【福島県知事選】一致したのは「廃炉」のみ。「尿検査」「水利権」など違い明らか~公開質問 | 民の声新聞

【福島県知事選】一致したのは「廃炉」のみ。「尿検査」「水利権」など違い明らか~公開質問

26日投開票の福島県知事選に向けて「ふくしま希望会議」が6人の立候補者に送付した公開質問の回答が、18日に開かれたシンポジウムの席上、発表された。全員が明確に賛成したのは「県内原発の即時廃炉」のみ。質問の多くは放射線防護や健康管理に関する内容だったが、圧勝すると言われる前副知事の内堀候補は抽象論に終始。子どもたちの被曝回避に前向きに取り組む姿勢は示さなかった。

【抽象回答に終始した内堀候補】


 違いは明らかだった。
 同会議が6人の立候補者に送付した10項目の公開質問。16日までに全員から回答が得られたが、「賛成」で全員一致したのは1問目の「福島県内のすべての原発について即時廃炉を宣言し、実行行動をとります」のみ。2問目の「避難者の市民的権利を守るため二重住民票など具体的な法制度を立案し、国へ提言するとともに、国が実現しない場合は県で同様の効果が認められる制度を具体化します」では、熊坂候補が「法制化も可能と考えるので国に対して提案する」、伊関候補が「大賛成。安全でない所には住まわせない」と答えたのに対し、内堀候補は「個々人の事情に配慮しながら、生活再建支援や十分な賠償実現などを丁寧に進めて行く」とするにとどまった。
 7問目の「全県民の生涯にわたる健康管理と医療支援を実現するために「ふくしま健康手帳」を発行し、県内市町村と協力して運用します」では、熊坂候補が「もっと早い段階から発行するべきだった」、井戸川候補が「子ども・被災者支援法の理念は県条例で実現する」と賛成。金子候補は「福島県民への差別的な見方が出ることを危惧するので一部保留」。内堀候補は「県民健康調査における外部被曝線量値やホールボディカウンターによる内部被曝線量値などを総合的に管理し、将来にわたって県民の健康をしっかり守っていく」と答え、賛否は示さなかった。
 8問目の「県民の内部被ばく検査のため、尿放射線測定を実費で行える体制を県内市町村と協力して構築・運用します」でも、熊坂候補が「検出限界値が高く精度の低いホールボディカウンターよりも、尿測定検査を導入すべき」としたのに対し、内堀候補は「様々な御意見を頂きながら(県民健康調査の)充実強化を進めていく」と賛否を示さず。五十嵐候補は賛成ながらも「ただし、被ばく検査はこれだけではないので、費用対効果を見ながらより良い内部被ばく検査に改善と発展を柔軟に試み続ける」と回答。金子候補は「希望する県民には有効と思います」と答えた。
 全10問のうち、7問が原発や被曝、被災者支援に関する質問。地元紙の世論調査でも「圧倒的優位」が伝えられる内堀候補の回答に注目が集まったが、明確に賛意を示したのは「即時廃炉」のみ。他はすべて賛否を示さず、議会答弁のような抽象的な回答を記入するにとどまった。唯一、明確な姿勢を示したのが6問目の「福島県民の財産である猪苗代湖の水利権、県内の水力発電所・火力発電所、送電線の所有権を東京電力から分離させ、たとえ電力を首都圏へ供給してもそれに見合った税収が県民に還元されるよう県内に本社を置く会社設立をさせるべく県として具体的に行動します」。これには「財産権等に関わるものであり難しい問題」とやんわりと否定した。

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18日に開かれた「ふくしま希望会議」のシンポジウム。
県知事選の候補者から寄せられた回答では、スタン
スの違いが浮き彫りになった=福島市




【「新知事は放射線の正しい情報を」】

 新しい県政に向けて、13項目の政策提言をまとめた「ふくしま希望会議」。シンポジウムで飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所長)は「原発事故以降、いろんなことが合意形成なしに進められている。一旦、立ち止まろう」。「除染一辺倒が本当に意味があるのか検証もされていない。全体として議論する場をつくりたい」と会議の意義を語った。
 「福島は街には活気があるが、健康的にはまったく駄目。希望が持てない」と放射線防護に対して激しい口調で語ったのは西尾正道氏(北海道がんセンター名誉院長)。「モニタリングポストの数値は4-5割低い。嘘を言っている。新しい県知事には正しい情報を出すというところから始めてもらわなければ駄目」、「ストロンチウムもベータ線も全部測るべき」、「情報が隠され過ぎている。フェアじゃない。御用学者とディベートしたいが、呼びかけても応じない。それで甘んじているのは民意が低いのではないか。正しい知識を分かりながら住み続けてほしい」と話した。
 藤本典嗣氏(福島大学准教授)は「現在のモニタリングポストは2㎢に1台で足りない。もっと増やすべきだ」と指摘。除本理史氏(大阪市立大学教授)は、原発被災者への損害賠償について「加害者である東電主導で進められている」「故郷を追われた『喪失感』が慰謝料に全く考慮されていない」などと批判。「これまでの福島県は『陳情・調整型』だった。もう少し当事者として賠償支援に取り組んでほしい。この知事選が良いきっかけになれば良いと思う」と県政に注文をつけた。

二つのMP
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シンポジウムでは、西尾氏がモニタリングポストの数
値など正確なデータが示されていないと指摘。福島市
内では0.5μSv/hを超す個所が珍しくないが「福島県
民は、一番低い見積もりのデータだけを与えられて安
全だ安全だと言われている」と強調した



【「既に電力は自給できている」】


 与野党相乗り候補の圧勝ムードの中、低投票率が懸念されている今回の県知事選。「ふくしま希望会議」の理事であり、会津電力株式会社を設立した佐藤彌右衛門氏(大和川酒造会長)は「原発事故から3年以上が過ぎたが、問題が解決したようでしていない。どう福島を創造するかというところまで至っていない。そういう中で、新しい福島県のリーダーを選択するが、課題があまりにも多すぎる。何を基準に選べば良いのか、有権者は五里霧中の状態で進んでいる。今日のシンポジウムを機に課題を県民と共有したい」と語った。
 再生可能エネルギーの観点から同会議に参加している佐藤氏は「2013年7月のピーク時で、福島県内の使用電力は154万kw。2011年に会津の水力発電が生産したのは500万kw。既に自給できている。なのになぜ原発を造ったのか…。自分たちの電力は自分たちでまかない、電力会社には金を払わないということは可能だ」。「規模は小さくて良い。みんなで金を出し合う『市民ファンド』でエネルギーをつくっていくのが理想」と話した。
 会場には制服姿の中学生の姿も。「僕らの意見も聴いて欲しい」と大人に注文をつけたが、未曽有の原発事故後の知事選というのに空席が目立った。これには西尾氏が「重要な選挙。会場は熱気にあふれていると思ったがガラガラ。自腹で来る会議では無かったなと反省している」と皮肉を言う場面もあった。
 週明けには新しいリーダーがかじ取りを始める。放射線防護策はさらに後退するのか。「ふくしま希望会議」が示した政策提言や、各候補者の直筆回答書は
 http://www.fukushima-kibou-kaigi.jp/#proposal
 で読むことができる。






(了)