お握りの皿のある風景 | 曽根賢(Pissken)のBurst&Ballsコラム

曽根賢(Pissken)のBurst&Ballsコラム

元『BURST』、『BURST HIGH』編集長の曽根賢(Pissken)のコラム

[鬼子母神日記]

「福島県鳥キビタキ・ガイガー・カウンター」
佐藤ブライアン勝彦●作品




人を感知し空間放射線量を話す、福島県の県鳥、キビタキを模したガイガーカウンター。
元々はニューヨークに住む友人が「佐藤くんが好きそうなので」とゴミ箱から拾って来たもので、プレスリーの監獄ロックが流れていた。
震災で物が散乱した部屋の掃除をしていた時、このおもちゃがボロボロの状態で出て来た際に作品のアイデアが閃いた。

その頃は仙台の空間線量の数値もガイガーカウンターの値段も高く手に入りづらい状況だったため、自分の為にも作りたかった。
(ノイローゼの様な状態になり、眠れず夜な夜な漫画喫茶に入り浸っている状態だった)

そこで作品のアイデアを福島県の企業に相談したところ、心良く依頼を受け入れてくれた。
タイミングよく視覚障害者の団体から依頼され音の出るガイガーカウンターを制作中とのことだった。
日本に何社か制作している企業があったが、僕はどうしても福島県の企業に制作してもらう事に作る意味があると思った。
(佐藤ブライアン勝彦●文)

(※)尚、ユーチューブにて「ガイガーカウンター 福島県鳥キビタキver ビリケンギャラリー佐藤ブライアン勝彦展」で検索すると、動く姿が観れます。







●新宿歌舞伎町の某中華料理店にて泥酔中


6月25日(土)鬼子母神は雨、ときどき晴れ。

喉の渇きに目覚めると、昼の1時過ぎだった。
よろけながら立上ると、シャンペンを冷蔵庫から取りだし、畳に胡坐をかく。
栓をぬき、水がわりにラッパ呑みする。
ただし、むせないようゆるゆると。

「酔いざましのサイダーと迎え酒の効用を兼ねた飲料は、シャンペンに限る」
(若きパリ時代を振り返っての獅子文六の言)

ボトルの3分1ほどを呑みほすと、冷えた息を大きく吐き、6畳の部屋を見渡す。
布団も敷かず、畳に寝ていた。
カーテンも閉めていない。
が、外は小雨模様で、部屋は薄暗かった。

テーブルの中央には、お握りを盛った大皿がラップされてある。
明け方寝る前に、発作的に握ったものだ。
梅干の紫蘇の葉を刻んだものと、煎り胡麻をご飯に混ぜこんである。
ラップの内側に、水滴がびっしりとついている。

お握りの向こう、開けはなした窓の網戸越しに、窓柵の内に置いた3本のミニ・ヒマワリが見える。
赤いポットの2本は、1本が40センチ、1本が30センチの背丈だ。
しかし、黄緑色のポットのヒマワリは15センチほどの背丈しかない。
赤いポットの丈高いほうが直径7センチほど、低い方も6センチほどの黄色い花を咲かせている。
黄緑のポットの1本も、小さなつぼみをつけている。

陰気な部屋で、シャンペンを呑み呑み、テーブルのお握りとヒマワリの色の対比を眺める。
テーブルの赤茶。大皿の白。お握りの赤紫。ヒマワリの緑と黄色――。

それから、窓の下壁に頭をつけるようにして寝ている、色白のガクを見た。
小柄なガク(元『ニャン2倶楽部』編集長)は、もう40半ばだというのに、まるで幼児のように親指を口に含んで眠っている。
あらためて、お握りとヒマワリとガクの寝姿を、視界いっぱいに映してみる。

いい景色だ。

ガクの名を呼ぶと、すぐ目覚めた。
シャンペンのボトルを差し出す。
「ああ」とガクはつかみ、ラッパ呑みした。
途端、案の定むせて吹きだした。


「外で呑もうぜ。まだ金あるから」
とガクが言うので、タクシーで池袋へ向かった。
歩ける距離だが、すでに酔っぱらったガクが嫌がった。
雑司が谷には昼下がりに呑める店がない。

北口にあった24時間のチェーン居酒屋に入った。
2人ともホッピーを頼み、肴を2種。
しかし、そこに1時間もいなかったろう。
ガクが、近くに24時間営業の「女装娘(じょそこ)クラブ」があるから行こうと、愚図りだしたからだ。

元来ガクは、一か所に尻を落ちつけて呑むのが嫌いな男だ。
(昨夜も高田馬場で3軒ハシゴしている。むろんガクの奢り――シャンペンもガクが買ってくれた)
20代からのアル中で、よく私の部屋で呑みながら座りションベンをしたものだ。
(そのたび私のパンツを履いた)

