翌日の明け方、キョーコは布団の中に入りながら悩んでいた…。
『俺は是非、この映画で君と共演したい。
よく考えてみて?』
そう蓮に言われた。
(共演……かぁーーー)
前に、相手役だけはやりたくないと思っていた時のことを思い出す。
(でも、今はーーー)
蓮も初めてになると言っていた、ラブシーン…。
むしろ、自分がその役をやれるのなら…
という気持ちに変わってきていた。
(それにーーー)
トラジック・マーカーの撮影もクランクアップし、
カインとセツでなくなった今、
蓮と会える時間は格段に減っていてーーー。
(目の前で、敦賀さんの演技を学べるのならーーー)
キョーコはふぅーと大きなため息を一つ吐き出し、
「ーーーよしっ!」
勢いよく布団から飛び出した。
* * * * * * * * * *
顔合わせ当日、先に事務所に寄ったキョーコは、
蓮と遭遇し、社との3人で現場へと向かった。
キョーコと蓮、並んで顔合わせ場所へと到着するとーーー
「あらーっ!蓮ちゃん!」
長身で長い髪を纏め上げ、白いシャツに細身のパンツ、
腰にチェックのシャツを巻き付けた女性が、
ハイヒールをカツカツと鳴らしながら近づいてきた。
「ご無沙汰しております、増田監督。
この度は起用頂きまして、ありがとうございます。」
丁寧なお辞儀をする蓮に対して、
「やだー!蓮ちゃん!堅苦しいわよっ!
それにしても、ほんっっと、イイ男になったわねーっ!」
そう言ってバシバシと蓮の肩を叩いていた。
キョーコはその様子に圧倒されながらもーーー
(この女性が、増田監督ーーー。
敦賀さんのことを、蓮ちゃんって呼ぶ人、
ミューズ様以外にもいたんだーーー。)
「もう、最近はうちの娘も蓮ちゃんのファンになっちゃってねー!
この映画も楽しみにしてるから、頼むわよーっ!」
すると今度は、キョーコの方へと向き、
「あなたが京子ちゃんね?
よろしくね!」
差し出された右手を、キョーコは両手で掴み、
「ハイっ!よろしくお願いしますっ!」
深々とお辞儀をした。
「やーん!可愛いっ!お肌もツルツルね!
必ずあなたを素敵に撮るから、一緒に頑張りましょう?」
「…はいっ!!」
* * * * * * * * * *
蓮とキョーコが用意された自分の席に着き、
他の共演者を待っていると、よく見知った男性が一人入ってきた。
「あらっ!あなたは村雨くんね!?
秀人から話は聞いてるわ!
よろしくね!」
(むむむむ、村雨さんっっ!!)
キョーコは思わず隣の蓮の顔を見る。
蓮は少し眉根を下げた表情で、キョーコと目を合わせた。
トラジック・マーカーはまだ映画公開前。
当然、蓮とキョーコがカインと雪花であったことを村雨は知らない。
増田監督と挨拶を済ませた村雨は、
主演であるキョーコと蓮の方へと向かってきた。
「村雨泰来と言います。初めまして。」
立ち上がった蓮と握手を交わす村雨。
「初めまして。敦賀蓮です、よろしく。」
(コイツが敦賀蓮か、でけぇなーーー)
「はっ、初めましてっ!
京子と申しますっ!」
蓮の隣で90度のお辞儀をし、雪花であったことを隠している後ろめたさから、
はにかんだ笑顔になってしまったキョーコに対しては、
(この子が京子!?
TVで見たのと全然違う…。
けど、やべぇ、可愛いかも…。)
蓮の手を離し、キョーコへと右手を差し出す村雨。
「よろしく!京子ちゃん。」
ニッと笑顔を見せる村雨に刺さる視線ーーー
(ーーーっ!?)
ばっと隣の蓮を見ると、そこにはにっこりと紳士面をした蓮。
(何だったんだ!?
今、前にも感じたことのある感覚が………??)
すると、また一人男性が入ってきた。
「あっ!光さんっ!」
「……京子ちゃん!おはよう~!」
キョーコはするりと蓮と村雨の間を抜け、
光の元へと駆け寄った。
そんな様子を見た蓮はーーー
(ーーー!?光さん!?誰だ!?
それに、、、)
仲良さようにはしゃぐ二人を見て、蓮は硬直していた。
「ーーーはぁい!じゃ、顔合わせ始めるわよーっ!」
増田監督の合図で、全員席に着いた所でーーー
ーーーガチャ
「あら、不破くんね!
皆ー!主題歌は、今をときめく不破尚よ!
はい、不破くんも席に着いてー!」
(ーーーなにっ!?)
(ーーーぬぁんですってぇ!?)
主題歌についてはまだ知らされていなかった二人は、
ポーカーフェイスの下にそれぞれの感情を渦巻かせていたーーー。
「はい!まずは皆、この作品への出演を決めてくれてありがとう!
台本は見てもらったと思うけど、
簡単に言うと、大学生の恋愛、京子ちゃん演じる由紀を、
敦賀くん、村雨くん、石橋くんのイケメン3人で取り合う形ね!
メインターゲットは女子高生を始め、イケメン好きな女性全般よ!
それから、京子ちゃんのラブシーンも入れるから、男性もサブターゲットね♪
観る人をドキドキさせちゃうようなシーンを沢山作るから、皆よろしくねー!」
そしてこれが、絡み合う波乱の幕開けとなるーーー。
⇒ Intertwined love (3) へ続く