平匡、９９９９点！
ここで先月のランキングを
振り返ってみましょう。
ランクの範疇である４位までは、
様々な曲がランクインしていましたが、
ベスト３は残念ながら欠番でした。
それが今や、順位を大きく塗り替え、
平匡さんが３位、２位までもランクイン。
ついに、心のベストテン、第１位に！
こんなに好きになってしまって、
大丈夫だろうか？
仕事に支障を来すんじゃ…。
いや、今は素直に喜ぼう。
おめでとう、１位！
ありがとう、１位！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
火曜！（みくり）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
火曜！（平匡）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
平匡） 今日は、定時で帰ります。
みくり） 分かりました。待ってます。
平匡） 待っていてください。
行ってきます。
みくり） 行ってらっしゃい。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
かわいい～！
以前から結構かわいいとは思っていたが、
最近はもう、とてつもなくかわいい
んじゃないかと思い始めている。
認めざるを得ない。
これはもう、これはもう…
（クラクション）
運転手） 何やってんだ。危ないじゃないか！
平匡） すいません。
今は、死にたくない。
今晩家に帰るまでは、死ねない。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
プロの独身とは、
発展しない、発展させないが鉄則。
だけど、初めて知ったその場所が、
あたたかくて、凍えた体を温めに、
帰ってきてしまうんだ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
２度目のキスは、ないのかしら？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（「キス タイミング」で検索する平匡）
平匡） 20も！？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
平匡） まさか沼田さんが、僕と風見さんが
相思相愛だと思っていたとは。
風見） 笑っちゃいましたね。
平匡） 沼田さんて、鋭い人だと思ってました。
男目線と女目線の両方を持っていると
いうか。
風見） 持ってないでしょ。
平匡） えっ？
風見） ゲイだからどうこうじゃなくて、
沼田さんは単に沼田さんなんですよ。
日野） うん。
あれは沼田頼綱っていう生き物だ。
まっ、鋭いっちゃあ鋭いけどね。
風見） 一周回って斜め上。
平匡） 自分が決めつけられるのは嫌なくせ
に、どうして人は、偏見を持ってしまう
んでしょう。
風見） イケメンって偏見もありますよ。
日野） その偏見、超持たれたい。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
百合） 仕事ってさ、人と人との関わりだから。
みくり） 関わり…。
百合） 結局そうなっちゃうんだよね。
否が応でも。
みくり） 私がしたい仕事って、
そういうことかもしれない。
百合） うんっ？
みくり） 大企業に勤めたいとかじゃなくて、
狭い世界でもいいから、人とのつな
がりで、成り立つ何か。
百合） ボランティア。
みくり） ううん、お金は欲しい。
お金って生活だし。
百合） うんうん。
みくり） でも、稼げさえすればいいっていう
ビジネスライクなことよりも、好意を
持ってつながってたいなっていう。
百合） うん。それは大事。どんな仕事も、
相手への感謝とリスペクト。
感謝と敬意。
平匡さんはずっと、
私に感謝と敬意を示してくれていた。
それは、雇用関係だからだろうか？
もし、一線を超えたら…
どうなるんだろう？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
平匡） アイスワイン。
みくり） 極寒の地で、自然に凍ったブドウだ
けを使うんだそうです。凝縮された分、
糖度があがるって。
平匡） 想像よりずっと甘い。
みくり） ちゃんと言ってなかったんで、
言おうと思うんですが。
平匡） はい。
みくり） 平匡さんに雇ってもらえて、
毎日楽しく仕事ができて、
ありがとうございます。
平匡） こちらこそ。
みくり） それと、それだけではなく。
（回想）
みくり） 平匡さんが一番好きですけど。
従業員としてなら、簡単に言えた言葉が、
どうして、言えなくなるんだろう。
（手を伸ばし、ワインを飲む平匡）
みくり） いいですよ。私は。平匡さんとなら。
そういうことを、しても。
平匡） ごめんなさい。無理です。僕には。
そういうことが、したいんじゃありません。
すいません。無理です。
みくり） 私こそ、すいませんでした。
忘れてください。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
穴があったら入りたいとは、
このことで。
地球の裏側まで、
掘り進みたい気持ちで、
いっぱいで。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
消えそうな月の夜、
私は、303号室から、
逃げ出したのでした。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
うわ～！ 平匡とみくりが可愛すぎて萌え死ぬ！
としているうちに膨大な量になってしまい、感想
を書く容量がなくなってしまうという事態…(涙）。
でもつまり、載せてあるセリフ、シーン全部が萌
えポイント。私の心が揺さぶられた、身悶えした
ところ！そう思って、萌えを共有して頂ければと。
とにかく平匡は逃げちゃダメ！逃げちゃダメだ！
童貞を言い訳に逃げるのはここまでだっ！（怒）
幸せは歩いてこない。だから歩いてゆくんだよ！
（ｂｙ「365歩のマーチ」←結構深い歌詞に震える）
ちなみに私の逃げ恥心のベストテン第１位は…
「僕らの罪悪感は僕らで背負う（津崎平匡）」！
いまや火曜日はハグの日…いや、逃げ恥の日。
ワクワクハラハラドキドキ。萌えフィールド全開！
ドラマが楽しみで仕方がないって、久しぶり～♪
＜先月の心のベストテン＞
（1～3位、欠番）
4位、僕らの罪悪感は僕らで背負う（津崎平匡）
5位、逃げるのは恥だけど役に立つ（津崎平匡）
6位、私はみくりの味方だからね（土屋百合）
7位、好きです～周りの意見はどうでも～（風見涼太）
8位、家事をお願いしてよかった（津崎平匡）
9位、二人で決めたならいいじゃない（土屋百合）
10位、上を向いて働こう（津崎平匡）
＜今月の心のベストテン＞
1位、今日はちゃんと先に寝てください（津崎平匡）
2位、君の作る料理が好きだ（津崎平匡）
3位、僕らの罪悪感は僕らで背負う（津崎平匡）
4位、やってみましょうか、恋人（津崎平匡）
5位、逃げるのは恥だけど役に立つ（津崎平匡）
6位、下は冷えます（津崎平匡）
7位、バニラ（津崎平匡）
8位、上を向いて働こう（津崎平匡）
9位、家事をお願いしてよかった（津崎平匡）
10位、ささやかですが（津崎平匡）
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