当時からガクの「4日酔い」は有名だった。
(呑むと4日間ぶっつづけで呑むという意味)
誘われるたび「何日目?」と私は訊き、初日の場合は断わった。
とても付き合いきれるもんじゃない。

ガクは現在、奥多摩の実家にもどり、老父母にかくれて呑んだくれているらしい。
ライター仕事は月に4万円ほどしかなく、時給910円のロープウェイの運転手(?)のバイトに履歴書を送って、返事待ちだという。

ちなみに、元同僚の樋口毅宏(ひぐちたけひろ)の小説『ルック・バック・イン・アンガー』には、モデルとしてガクがフューチャーされている。
(登場人物のほとんどが、コアマガジンの編集者たちをモデルとしている。が私は出てこない)

ところで「女装娘クラブ」とは初耳だ。
「おかまクラブ」とどう違うのだろう?
しかし、すでにべろべろのガクは説明できない。

店を出る前に、私は食べ残した「イカ焼き」と、「ちくわの磯辺揚げ」を、パックに詰めてもらった。
それを見て「そうそう、夜のつまみにしなきゃ」とガクが言った。
気のいい店員がビニール袋もくれた。

外に出てすぐ「小便がしたい」と、ガクは眼の前の回転ずし屋に入った。
私は酒を頼み、さっそく甘鯛のコブ〆と、鰹と、烏賊と、ホッキ貝と、中トロを頼んだ。
便所から帰ってきたガクは「おれも酒を」と言ったが、鮨はつままず、酒も猪口でひと口呑んだだけで「さあ、出ようぜ」と立上った。

「うそだろ、おれ1年ぶりの鮨なんだぜ」
くそ、しょうがない。
(頼んだ鮨は1分で食べ終えていたが)
私は自分の1合瓶をラッパ呑みし、ガクの1合瓶をつかんで先に外へ出た。

それからあたりを廻ったが、やはりガクは、まったく店の位置を憶えていなかった。
それでも店の名前だけは憶えていて、道行く人に片っ端から聞いている。
24時間営業の「女装娘クラブ」なんて、そこらのおっさんが知っているわけがなかろう。
私は他人のふりをして、1合瓶をラッパ呑みしていた。

「曽根さん! あの子が探してくれるって!」
「あの子?」
見れば自転車にまたがった若い女が、スマホをいじくっている。
ちょっとコンビニへ出てきたといった服装とサンダル履きで、赤い眼鏡をかけ、10代にも見える童顔の女だった。

「いいんだよ、こんなのにかまわなくて」
「いえ、大丈夫……あっ、ありましたよ」
娘がガクにスマホを見せた。するとガクは、さも当然とばかり、
「ありがと、そこまで連れてって」という。
「おいおい」
「いいよ」と娘はくったくがない。
私は2人のあとを追っかけた。

路地を入ってすぐに、その店の入っているビルが見つかった。
3階と4階らしい――(ん?)
そのビルには「和風おっぱいパブ」も入っており、ちょうど5時になったばかりで、若い金髪の呼びこみが立っていた。

「40分で6千円かあ。ずいぶんと安くなったんだねえ」と、私は声をかけた。
「ええ、(今どきは)これくらいじゃないと」
「なに、この和風って? 着物着てるの?」
「ええ、けっこうエロいっすよ」
「うん、こんどお世話になるね」

そう言ってから、私は彼女を誘って、ビルの対面にあるタイ料理屋へ入った。ガクも異存はない。
彼女とガクは「シンサー」、私はキリン・ビールの小瓶を頼んだ。
肴は、彼女がなんでもいいと言うので、生春巻きと、タイ流のソーセージを。

彼女はN子と名乗った。
西の生まれで、東京はまだ3年。しかし、なんともう28歳だという。
どう見ても18歳の笑顔である。
仕事はチェーン居酒屋の運びやで、今日も10時から明け方まで仕事らしい。

芝居がしたくて上京したが、劇団に所属したことはない
「さっさと実家へ帰れよ。親御さんに心配かけるな」
と、あやうく言いかけた。

ビールを飲み干し、残った輪切りのソーセージを、前の店で〈おみや〉にしたパックに詰めた。
N子はやはりくったくなく「女装娘クラブ」へついてきた。
新宿2丁目の「おかまバー」に、1度行ったことがあると言う。

その24時間営業の「女装娘」の店は、3階がDVDを観る個室が並んでおり、4階がバーとなっていた。
メンズ・オンリーで、N子は入れないと言われたが、
「これ女装した男だから」と、ガクが強引に連れて入った。

