「カーネーション」
第148回～第26週 「あなたの愛は生きています」
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平成17年（2005）12月
＜小原家＞
女性） せやけど、ほんまに、こんな頼も
しい事ないで。同い年の人が、まだ現
役でデザイナーやってるやて～。
糸子） ハハッ、ほうか？
女性） そらそうや。
いや～うちも、まだまだやれるん
ちゃうかな～ちゅう気にならし。
糸子） いや、まだまだどころちゃう。
これからや。うちらこれから！
電・孝枝） はい。あ～優子さん、
こんにちは。来週の水曜ですか？
空いてへんと思いますけどね…
ああ、空いてませんわ。前日に
名古屋で講演があって、そっから、
岸和田への移動日ですから…。
いや、ま、せやねんけど、次の日ぃ
もまた朝からありますしねえ。う～ん。
今の体でそない無理させる訳にも。
う～ん、うん、すんません。
電・女性） もしもし、はい。
あ、着いた？ うん、は～い。
糸子） 車来たて？
女性） はい。すぐそこに。
お母さん、帰りましょう。
よいしょ。はい。よっこいしょ。
女性） ほなら、た～んと
頼んどくわな。小原さん。
糸子） 任しといて。
ごっついええのん作るよって。
女性） 楽しみやな～。ほなな。
糸子） ほなな。
女性) ええで。見送らんでええからな。
すぐそこに来てるんやし。
女性） ほんま結構ですよって。
先生、ありがとうございました。
糸子） おおきに。
女性） またなあ。
糸子） おおきに。
フミ子） ありがとうございました。
（携帯の呼び出し音）
電・糸子） はい。ああ優子…何や？
来週の水曜？ 何で？
うん、うん、ウフフ…うんうん…。
よっしゃ、行っちゃるわ。
もう任しとき、心配せんで。
任しとき任しとき。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜リビング＞
（食事をしている糸子、
フミ子、浩二、篠山）
孝枝） 要はね、アホらしなる訳ですよ。
こっちが先生の体の心配しながら、
どないか仕事回していこうと思て必死
になって組んでんのにね。大体優子
さんらかてね、本気で先生の体の事
なんか考えてないと思うんですよ。
いや、ま、そら、全然考えてへん訳や
ないと思いますけど。もう先生と一緒！
事仕事んなったら全部頭から飛んで
まうんですわ。よう分かりましたわ。
親子そろて好っきなだけ仕事しはっ
たらええんですよ。もう何がどない
なろうとうち知りませんよって！
（糸子の前に薬を置いて立ち去る孝枝）
糸子） えらい、怒ってるやんか。
篠山） そらそうですわ。
糸子） ちょっと、後で、
何か機嫌とっといてや。
篠山） 知りませんよ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
優子から頼まれたんは、
東京の病院での講演でした。
元は優子が引き受けてたんが、
どないしても、
都合が悪なってしもたそうです。
糸子） すんませんな。年寄りが代わりで。
院長） とんでもない。
より含蓄のあるお話が聞けそうだと、
みんな大喜びしてますよ。
看護師長） そうです先生。
この川上なんて…。
川上） あの、今日一日、お手伝いさせて
頂きます、川上と申します。
看護師長） 私の前の看護師長をやって
た者なんですけど。優子さんから先生
に代わられたって言ったら、ボランティ
アでいいから、手伝わせてほしいって。
糸子） はあ。
川上） あの、実は私、以前、岸和田に
住んでた事があるんです。当時のお
友達が、先生がなさった、病院のファ
ッションショーの、新聞記事を送ってく
れまして。もう感動致しました。
糸子） ああ～ほうですか。
川上） はい。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜ホール＞
（拍手）
糸子） 皆さん、初めまして。小原糸子で
ございます。大阪の岸和田ちゅう町で、
洋裁店と、それから、デザイナーをして
おります。今日は、病院での講演とゆう
事で、私なりに、いくつかテーマを用意
してまいりました。洋服を作るちゅう事
に、生涯ささげてきた私ですが、こうし
て、医療の現場の皆さんにお話しでけ
る事とゆうたら、ただ一つ…。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
電・孝枝） あ、優子さん？
はい、今先生講演終わられました。
ここは、15階の休憩室ですわ。
