大会シーンの撮影から数日後ーーー
「京子ちゃん……」
「あ、村雨さん。お疲れ様です。」
スタジオの隅で待機中のキョーコの隣に村雨が座る。
「今日は“オニイサン”はいないんだね?」
「えっ?」
「敦賀くんと京子ちゃんが、あの二人だったなんて……
未だに信じられないよ……」
村雨は、ははっと乾いた笑みを溢した。
「あぁ~……。」
ばつの悪そうなキョーコは、ポリポリと頬を掻く。
「ねぇ……、ずっと気になってたんだけどさ……」
「何ですか?」
前のめりになる村雨に、きょとんとしているキョーコ。
「京子ちゃんて、敦賀くんと付き合ってるの?」
「えええええっっっ!?」
キョーコは思わずイスから飛び出して後退りをする。
「そそそそ、そんなっ!
滅相もないっっ!
どこをどう見たら、そんな風に見えるんですかぁぁぁぁっ!?///」
キョーコは顔を赤くしたり青くしたりしながら、両手と顔をブンブンと振っていた。
「どこをどうって………
少なくともカイン・ヒールと雪花ちゃんのときは、
間違いなくデキてたでしょ?」
「ああああっ!あれは、演技ですぅぅぅ!!///」
「演技………ねぇ。」
村雨は、カイン・ヒールと初めて会った日のことを思い出していた。
(今思っても、俺が雪花ちゃんを可愛いと思って横目で見たときの、
ヤツの牽制はマジだったーーー)
「じゃあさ、京子ちゃんは、
彼氏とか好きな人とか……いないの?」
「えっ…………!?」
キョーコは、一瞬固まった。
(ダ、ダメよ!キョーコ!
この想いは誰にも悟られてはいけないんだからっ!!)
そして、不自然な無表情でこう答える…。
「いえ、私は、愛だの恋だのという愚かな感情は抱きません。
なんせ、LMEの誇るラブミー部員ですから。」
「は………?ラブ…?」
村雨は、聞き慣れない言葉と、
キョーコの不自然な答え方に疑問を持ちつつも………、
「じゃあ、まだ誰にも落とされる予定がないなら、
俺にもチャンスはあるってことかーーー」
ふむふむと納得しながら、キョーコのもとを去っていった。
「ーーーへ?
チャンス??」
残されたキョーコは、村雨の言葉を完全には理解出来ずにいた…。
* * * * * * * * * *
「京子ちゃん…………」
「っ!?
ひっ、光さんっ!?」
村雨に続いてキョーコのもとへやって来たのは光。
今にも消え入りそうな声で、キョーコに話しかけた。
「どうされたんですか?光さん……
随分とお疲れのご様子ですね…?」
心配そうに光を覗き込みながら、
キョーコはふらふらな光をイスへと誘導した。
「最近、あんまり寝れてなくて………」
「……そうなんですか……。
はい、お茶をどうぞ。」
ニッコリと可愛らしく微笑みながら、
光にお茶を差し出すキョーコ。
「……っ///
ありがとうっ」
「…………。
あの、もうすぐ光さんとは、その……、
大事なシーンの撮影もありますし……、
よろしくお願いしますね……?」
キョーコが少しモジモジしながら、
上目遣いに光を見上げると、
先日のキョーコに振られたシーンで頭が一杯だった光は、
やっとこの先の撮影シーンのことを思い出す。
「……っ!!//
そっ、そうだねっ!
こちらこそ、よろしくっ。」
* * * * * * * * * *
蓮は不在のまま、この日の撮影を終え、
キョーコが控え室に戻ろうとすると、
先程村雨や光と話していたスタジオの隅に座る別の影が目に入る。
チラリと視線だけ向けて、そのまま行こうとするキョーコに、
「オイ、この俺様を無視すんじゃねぇ。
芸能界では俺が先輩だ。
挨拶くらいしろよ。」
呼び止められ、仕方なく近づくキョーコ。
「……お疲れ様でした。不破さん。」
敢えて、よそよそしく挨拶をする。
「は!?何だよ!?それ……」
「挨拶しましたので、私はこれで。」
「待てよっ!」
尚は、キョーコの腕を掴んで制止する。
「アンタこそ何なのよっ!?」
キッと尚を睨み付けるキョーコ。
「お前を、心配して来たんだよーーー」
「え………」
その表情に一瞬、以前キョーコの母親のことで、
尚の両親から連絡があったことを、
尚がだるまやまで伝えに来た日のことを思い出すキョーコ。
「………。
地味で色気のねぇお前が、
どうやってラブシーンなんて撮影すんのかとーーー」
尚はキョーコを馬鹿にしたような表情に変える。
「~~~っ!
うるさいわねっ!アンタに関係ないじゃないっ!!」
思わずムキになるキョーコ。
「関係大有りだっつーの。
俺が主題歌を作るのに、一番重要なシーンなんだよ。」
「っ……」
意外な程の正論に言葉の出ないキョーコ。
「どうすんだよ、お前……。
経験もないのにーーーぷぷっ」
「うっ!うるさいわねぇっ///
経験なんかなくたって、演技で何とかしてみせるわよっ!!///」
「それに、、、
お前なんかのラブシーンに、
どこに需要があるんだかーーー」
そう言いながら、尚の視線を追うキョーコ。
たどり着いた先は、キョーコの胸元でーーー
「ちょっ!?どこ見てんのよっ!?///」
慌てて胸元を隠すキョーコを、
尚は鼻で笑う。
「しょうがねぇから、経験だけでも
手伝ってやろうかーーー?」
「結構よっ!!
バカショーーーーッ!!!」
キョーコは控え室へと走り去った。
⇒ Intertwined love (23) へ続く
さぁ、頑張りたまえ、馬の骨諸君(* ̄∇ ̄)ノ