「最上さん、またもらいたいものがあるんだけど、いいかな……?」


「何ですか?」


「……君の、今夜の、時間と身体ーーー…。」



*  *  *  *  *  *  *  *  *  *



(………もうっ!
敦賀さんてば……、また変な言い方を……)


キョーコは、今日の仕事を全て終え、
蓮のマンションの前で立ち止まり考えていた。


(また、演技のお稽古に付き合ってほしいってことだとは分かってるけど、
分かってるけどーーー………///)


キョーコは緩みそうになる頬を両手で押さえた。



ピンポーンーーー



『ーーーどうぞ。』


「………お邪魔します。」



*  *  *  *  *  *  *  *  *  *



「それで……今回はどんな役なんですか??」


キョーコは机の上に置かれた台本をパラパラと捲りながら蓮に訊ねた。


「うん、リハビリの先生…かな。」


「リハビリ………」


主人公となる女性が、病気の回復のために通うリハビリを舞台とした2時間ドラマ。
病気に立ち向かうヒューマンヒストリーに、淡い恋物語をプラスした内容のようだ。


「リハビリの施術のシーンなんだけどね、
要はマッサージやストレッチに近いんだけど、
女性相手にどのくらいの力加減でいいのかとかよく分からないから……」


蓮は、そのシーンのページを開いてキョーコに見せながら話す。
キョーコもそのページを軽く一読し、


「………。
  私が実験台ですね!
  畏まりましたっ!!」


キョーコは拳で自身の胸をトンと叩く。


「うん、悪いね……。」


蓮はキョーコの様子にクスリと笑みを溢した。



*  *  *  *  *  *  *  *  *  *



二人は蓮のマンションのトレーニングルームへと移り、
リハビリの施術台を想定したベンチシートに白いシーツを掛けて準備をする。


「ここに、うつ伏せで横になってもらえる?」


「はい、分かりました!」


キョーコは言われた通り、シートの上に横になった。


「じゃあ、始めるね。」


そう言うと、蓮はキョーコの背中辺りからマッサージを始める。


「痛かったら言ってね。」


「はい、大丈夫です………///」


(うつ伏せでよかった……。
なんか恥ずかしいっ///

………それに………敦賀さんの手、あったかい………。)


一方、蓮は……


(思ってた以上に細いな…最上さん…。
でも、女の子らしく、柔らかい身体………。)


腰の辺りから肩、首筋まで、蓮の親指でキョーコの身体をほぐしていく。
痛くしてはいけないと思い、弱めで押していると………



「………あのっ、ちょっと、くすぐったい、です……///」


「…え?あぁ、ごめん………

 思った以上に加減が難しいんだな……。」


蓮は少し力を強める。


「あ……、いいです。

 気持ちいいです………。」


「……………。」



続いて施術は脚へと移る。
蓮はキョーコの片足を手に取り、つま先から足裏をほぐしていく。


「……っ、くすぐったいですっ」


「うーん…、全体的に少し強めなくらいの方がいいのかなぁ……。」


力加減に気を遣いながら、そのままふくらはぎ、ももの辺りもほぐし、
足首を掴んで、きゅっと曲げる。


「最上さん、身体柔らかいね。」


曲げた脚は、踵がキョーコのお尻に付くくらい曲げられていた。


「…そうですか?
  自分ではよく分かりませんが…。」


「現場でリハビリの監修の人に一通り教えてもらったときに、
  これは、付かない人も多いから、あんまり強く押さないようにって言われたんだ。」


「へぇー…。」


「よしっ、力加減は何となく分かったよ、ありがとう」


神々スマイルで微笑む蓮を見て、キョーコは少し怯んだ。


「い、いえ………。」


「じゃあ、………次はこれね。」


蓮が持ってきたものは、円盤形のバランスボールのようなもの。


「……何ですか?それは……」


「これは、バランスディスクって言ってね、
  上に乗ってバランスを取ることで、筋肉を鍛えるものなんだ。
  これも、今回の撮影で主演の女優さんにやってもらうものなんだけど、
  初心者には結構難しいらしいんだよね(笑)
  どんな感じになるのか見てみたいと思って。」


「……はぃ。」


確かにさっき見た台本にもあったな、と思い出すキョーコ………。


「じゃあ、まずは両足で乗ってみて?」


「はいーーー

  ………っ!の、乗れませんっ!」


「クスッ、ホントに見た目より難しいんだね。

 はい、どうぞ。」


蓮はキョーコの両手を取る。


「あっ…ありがとうございますっ///」


両手を支えてもらい、何とかバランスディスクに乗ることが出来たキョーコ。


「いい?……離すよ…?」


「ちょっ、まっ、待ってくださいっ」


バランスディスクに乗せたキョーコの足がグラグラと揺れる。


「だ、大丈夫です!いけます!」


ゆっくりと両手を離すと、何とか一人でもバランスを取るキョーコ。


「さすが最上さん。
  飲み込みが早いね。」


蓮は楽しそうにキョーコを見ていた。


「じゃあ、次は片足ね。」


「ええっ!?

  わ、分かりました…。」


キョーコは一度、バランスディスクから降り、今度は片足を乗せる。


「あ、あの…、手を、貸して頂けますか?///」


「どうぞ。」


蓮の両手を支えに、今度は片足でバランスを取る。
安定してきたところで、手を離すと……


「見てくださいっ!敦賀さんっ!
  私、乗れてますっ!」


上手くバランスが取れていると思っていたその時ーーー


「ーーー!危ないっーーー!!」


「ーーーきゃあっ!!」


バランスを崩したキョーコは、倒れーーー


「すっ!すみませんっ!!」


倒れることなく、蓮をクッションにした形に抱き止められていたーーー。

慌てて離れようとキョーコが身体を起こそうとしたときーーー




ぎゅう……




(ええっ!?ぎゅう!?
また!?またなのっ!?)


そして、抱き締められたまま体勢を入れ替えられ、キョーコが蓮の下になる。
蓮はキョーコの頬にそっと手を当て………



「ずっと、君と、こうしたかったーーー。」



そう言うと、蓮はゆっくりとキョーコに顔を近づけ………




…チュッ




(えええええっ!!!!?/////)


キョーコが目を回しかけたその時、
蓮は夜の帝王顔でニッ…と笑い、


「……台本、見たよね?」


「だっ、台本っっ!?

 見ましたっ、見ましたけど………っ!」


「けど??
  さっき見せたページの最後にあったの見たでしょ?

  ………キスシーン。」


「あああっ、ありましたけどっ!!


  ………私たちっ、

  演技なんてしてなかったじゃないですかぁぁぁっ!!!」



防音設備のしっかりと整ったトレーニングルームに、キョーコの叫び声が響き渡ったのであったーーー。




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訳あって、週に何度かリハビリに通っているpopipiですが、
せっかくのこの環境を、蓮キョに生かさずしてどうする!?
と突然思い立ち、書いてみました♪(/ω\*)
もちろん、、、私自身はリハビリの先生とのうにゃららなどありはしませんが(笑)
上記は実際に私がやっているリハビリメニューの一部分です♪