院長） すばらしいお話を本当に
ありがとうございました。
看護師長) ありがとうございました。
糸子） そない言うてもうたら、もううれ
しいですわ。こちらこそ、おおきに。
院長） それじゃ、すいません。
私たちはこれで、失礼します。
看護師長） 失礼致します。
糸子） 失礼します。
孝枝） 先生、何や今優子さん
玄関に着いたそうですわ。
糸子） 優子？ あの子用事
あったんちゃうんかいな。
孝枝） 何やはよ終わったよって顔だけ
でも出しに来たそうですわ。ちょっと
うち迎えに行ってきますよって、お願
いします。
糸子） おおきに。
川上） では先生、タクシーの時間にな
りましたら、またお迎えに参ります。
それまでどうぞ、ごゆっくりなさって
下さい。では。
糸子） はれ…せっかくやさかい、
お話ししましょうな。
川上） お疲れじゃないですか？
糸子） いや、体がくたびれたよって、余計
お宅みたいな人と話したいんですわ。
川上） ありがとうございます！
すばらしいお話でした。
もう何度も涙が出ました。
糸子） ほうですか。
川上） その、岸和田の看護師長様にも、
是非一度、お目にかかってみたいです。
医療の現場に、私も、40年ほど、
携わってまいりましたので。
糸子） 一度、来てみはったらよろしい
ねん。うちが紹介しますわ。
川上） まあ。
糸子） 岸和田には、いつごろまで
いはったんですか？
川上） あ…私は…24までです。
糸子） 結婚でこちらへ？
川上） はい。
糸子） 24まで住んではった割には、
岸和田弁が出ませんね。
川上） はい…。
糸子） うちの娘らは、それぞれ出て長い割
に、ちっとも岸和田弁が抜けませんわ。
川上) はい。それは、あの…。
私は、10歳まで、長崎におりましたので。
（川上を見つめる糸子）
川上） 先生、実は…。
私の死んだ父が、いっとき、先生の
ところで、お世話になっておりました。
（川上から目をそらし、涙をこらえる糸子）
糸子） お、お宅…どちらさん？
川上） はい。私は…。
周防龍一の娘でございます。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（入り口で２人の話を聞いている優子）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
糸子） （泣）
川上） はっ…申し訳ありません！
失礼致しました。
（優子に気付き、頭を下げ、立ち去る川上）
（川上を追う優子）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
孝枝） 先生…？
糸子） （泣）
（泣いている糸子の背中をさする孝枝）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜廊下＞
川上） いつぞやは…弟が、失礼しました。
優子） こちらこそ。母が…。
申し訳ありませんでした…。
（頭を下げる優子）
川上） いいえ。
人を憎むというのは…苦しいものです。
私にとって、ただ一つ救いだったのは、
父の相手が、先生だったという事でした。
憎むには、あたらない方だと…
いつごろからか…ある程度、年を取っ
てからですが、思えるようになりました。
それでも、汚い感情が、全くなかったか
と言えば…嘘になります。（涙）
優子） （涙）
川上） でもそれも…
さっき、先生の目を見て、消えました。
先生も…ずっと思い続けてきて下さっ
たんだと…思いました。（泣）
優子） （泣）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（控え室で泣きじゃくる糸子）
長い長い、記憶を持ってる。
それが、年寄りの醍醐味ともいえる。
守り続けて、
闇のうちに葬るはずやったもんが、
うっかり、開いてまう事もある。
老いぼれた体に、とどろく事、
打ちのめす事、容赦のうて。
ほんでも…これを見るために、
生きてきたような気もする。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
結局、今も昔も、糸子の心を揺り動かすのは
周防という存在なのだなあと…。周防の娘が
現れ、号泣する糸子。そして、優子もまた…。
二人だけの恋なら…誰も傷つかないのにね。
不倫と呼ばれてしまう恋の顛末を、ここまで
がっつり描いてくれるとは…なかなか切ない。
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