妊婦さんの睡眠習慣が後期死産のリスクと関連している | 産婦人科専門医・周産期専門医からのメッセージ

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  「妊婦の睡眠習慣、後期死産リスクと関連」という内容の医学論文がBMJ 2011; 342:d3403~に発表されています。

 以下にサマリーを載せておきます。

Association between maternal sleep practices and risk of late stillbirth: a case-control study

Tomasina Stacey, John M D Thompson, Ed A Mitchell, Alec J Ekeroma, Jane M Zuccollo, Lesley M E McCowan

Abstract

Objectives:
To determine whether snoring, sleep position, and other sleep practices in pregnant women are associated with risk of late stillbirth.

Design:
Prospective population based case-control study.

Participants:
Cases: 155 women with a singleton late stillbirth (≥28 weeks’ gestation) without congenital abnormality born between July 2006 and June 2009 and booked to deliver in Auckland. Controls: 310 women with single ongoing pregnancies and gestation matched to that at which the stillbirth occurred. Multivariable logistic regression adjusted for known confounding factors.

Main outcome measure:
Maternal snoring, daytime sleepiness (measured with the Epworth sleepiness scale), and sleep position at the time of going to sleep and on waking (left side, right side, back, and other).

Results:
The prevalence of late stillbirth in this study was 3.09/1000 births. No relation was found between snoring or daytime sleepiness and risk of late stillbirth. However, women who slept on their back or on their right side on the previous night (before stillbirth or interview) were more likely to experience a late stillbirth compared with women who slept on their left side (adjusted odds ratio for back sleeping 2.54 (95% CI 1.04 to 6.18), and for right side sleeping 1.74 (0.98 to 3.01)). The absolute risk of late stillbirth for women who went to sleep on their left was 1.96/1000 and was 3.93/1000 for women who did not go to sleep on their left. Women who got up to go to the toilet once or less on the last night were more likely to experience a late stillbirth compared with women who got up more frequently (adjusted odds ratio 2.28 (1.40 to 3.71)). Women who regularly slept during the day in the previous month were also more likely to experience a late stillbirth than those who did not (2.04 (1.26 to 3.27)).

Conclusions:
This is the first study to report maternal sleep related practices as risk factors for stillbirth, and these findings require urgent confirmation in further studies.

 英語が苦手な方のために日本語で簡単に内容をまとめてみます。

 妊娠28週以降に死産した女性155人と対照女性310人を対象に、睡眠習慣と死産との関連を症例対照研究で調査した研究論文です。前夜の睡眠時の姿勢が左側臥位に対して仰臥位・右側臥位(調整オッズ比2.54・1.74)では後期死産のリスクとなります。また夜間の排尿による起床が1回以下の場合には2回以上の頻回の場合(同2.28)に比して後期死産リスクとより関連していました。いびき、昼間傾眠とは関連はありませんでした。また、前月に昼寝を定期的にした女性は、昼寝しなかった女性(同2.04)より後期死産のリスクが高くなっていました。

 後期死産とは妊娠22週以降の死産を指しています。

 私のコメントです。

 妊娠後半の妊婦さんにとって、仰臥位(上向き寝)で睡眠をとることは仰臥位低血圧症候群との関連で、母児にとってよくないことは以前から知られていました。ですから、今まで妊娠後半の妊婦さんには、仰臥位を避けて左側臥位もしくは右側臥位で睡眠をとるように指導してきました。

 しかし今回の調査では、側臥位でも右側臥位は左側臥位に比べてリスクがあることが示されました。産婦人科医である私からすると、ある意味でもっともであり、ある意味で意外でもありました。

 そもそも仰臥位低血圧症候群とは、大きくなった妊娠子宮が母体の下大静脈を圧迫するために、心臓への静脈環流量が減って、その結果として心拍出量が減り低血圧が起こるという病態です。仰臥位低血圧症候群では、子宮血流量が減り、それに伴う当然の結果として胎児ー胎盤系の血流量も減ることになります。これが、胎児機能不全(かつての胎児仮死)・胎盤機能不全の原因となり、死産につながる可能性があると考えられます。

 仰臥位では下大静脈がもろに圧迫されるため仰臥位低血圧症候群が起こりやすいですが、下大静脈が脊椎の右側・下行大動脈が脊椎の左側にあるという解剖を考慮すると、左側臥位に比べて右側臥位の方が下大静脈が圧迫されやすいと言えます。

 したがって、右側臥位は左側臥位に比べてリスクがあるという結果は、ある意味でもっともであります。しかし、今までの教科書的な書物には、妊婦さんは仰臥位を避けて左側臥位もしくは右側臥位で睡眠をとるように指導すべき旨が記載されています。その意味では教科書的な記述を覆す意外な結果でもあるわけです。

 いずれにしましても、今回の結果を踏まえると、妊娠後半の妊婦さんには左側臥位での睡眠を勧めるべきであろうと思われます。明日からの診療に生かしたいと思います。

 一方、排尿による起床1回以下に対して2回以上の頻回ではリスクが高いということは意外な結果でした。というのも、排尿回数が多いと言うことは、膀胱が胎児あるいは子宮で圧迫されているわけであり、早産兆候や羊水過多・多胎妊娠などのリスクが潜在している場合に多くみられる所見だからです。しかし、夜間の排尿回数が少ない、つまり児頭が骨盤内に嵌入・固定していない場合には子宮内胎児発育不全や骨盤位などの発育異常・胎位異常があったり、胎動により臍帯のトラブルが起こりやすくなることも事実です。こうした潜在する背景が考慮されていないので排尿回数のみで後期死産のリスクを議論することは難しいのではないでしょうか。

 前月に昼寝を定期的にした妊婦さんは、昼寝しなかった妊婦さんより後期死産のリスクが高いということは、昼寝をせずに動いていた方がよいと言うことなのでしょうが、どういう理由なのか分かりかねます。

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