「お待たせ……しました。」
前ボタンで留められたワンピースタイプのナース服に着替えたキョーコ。
やや短めの裾を気にしながら、蓮の待つ部屋へと入る。
「わ……。
敦賀さんのお家って、色んなお部屋があるんですね……。」
蓮が練習用にと案内した部屋は、蓮の家の部屋としてはかなり狭い3畳ほどの広さの納戸で、高めの位置に小さな明かり取りの窓が付いているだけの何もない部屋だった。
実際の場面と同じになるように、あえて電気を点けず小窓から入る月明かりだけが射し込むその部屋。
そこへキョーコが入ると、同じく衣装に着替えた蓮が佇んでいた。
その姿を見て、思わず息を飲むキョーコ。
(やだ……敦賀さんの白衣姿って……なんだか凄く色っぽい……///
それに、眼鏡を掛けているのも新鮮だわ……///)
月明かりを背にこちらを見る白衣を羽織った蓮の姿に、キョーコは急に煩くなった胸の前できゅっと両手を組んだ。
「最上さん……。
これって、まだ役の名前は決まっていないんだっけ?」
「えっ?あっ、はい!そうなんです。
何でも、オーディションで役者が決まってから、役者のイメージにあった名前が付けられるらしくて、初めから決まってはいないそうなんです……。」
「じゃあ……演技の練習中、最上さんのことは、なんて呼ぼうか……?」
「あ……そうですよね。
何とでも……お好きなように呼んで下されば……。」
「そう?それなら……」
すると、蓮は掛けていたシルバーフレームの眼鏡を外しながら、ゆっくりとキョーコへ近づき……
先程読んだ台本のように、キョーコの顎を手に取ると、
「“キョーコ” ……。」
「…………っ///
は、はい……ご主人様……///」
至近距離でキョーコを見つめながら名前を呼んだ蓮。
(どうしよう……///
敦賀さんの “キョーコ” 呼び……すごく心臓に悪いっ///)
片手ではキョーコの顎を掴んだまま、もう片方の手を白衣のポケットに入れた蓮は、カチャリと金属の擦れる音を立てながら、忍ばせていた手錠を取り出した。
そして、ゆっくりと顎に添えた手をキョーコの耳朶へと滑らせ、ひとなでした後、首筋から肩、腕のラインをゆっくりとなでていく。
それだけの刺激でも思わずゾクリと背中を撓(シナ)らせるキョーコ。
キョーコのそんな様子にふっと鼻で笑いながら、まるでエンゲージリングでも嵌めるかのような仕草でキョーコの指先を掬い上げた蓮は、ガチャリ……とキョーコの細い手首に冷たくて重たい金属の手錠を掛けた。
両手に手錠を掛けると、キョーコの頭上より高くその手を持ち上げ、ドアストッパー用のフックへと引っ掛ける。
「それじゃあ、最上さん?確認だけど……、
最初はクスリで眠らされていて、君は意識がないところからのスタートだね?
途中で意識が戻るけれども、そこからはアドリブでどれだけ演じられるか……でいいんだっけ?」
「……はい、その通りです。
よろしく……お願いします……!」
「オーケー。」
すると、蓮はパチンと指を鳴らし、キョーコはクタリと意識をなくしたーーー。
⇒ 囚われの看護師 (3) へ続く