入場料(?)は1人2,500円。
渡された小さなプラスチック籠には、コンドームが2つ入っていた。
金を払うと、オレンジ色の細いプラスチック布を手首に巻く。
細い通路の両脇に、6つの扉がある。
ドアを開くと、2畳ほどの薄暗い部屋に、ベッドとテレビ・モニターがある。

ベッドに私たちは籠を置いた。
それから4階に上がり、バー・カウンターに座った。
先客の女装娘が2人いた。
奥は8畳ほどのソファ席になっており、別の女装娘2人と、平服の男2人がこそこそ話している。
やがて、2カップルは3階へ降りた。

なんのことはない、女装娘クラブとは「はってんば」のことだった。

先客の身長183センチの女装娘に、ソファ席の「奥の部屋」を案内してもらった。
そこは、暗く、狭く、生臭く、なにやら禍々(まがまが)しかった。
3畳くらいか。
1畳半が観客席らしい。
水槽を側面から観るようにして、四角の枠の奥に敷き布団がある。

すでに1人、大きな紙芝居を待っている短髪の中年男がいた。
私は頭を下げ、「どうも、うるさくてごめんね」と言った。
彼はそっと薄い頭を下げた。

それからカウンターで、私たちはセーラー服姿のマダムや、女装娘2人と楽しく呑んだ。
酒はなんでも500円。
私たち3人は、ウイスキー・ソーダを何杯も呑んだ。
もちろんガクの金で。

バイトへ行くN子が9時ごろ帰り、しばらくして私とガクも「はってんば」を後にした。
タクシーで新宿へ。
なじみの中華料理屋へ着くなり、元同僚の稲野辺さんを呼び出す。
この店までは、〈おみや〉のビニール袋を私は手にしていた。


●中華料理の肴も〈オミヤ〉にしていたようだ。


稲野辺さんの案内で、歌舞伎町の、ど派手なナイト・クラブへ行く。
ラスベガスのそれを模したのだろうゴージャスな店内に客はおらず、白人の店員が手持ちぶたさに突っ立っている。


●真ん中が稲野辺さん。左がガク。


ステージでは、外人のピアノとウッド・ベースをバックに、日本人の女ジャズ・シンガーが、われわれ3人だけに歌ってくれた。
60年代の「農協」のおっさんのごとく、私は盛んに声援(?)をかけた。












そこを出てから、ゴールデン街の「中村酒店」へ向かう。
途中の路上で、むりやり2千円を稲野辺さんからむしりとる。
店へ入ってすぐ、客の若僧に喧嘩を売り、私ひとり京ちゃんから追い出される。
素直に1時間歩いて、〈七曲がり荘〉へ帰った。


〈除湿〉をかけっぱなしにしていた6畳は涼しかった。
テーブルには手つかずのお握りの大皿があった。
いい景色だ。
が、そこでようやく、〈おみや〉をどこかへ置き忘れてきたことを知った。

私は冷蔵庫からシャンペンを取り出した。
それをグラスで呑みながら、お握りをゆっくり、もしゃもしゃと食べた。
「これが、女の握ってくれたもんだったらなあ」
と、つぶやいた瞬間、4方の壁が膨張するほどの沈黙が部屋に満ちた。

が、すっと沈黙の緊張はとけた。
「そういや半分、ガクが握ってくれたんだっけ」
女じゃなくとも、人が握ってくれたお握りは旨い。
冷蔵庫には、明日の酔いざめ用のシャンペンも残っているし――。


――2日後の昼、ガクがまた雑司が谷へ来た。
あれからずっと新宿で呑みっぱなしだったという。
ガクの「4日酔い」は健在だった。
それから、元シブガキ隊のバック・バンド「シブ楽器隊」のギタリストで、元同僚の川守田(私と同い年)を呼び出し、割烹店「 I 」で、キンメ鯛の煮魚を肴に呑んだが、記憶はおぼろである。



7月21日(木)鬼子母神は朝から小雨。

今日午後6時半より、ボスYの事務所にて横戸と3人、THE SHELVIS(ザ・シェルビス)のセカンド・シングルの原稿を校了する。
B面の「ものもらいの数珠」のラストの書き直しを終えたのが昨夜。
(A面は「親不知(おやしらず)のしゃれこうべ」なり)

掌編2作に5カ月もかかったが、どうにか振り絞った感あり。
あなたに読んでほしい。
せめて「ジャケ買い」してほしいな。

読んでくれてありがとう。
これから早いペースでブログをアップします。
ぜひ御贔屓に。
おやすみなさい。
よい夢を。



P.S.
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