子宮移植 | 産婦人科専門医・周産期専門医からのメッセージ

産婦人科専門医・周産期専門医からのメッセージ

 第一線で働く産婦人科専門医・周産期専門医(母体・胎児)からのメッセージというモチーフのもと、専門家の視点で、妊娠・出産・不妊症に関する話題や情報を提供しています。女性の健康管理・病気に関する話題も併せて提供していきます。

 「世界初、母から娘への子宮移植を実施 スウェーデン」CNNのニュース記事にありました。

 以下が原文の日本語訳です。

 スウェーデンのイエーテボリ大学は20日までに、世界で初めて母親から娘への子宮移植を実施したと発表した。

 手術は同大のサルグレンスカ病院で30歳代の女性2人に対して行われた。女性の1人は数年前に子宮頸癌の手術で子宮を摘出しており、もう1人は生まれつき子宮がなかったという。2人の身元は明らかにされていない。

 同病院の外科医であるミカエル・オラウソン教授によれば、手術は週末に行われた。「今のところ、移植はうまくいっている。だが健康な子どもが生まれてこそ、最終的な成功の証しとなる」とオラウソン教授はCNNの取材に対し述べた。

同大学によれば、手術前に2人から卵子を採取して体外受精が行われており、受精卵は凍結保存されているという。

受精卵は手術から1年ほどで子宮に移され、早ければ1年9カ月後には赤ちゃんが生まれる可能性があるという。

 「移植を受けた患者は2人とも経過は良好だ」と同病院のマッツ・ブレンストレム医師は18日、声明で述べた。「子宮を提供した母親たちはすでに起き上がって歩行しており、数日中に退院できるだろう」

 オラウソン教授によれば、今回の手術は母から娘への生体子宮移植としては世界で初めての試みだという。生体子宮移植は2000年に1度行われているが失敗しており、昨年はトルコで亡くなった人からの移植が行われているが、「今のところ患者が妊娠したという話は聞いていない」と同教授は言う。



 私のコメントです。

 移植医療は移植以外の方法では助からない病気を持つ患者さんや移植を行わないと日常生活に大きな負担を強いられる透析患者さんたちに大きな福音をもたらした治療法であり、脳死移植・生体移植を含めて広く行われるようになりました。

 しかし、以前より生体移植は健康な人にメスを入れることになるリスクが懸念事項としてあがっており、脳死移植がより第1選択の移植方法と考えられるようになっています。

 これを踏まえてですが、子宮移植には大きな問題点があると思います。

 これまでの移植医療は上記のように生命維持に必須の臓器に関して行われていました。しかし、子宮は子供を生むためには必須ですが、生命維持には必須とはいえない臓器です。これを移植するのはどうなんでしょうか?特に生体子宮移植では健康なドナーにもメスを入れることになってしまいます。

 子宮移植を行うと移植後は他の臓器移植後と同様に免疫抑制剤などを続けて拒絶反応を予防しなければなりません。一方、子宮移植の目的は将来における妊娠・出産にあることも確かでしょう。ところでこうした免疫抑制剤などによる母体や胎児への影響は無視できるものなのでしょうか?先天奇形や子宮内胎児発育遅延・早産など大きなリスクになるのではないでしょうか。

 子宮移植においては基本は術前に採卵・体外受精・凍結胚保存を行い、術後に融解胚移植を行って妊娠を目指すことになると思われます。確かに自分の卵巣からの卵子で受精卵を凍結し、移植された子宮に戻せば自分の子を自分で生んだという満足感はあるでしょう。しかし、母体にとっても児にとってもあまりにも大きすぎるリスクを負うことになると思います。それならば自分の卵巣からの卵子でできた受精卵を他の人に戻す代理母の方が、少なくとも児にとっては安全なのではないかと思います。まあこの場合代理母が妊娠・出産に伴うリスクを負うことになるのですが、子宮を移植された女性が負うことになるリスクとは比べものにならないと思います。

 子宮の病気や奇形・異常で妊娠・出産ができない人にとっては一時的には子宮移植は魅力にも映りますが、母児にとってはあまりにもリスクが大きすぎる治療でもあります。倫理的問題はあるのでしょうが、こうした患者さんにとっては高度に発展した生殖補助医療に頼る方が母児にとってリスクが少ない方法と思えてなりません。

 今後も子宮移植が普及するとは思えませんし、逆に行うべき移植ではないと思います。したがってこうした記事に対しては、周産期医療を扱う産婦人科医としては決して賞賛の声をあげることはできません。


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