【国道6号】批判の中、実施された清掃ボランティア~子どもたちの充実感の陰に潜む内部被曝のリスク | 民の声新聞

【国道6号】批判の中、実施された清掃ボランティア~子どもたちの充実感の陰に潜む内部被曝のリスク

中高生が参加することへ批判が高まった、清掃ボランティア「みんなでやっぺ!! きれいな6国」(NPO法人・ハッピーロードネットなど主催)が10日、福島県・浜通りを走る国道6号(新地町~いわき市、約50km)で一斉に実施された。広野町や楢葉町を中高生と一緒に歩くと、子どもたちは被曝に対する不安を否定し、参加したことに誇らしげな表情を浮かべた。砂塵舞う中、マスクせずにごみを拾い続けた子どもも。しかし、笑顔の向こう側に潜む内部被曝のリスクを考慮すれば、子どもは参加させるべきではなかったと言わざるを得ない。


【舞い上がる砂塵。マスクしない子も】

 「地元だし、ぜひ参加したかった。被曝の危険?いえ、全く不安はありません。両親から止められることもありませんでした」
 友人と一緒に参加した双葉高校の女子生徒は、にっこりと笑った。受付で軍手やマスクが配られたが、どちらも着用しなかった。行き交うダンプカーが砂塵を舞い上げる。「気をつけないと放射性物質も一緒に吸い込んでしまう」と告げると、彼女は「うーん」と首を傾げて苦笑するばかりだった。
 背中に「Jヴィレッジ」と書かれたユニホーム姿で参加した少年サッカーチームの中学生たちは、隊列の先頭で次々とごみを拾い、あっという間に袋を一杯にした。二ツ沼公園から楢葉町に入り、現在は福島県警双葉警察署として利用されている旧道の駅ならは前で信号を渡り、Jヴィレッジの前を通って再び二ツ沼公園に戻った。当初、子どもたちは楢葉町には入らないという説明だった。
 ほぼ半数の子どもがマスクを着用しないまま国道沿いの歩道を歩いた。大熊町からいわき市に避難しているという中学1年生の男の子は、震災時は小学2年生。下校途中で巨大な揺れに遭遇した。「放射線量が高いから、あれから一度も(大熊町の)家に帰れてない」と寂しそうに話す。彼も含めて、被曝の危険性について認識している子どもは皆無だった。

 参加している誰もが、誇らしげな、充実した表情を見せた。別の女子高生は「ボランティア活動に参加してみたかった」とうれしそうに話した。双葉翔陽高校の男子生徒も「この場所に来ることが出来て本当に良かった」と開会式でスピーチした。遠藤智・広野町長は「浜通りが復興していることを全国に発信する好機となる」と語ったが、子どもたちの充実感と大人の満足感の向こう側には、被曝のリスクが潜んでいることを忘れてはならない。
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中高生も参加した清掃ボランティア「みんなでやっぺ!!

きれいな6国」。楢葉町のJヴィレッジ周辺は、手元の

線量計は0.3μSv/hを超えた


【「無理解な人が東京で騒ぎ立てている」】

 「いろいろなご意見があります」

 NPO法人「ハッピーロードネット」の西本由美子理事長(62)の元には、2011年以降中断していた国道6号の清掃ボランティアを再開させるにあたり、子どもたちの参加に対する批判が少なからず寄せられたという。吉田栄光福島県議(自民、浪江町)も、あいさつで「様々なご意見があろうかと思う」と触れた。「子どもたちの未来と健康を守るプロジェクト・郡山」が中高生の参加に反対を表明すると、全国約70の団体から賛同の連絡があったという。

 しかし、西本理事長は「子どもたちが清掃をするのは通学路。国道6号が通学路になっているなんて知らないでしょ?地元を全く理解しない人達が東京で騒ぎ立てているんですよ」と反論した。「私は、自分で納得して広野町に戻ってきた。今日、参加した子どもたちも、家庭で散々話し合って出て来たと思う。それに対して、周囲が良いとか悪いとかを云々することはできないと思いますよ」。

 前夜、清掃ボランティアを再開させるきっかけを作った相馬高校の男子生徒から「僕のせいでおばちゃんが叩かれて迷惑をかけてごめんね。でも、貫いてくれてありがとう」と涙ながらに電話がかかってきたという。

 「実際にやってみて、子どもたちもいろいろと気付くことがあったでしょう。良かったことも反省点もあるはずです。それが教育なんです。大人が頭ごなしに『やっちゃ駄目だ』って言ったって、子どもたちは納得しませんよ」

 長年、子どもたちと接してきた西本理事長なりの教育論にはしかし、現実の被曝のリスクは考慮されていない。それもそのはずだ。昨年3月、日本商工会議所の「日商ニュース」に寄せた文章の中で、2013年9月に行ったチェルノブイリ視察を基にこう綴っている。

 「今の日本の放射線に対する情報は偏見に満ちている」

 「原発さえ安定していれば、私たちの故郷は何の不自由なく安心して住める」
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NPO法人の西本由美子理事長(写真上、一番左)は

「子どもたちは親と散々話し合って参加している。

それに対して私は是非を云々できない」と話した


【小出さん「子どもを動員するな」】

 「やってはいけないことです」

 本紙は元京都大学原子炉実験所助教の小出裕章さん(66)に対し、主催者が清掃ボランティアに中高生を参加させたことへの是非を伺った。小出さんは「間違っている」とするコメントをメールで寄せた。
 「2011年3月11日夜、『原子力緊急事態宣言』が発令されました。宣言はいまだに解除されておらず、いま日本という国は緊急事態下にあります。そのため、被曝に関する様々な法令も福島では守らなくて良いことにされ、子どもも含め、本来なら『放射線管理区域』にしなければならない地に棄てられてしまいました。

 棄てられてしまえば、人々はそこで生きるしかありません。

 自分たちの土地を何とかしてきれいにしたい。そして、きれいになった、福島の物を買ってくれと、どうしても言いたくなります。その気持ちを私は理解します。

 ただ、そのために、例えば学校給食を地産地消してアピールする。あるいは今回のように汚染を移動させるために子どもを動員することは間違っています。

 子どもは原発事故に何ら責任もありませんし、被曝に対して大変敏感です。

 大人が被曝をするとしても、子どもだけは被曝から守らなければいけません」

 子どもの命を守るべき大人たち。

 しかし、高校生を引率した女性教師は「生徒たちには担任を通じて参加を呼びかけ、保護者の承諾も得ている。被曝の危険ですか?まあ、子どもたちがやりたいということは応援したいですからね」と話した。ふたば未来学園高校の男性教師も「普段、ここで生活していますからね。不安はないです。全国の方々には本当の姿を見て欲しい」と話した。

 少年サッカーチームの関係者は「まだ避難中の家庭もあり、保護者の考えは様々。もちろん自由参加です」とした上で「原発事故でJヴィレッジに行ったこともない子どももいる。こういう行事で帰属意識を持たせたかった」と話した。「被曝に関しては、いろいろな意見があって良いと思う。他県のサッカーチームでも、福島に遠征してくることに反対する保護者がいて断念することもあるようです」。

 清掃中、通りかかった福島県警のパトカーから、警察官が「ごくろうさまです」と子どもたちにマイクで呼びかけた。「放射性物質を吸い込まないように」という呼びかけは、残念ながら無い。「多様な意見を尊重する」と言いながら、実際には被曝の問題はほとんど論じられないのが実情なのだ。


(了)