演劇集団アクト青山 月の宴&新人公演

演劇集団アクト青山 月の宴&新人公演

春公演に向けての役者・演出家、時々スタッフによるBlog。
イプセンとチェーホフ同時に上演なんて見た事ある?
ないですよね!
だから、チャレンジするのです。

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『ヘッダ・ガーブレル』について。


なるべく正直に書く。


見落としていた事があった。
本番中、土曜日のソワレで気付いた。
遅かった。
それをなんとかすべきだった。あれ程、気を付けて台本を読んで、稽古をして来たのに、自分の出番待ちという条件にブラインドされてまんまと見逃した。後悔している。
いや、後悔なんてものじゃない。
僕は演出家として役者さん全ての努力に報いる事が叶わなかった。
だから、日曜から今日までずっと失望している。
こんな事は後にも先にもあまりない事だ。

問題なのは、ここ一箇所ではない事だ。
それ以外にも二箇所、表現の足りてない部分があった。ここが埋まっていたら、もっと違う結果を見出せたと思う。
泣きたかった。久しぶりに泣きたかった。
『三人姉妹』の時の失敗とはまた一味もふた味も違う失敗だ。
でも、僕は失敗から多くを学び、成長したいと考えている。だから、既に『野鴨』を読んでいる。

今回は、劇中、三人の人間が死ぬ。
1人は初めから登場する事なく、2人は登場人物の中から。
だから、葬儀をイメージして床を白と黒に塗り分けた。この床はチェス盤も兼ねている。誰がどんな風にチェックメイトを言い渡されるか、それを表現したかった。

次に、衣装だ。
手を焼いた。ヘッダの衣装が中々ピンと来なかった。一つはウェディングドレスが良かったが、それをガウンでブラインドしたかった。幸福ではないからだ。しかし着替えさせなかった。それに縛られて欲しかったからだ。
逆に、エルブステッドはすぐに決まった。劇中の変化も入れた。気付いた人はいないと思うが、エルブステッドの色はグリーンで、テスマンの1幕のコートもグリーンだ。2人はペアルックなのだ。ここから不幸は始まっている。
エイレルトは白くしたかった。ヘッダとペアルックだからだ。2人は永遠の恋人で同じ夢をみている。自律しない人間性を抱えて。
ブラック判事を黒にするか、グレーにするかで随分迷った。劇場の壁がもしもあの色じゃなければきっとグレーにしただろう。でも結果的には黒で正解だった。ブラック判事は闇の使者なのだ。死者にまつわる。

後悔について。
ピストルの入っていた引き出し付きのテーブルはもっと高価な物にしたかった。ヨーロッパの家具付き住居にありがちな、豪著なものに。あれがこの劇の象徴なのだ。本来は。テスマンの仕事の本と花瓶と、ピストル。全てが置かれたこの部屋の最も重要な家具。必要な配慮を欠いてしまった。大切な事は金勘定ではなく芸術性だ。

テスマンの仕事机については、様々なトリックと嘘に溢れている。
新婚旅行から帰ったばかりなら、ああいう感じで散らかってるわけはないのだ。積んであるだけ、が普通だ。でもそうはしなかった。それよりも、ラストシーンまでの二日間、いやそれに至るまでの全ての時間においてヨルゲン・テスマンという男が何より仕事が大切だという気持ちを表現したくて散らかってる状態にしてもらった。岩崎には感謝している。毎回完璧だった。

手紙。
エルブステッドに頼まれてテスマンがエイレルトに宛てたものはグリーンにした。テスマンのコートがグリーンだから、というのと、暗にエルブステッドが関与しているとしたかったからだ。
リナ叔母さんの危篤の知らせは、封筒も便箋も黒くした。不吉であって欲しかったからだ。これにはお客様も気付く方がいた。こういうのは演出家の遊びだ。

でも。
悪い事ばかりじゃない。劇団員、という括りでみたら今回を通じてスキルアップした。無我夢中で模索しかないままチェーホフを上演していた時に比べて遥かに目標的に、遥かに意図的に芝居作りが出来るようになった。
そして、演出のアイデアにしても部分的にはまだ小手先の域を出ないが、困った時の解決に、作品の根幹に、演出の意図、目的、表現のバランスとラディカリズムが出来るようになってきた。
もちろん、もっと大きな劇場で縦横にやる為には演出としての作品表現の勉強は必要だし、それと並行してテキストへの的確なアプローチ、それの表出、役者の役割と仕事への認識の再確認は必要不可欠ではあり。それを会得せずして、もっと面白い古典作品の上演は難しい。

それでも。
今回の『ヘッダ・ガーブレル』にはとても満足している。満足する、というのはとかく誤解を生みがちだが、予想を超える成果があっとこと、そしてその中から次の課題が明確になったこと、これだけでも僕らが演劇によってこの世界に何をなすべきかが、その輪郭だけでも見えたのなら、これは非常に喜ばしいことなのだ。
より面白い作品を生み出し、その中身によって、ご覧になった観客のどなたかが、素晴らしい1日を、もっと言えば今後の人生の何かをほんの少しでも良くする事が出来たのなら、僕ら芸術家には生きる価値があるのだと思う。
ともかく。
僕が一生をかけて演劇人でいるとしたら、この『ヘッダ・ガーブレル』が大きなターニングポイントになると思う。
『ヘッダ・ガーブレル』までの僕と、『ヘッダ・ガーブレル』からの僕。それは全く違う僕であり、ようやく本当の僕なのだと思う。
そしてまたいつか、今回の『ヘッダ・ガーブレル』のような作品と向き合い、また新しい僕と新しい演劇集団アクト青山が誕生するのだ。


最後に。
ヘッダを演じた福井美沙葵は本当に良く頑張った。二ヶ月間、毎回泣いた稽古は辛かっただろうと思う。それでも、彼女は今までにない世界を舞台で見たと思う。これから、大切な事は、今回君が見た素晴らしい世界を必ずお客様に魅せる事の出来る女優になるという事だと思う。

そして、全ての出演者に、感謝したい。
ありがとう。
君たちが仲間で、僕は本当に幸福です。
この半年、何度も何度も不測の事態が起きて挫折をしそうになった時、仲間がいて、僕はここに立って居られるのだと感じた。
これからもよろしくお願いします。


次回本公演は、
『野鴨』ヘンリク・イプセン
です。
楽しみにして下さい。

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