第4774回「はなれ瞽女おりん、その2、ストーリー、ネタバレ、篠田正浩監督」 | 新稀少堂日記

第4774回「はなれ瞽女おりん、その2、ストーリー、ネタバレ、篠田正浩監督」

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 第4774回は、「はなれ瞽女おりん、その2、ストーリー、ネタバレ、篠田正浩監督」です。


 6歳のおりんは、母親を失います。盲目のおりんを、瞽女屋敷の親方テルヨ(奈良岡朋子さん)に斡旋したのは、富山の薬売り(浜村純さん)でした。この薬売りは善意の人です。ラストに明かされますが、故郷の小浜から越後高田までの長い徒歩移動が始ります・・・・。


 この心象風景は、26歳のおりん(岩下志麻さん)が、行きずりの下駄職人(原田芳雄さん)である自称"鶴川"に語った身の上話です。おりんの過去は、次第に鶴川に明かされていきます。一方、鶴川は、自らのことについては、言葉を濁します。


 映画の前半部分において、おりんの過去と、鶴川との不思議な"道行"とが、交互に描かれていきます。美しい北陸の四季の風景と共に・・・・。


おりん6歳・・・・ 高田の瞽女屋敷の親方であるテルヨは、おりんを引き取ります。そして、瞽女に三味線と歌を教えていきます。屋敷には、数人の瞽女が一緒に住んでいました。男っ気はありません。


おりん8歳頃・・・・ 朋輩と共に、おりんは門付け(かどづけ)の旅に出ます。積雪の中を、わらじに足袋をはいて歩きますが、足を傷めます。おりんは、以降足袋をはかなくなります。厳冬期といえども・・・・。


おりん13歳・・・・ ひとり離れて歩くおりんは、初潮を迎えます。雪の中に点々と、"赤い花"が咲きます。親方のテルヨから、厳しく男を戒められます。そして、仲間内から"三々九度"で祝われます、おりんは神の妻となったのです。


おりん20歳まで・・・・ 美しい娘に育っていました。門付けだけでなく、御祝儀の場とか、宴席にも呼ばれます。「口説き節」などを披露するのですが、どうしても酒が入りますと、男たちの粘っこい視線がおりんに絡みつきます。


おりん20歳・・・・ 運命を変えたのは、そういう席を勤めた後のことでした。瞽女たちが眠る部屋に、ひとりの男(西田敏行さん)が入ってきます。自慰防止のためでしょうか、縛っていた脚の紐を解き、おりんの股間を拡げます・・・・。破戒の瞬間です、おりん自身の望んだことかもしれません。破門されたおりんは、"はなれ瞽女"となります。


 そして、以降、廃寺となった阿弥陀堂の縁側が、おりんの宿所となりました。これまで点々と北陸を歩いて門付けをしてきました。物乞い同然の門付けか、あるいは形を変えた売春か、それがおりんの"たつき(生活手段)"となりました。


 そんな時に、積極的に声を掛けてきたのが、流れ職人の鶴川です。ですが、決して体目当てではありません。おりんに、自らを兄さんと呼ばせます。大八車に、商売道具だけでなく、家財一式を積み込み、漂泊の旅が始まります。幸薄いおりんにとって、至福の時でした。ですが、おりんの体はうずきます・・・・。


 物語が大きく動いたのは、とある木賃宿に泊まったときのことでした。同宿者として、富山の薬売り(香具師)が泊まっていました。別所(阿部徹さん)という男は、おりんに目をつけていました。一方、流れ職人の鶴川が下駄を売るといっても、香具師同然に門前で売るしか方法はありません。当然、地回りとトラブルを起します。


 強健な体を持つ鶴川に、地回りが敵うはずがありません。鶴川は、警察に拘束されます・・・・。それこそ、別所の狙っていたチャンスでした。海岸近くの林の中で、半同意のもと、おりんを抱きます・・・・。釈放された鶴川は、おりんの表情から、そのことを知り、商売道具ののみを持って駆け出していきます。


 戻ってきた鶴川は、「おりんさんに迷惑をかけるかもしれないから、ここで別れよう。だが、南に行ってくれ、俺も必ず行くから」と言い残して立ち去ります。おりんは、再び"はなれ瞽女"に戻ったのです。


 以下、最後まで書きますので、ネタバレになります。


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 時は、シベリア出兵(1918~1922年)と米騒動のため、世の中が騒然としていた時期です。当然、出兵のため、"国民皆兵"の名の下、多数の青年が徴兵されていました。出征を祝う場で、歌うのも瞽女の仕事でした。大きな伏線になっています。


 鶴川と別れたおりんは、廃寺で身を休めていました。そこに、ひとりのはなれ瞽女がやってきます。"おたま"と名乗る瞽女は、おりんが全盲であるのに対し、強度の弱視でした。うすぼんやりと周囲を識別することはできます。荷物を頼み、仕事に出かけます・・・・。


 そこにやってきたのが、刑事でした。別所殺しの犯人として、鶴川を追っていたのです。ですが、おりんは知らぬ存ぜぬで通します・・・・。戻ってきたおたまと共に、おりんは旅を続けます。付き合うと、お玉は旅の仲間としては、実に頼りになる人物でした。ふたりは、善光寺に向います。そして、お参りをします・・・・。


 その時、門前で下駄を売っていた鶴川が声を掛けてきたのです。鶴川は、おりんを抱きしめます。おたまは立ち去ります。「おりんさん、幸せになってね」、それがおたまとの別れでした。一方、憲兵隊の袴田(小林薫さん)が、"鶴川"を追っていました。「脱走兵など、陸軍の恥だ。一殺人者として処断する!」


 刑事は、おりんの故郷が小浜であることを突き止めていました。手配書を回します・・・・。その頃、再開した鶴川に、おりんは言います。「小浜で聴いた海の音を、もう一度聴きたい」、運命は収斂していきます。小浜の海岸で、海の音に耳を澄ませていたおりんは、「サーベルの音が聞こえる、逃げて!」


 ですが、鶴川は多数の警官に取り押さえられます。憲兵隊での拷問が始ります。おりんも逮捕され、尋問を受けることになります・・・・。口を割ろうとしなかった鶴川が、自白したのは、おりんを考えてのことでした。「何が、国民皆兵だ。金持ちの徴兵のがれの代役で、俺が引き受けただけだ」・・・・。


 場面は変り、年老いたおりんが、宿場町を蹌踉とした足取りで歩いていました。身につけた着物も、汚れ傷んでいました。親方のテルヨが幼いおりんに語った"はなれ瞽女"の行く末そのものでした。


 さらに場面は変り、数人のトンネル建設者のひとりが話し始めます。「ずっと気になっていたんだが、あの岬の突端の樹に赤い物が見えている。何だっぺ?」、映像は岬の森に移ります。多数のカラスが飛び交っていました。一本の樹の下には、女物の着物を着た半白骨遺体が横たわっていました。かたわらには三味線が・・・・。


 観ていて、実に辛い映画です。ですが、大変な傑作映画でもあります・・・・。


(補足) シベリア出兵の写真は、ウィキペディアから引用しました。


(追記) 感想につきましては、"その1"に書きました。

http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-11269294427.html