★僕物語【11】★新たな挫折編★
次の職場は、祖母が昔勤めていた生命保険会社でした。
そして、ここでさっそく、最悪な事が判明したんです。
採用は2ヶ月ごとにしているから、次は6月だと言われました。
今はまだ4月の中旬です。6月まで無職は辛いです。てっきり、祖母も僕も、今すぐに働けるものだと思っていました。
でも、じっとしていても仕方ありません。なので、バイトを探しました。ですが、それまでの仕事が決まらないんです。どこも、短期すぎるという感じでした。当時は、サイトで見つけられる日雇いなんか知りませんでしたからね。
そして、気が付けば5月の半ば目前の頃。地獄がやってきました。
彼女が実家に帰ってしまったんです。本当にショックでした。また。なんで僕は。本当に辛かった。
でも、僕が悪いんです。
僕の仕事が見つからない。僕は焦っていました。知らず知らずの内に、彼女に辛く当たっていたんです。元カノに比べたら比でもないし、感謝も伝えるようになってたし、僕はどこかで自己満足をしていました。
けれど、彼女は大きな喧嘩もした事がないらしいんです。自分の意見も伝える事が苦手で、溜め込んで、爆発して、その場から逃げてしまう。そんな人生を歩んできた女性でした。
僕の普通は、彼女にとって普通ではなかったんです。
僕の普通は、彼女にとっては異常だったんです。
そして、僕はまた彼女を失う恐怖から、しつこくを連絡しました。言ったらいけない事まで言ってしまいました。力尽くでも、無理矢理にでも、彼女を説得したかったんです。
でも、それが裏目に出ました。
彼女は心が折れやすい女の子だったんです。
元カノとは、全然違う事を知りました。僕は女性とは縁のない人生を歩んでいた分、女性の気持ちが分からないんです。いろんなタイプの女性がいるのに、それが分からないんです。このくらい大丈夫だろう、後からでも、ちゃんと分かってくれるだろう。そう思って言った言葉が、取り返しのつかない事に繋がる、それがわかりませんでした。
仲直りしては避けられて。また仲直りしては避けられました。
すぐに無視されて、音信不通になり、会えなくなる。そんな辛い生活です。
そんな中、初めての生命保険会社は、僕の性格にはまったく合っていない事も実感しました。
僕は、契約を取る事に罪悪感を感じてしまうのです。
僕がトークで丸め込んで、お客様のニーズを勝手に呼び起こして、そして契約をさせている。
商品は良いものなんですが、そんな事を感じてしまい、本当に辛かったんです。
お客様は、僕の正直な性格を信用してくれます。それで、契約もしてくれます。
ただ、いくら契約を取っても、目標を達成しても、罪悪感以上のものはなかったんです。
嬉しさを、喜びを、感じる事ができなかったんです。
でも、そんな職場でも、良いものはありました。それは、
人と出会い、
様々な話を聞き、
勉強できる事。
会社の支社長も部長達も所長も主任も先輩も、僕の仕事ぶりにみんなが期待してくれていました。
「今までの新人とは違う。あなたはこの営業所を背負う人間になる」
そんな風に言ってくれていました。
でも、僕自身が生命保険に入っていません。入った方が絶対に良いですし、若いうちに入っとかないと、保険料も高くなってしまう。それが分かってはいましたが、やはり、生活の基準的にも、まだ入ってはいませんでした。
だからこそ、罪悪感を感じながら、契約を取りたくはなかったという気持ちもあります。自分が入っていないのに、どうしてお客様に勧められるのでしょう。僕は、良くも悪くも、真面目すぎるのです。
見込み客をたくさん作るのは良い。その人達が入りたい時に入ってもらうのは良い。
だけれども、そのタイミングを待っていては、ノルマを達成できない。4ヶ月後、もしくはそのあとの査定で、いつかはクビになるだけなんです。積極的に売りに行かないと、契約を切られるようになっている。それが、生命保険会社の営業マンなんです。
僕は、大切な彼女には、保険に入ってもらいました。もちろん、成績の為、ではありません。いざという時の備えを持ってもらったんです。今の僕には、こんな守り方しかできなかったので。
それで僕はもう、満足でした。この会社で、これ以上僕にやれる事はない。むしろ、頑張って契約を取れば、それがさらに苦しい事になるだけ。僕が頑張る理由は、なくなりました。
みんなには悪いけれど、退職させてもらおう。
そして僕には、やっと本格的な夢ができていました。