コツコツ……と靴底を鳴らしながら部屋へと入り、後ろ手にカチャリと扉の鍵をかける。

それから真っ直ぐに小窓から見える朧月を見つめると、深くため息を吐いた。


「はぁーーー…………。

  困ったことをしてくれた……ね?」


ちらりと目線だけを移して、ドアストッパーのフックからだらりと垂れ下がるキョーコを見遣る。

再び小窓へと視線を戻すと、蓮はポツリポツリと意識のないキョーコに話し始めた。


「……俺がこの地位を手に入れるのに、どれだけ苦労したと思う?

  それを守るためには、君の力が必要だと思っていた……。

  でも、もうそれも……終わり……だね?」


蓮は白衣のポケットからナイフを取り出すと小窓の方へ高く翳し、表裏を確認するかのようにチラチラと動かしながら、ナイフの腹に月明かりを反射させる。

蓮はナイフを翳したまま、キョーコの方へとゆっくりと歩み始めた。


「君は……眠っていても、可愛いね?」


ひんやりと冷たいナイフの腹をキョーコの頬へ宛がう。
ナイフの背で頬をひとなですると、意識なく半開きになったキョーコの唇を切っ先で軽くノックをした。


「これが最後だなんて……なんだか呆気ないね?」


クスッと蓮は不敵な笑みをもらすと、キョーコの唇に宛てたナイフを自身の唇へと近づけ舐めずった。


そして、キョーコの胸ぐらをグイと掴むと、勢いよく裂くようにナース服を切りつけていく。

幾筋もの切れ込みを入れ、ズタズタになったナース服を見て薄ら笑いを浮かべたーーー。


「こんなになっても、君は美しいね?」


うっそりとした表情を浮かべながら、切り裂かれた布地の隙間へとナイフの背を這わせていく蓮。


「気の強い妻では決して満たされることのなかった俺の身も心も、全てを満たしてくれた君には感謝しているよ?」


愛でるようにキョーコの身体のあちらこちらを切り裂かれた布地の隙間から辿っていく。

すると擽ったく感じたのか、僅かに身を捩ったキョーコ。


「……ん……ぅ……」


瞳は閉じたままに、小さな声が漏れ出した。


「…………おや?

  クスリの量が少なかった……かな?」


意識を取り戻したキョーコに気づいた蓮。
しかし慌てることなく、ナイフの先を顎に宛がいながらキョーコの顔を持ち上げた。

うっすらと目を開けたキョーコは、ぼんやりとした表情で、


「……ご主人……様……?」


と目の前にいる人物を認識した。


「やぁ、気がついたみたいだね?キョーコ……。」


「……?……はい……。」


だがキョーコが動こうとすると、手錠とフックで固定された手首がガチャガチャと重たい金属の音を立てた。


「……っ?

  こ、これは……?」


自身の両手が頭上で固定されていることに気がついたキョーコ。


そして目の前の蓮を見ると、その手にナイフが握られていることにも気がつく……。


「っ!!

  ご主人様……。」


「ああ、……これ?」


キラキラと月明かりを反射させたナイフをキョーコの眼前にちらつかせた蓮は、そのままふと視線をキョーコのボロボロになった服へと移す。

蓮に釣られるかのように、一緒に視線を移したキョーコは、自身のあられもない姿に驚愕した。


「…………っ!!?」


引き裂かれた衣服からは、惜しげもなく素肌を覗かせている。


「気がついたのなら仕方ないな……。

  最後にもう少しだけ……楽しませてもらおう……かな?」


ナイフを横持ちにした蓮は、その背を柄側から尖端まで舐めずると、部屋の奥へと勢いよく投げ捨てた。


カーン……!


とかん高い金属音が狭い部屋に響いたのを合図に、二人の激しい口付けが始まったーーー。




⇒ 囚われの看護師 (4) へ続く


web拍手 by FC2