打ち上げが終わったのは午前３時くらいだっただろうか。
岩熊さんの岡林レフェリーのモノマネには本当に笑わせてもらった。
「もう僕は明るくいきますよ。
ジョーさんに言いたいことは言ったし、自分の中では絶対に勝ちだし、きっとベルトは巡り巡って自分のところに来る。
そう信じています」
中国という国が英雄伝説に関わっている以上、プロモーターのジョーさんがどれだけ人格者であろうと、交渉が厳しいものになるのは間違いない。
そんなことは百も承知の上だ。
その上で私は、交渉役である岩熊さんに脳髄からお願いした。
僕を救ってください。
まだ現役でやれるよう、僕の気持ちを救ってください。
直接こう言ったわけではないが、そんな気持ちを込めてお願いした。
【路地裏の景色】
朝まで寝たり、起きたりを繰り返し、ブログ『お天道様お願いします』に手を加えながら過ごした。
勝敗が決まっていない状態で、試合後の夜を明かしたのは１９９８年にデビューしてから初めてのことだった。
しかも、結果は転々とし、負けからドロー、そしてドローから再審議へと……。
言葉を失うくらい気持ちが落ちた状態ですがった神様、仏様、お天道様などの「超常的な力」が作用したのだろうか。
頼む、このまま私をチャンピオンに変えてくれ。
２００８年のK-1で、ある審判は叫んだ。
「選手が命を賭けて戦っているのと同じように、我々審判団も命を賭けて試合を裁いているんだ。バカにするな！！」
選手と同じように命を賭けている？
いや、それは間違いだ。
間違いなく審判よりも選手の方が命を賭けて戦っている。
それに、泣き寝入りして再度立ち直れるほど、私はもう若くはない。
残された時間がそれほど多くないことは、自分がよくわかっている。
目の前の一つひとつに食らいつき、執着し、どん欲に戦うしか……。
どうか公正なジャッジを。
選手は本当に命を賭けている。命を削っている。
そして私は、２００３年のガオラン戦以来の喜びを表した小森会長のガッツポーズを信じているのだ。
会長が判定に入ったとき、勝利を確信したガッツポーズをしたのは１１年ぶり。
それで私も、自分の勝利を確信した。
会長の作戦を忠実に遂行し、それによって相手には何もさせずに完封した。
指導者としてこれほど嬉しい勝利はそうそう無いだろう。
しかし、リング上では負けを宣告された。
「今回に関しては、かける言葉が無いわ。それじゃあな……」
本当にかける言葉が無かったんだと思う。
「頼む、頼む、本当に何とかしてくれ」
太陽の陽が入って明るくなった部屋の真っ白なシーツの上で、枕を抱きかかえて一人でうなった。
気持ちの上下が激しい。
「もう流れに任せてしまえ」と達観する自分と「絶対に納得いかない」と悶々とする自分が交互にやってくる。
ふと足下を見ると、自分の足にまだ試合用のテーピングを巻いたままだったことに気がついた。
急いで会場から逃げ帰ってきたため、外すのを今の今まで忘れていた。
【言葉は交わさなくとも通じ合えるモノがある】
打ち上げが夜遅くまで続いて胃ももたれていたので、朝は抜くことにした。
そして空港へ出発する前に、昼食を食べておこうということになり、近くの中華のファストフード店でお粥を食べた。
横にはケムがいた。
まだ戦ったことはないが、同じ大会によく出ている同階級のムエタイトップファイターだ。
彼は元々寡黙なタイプなので話したことはほとんどない。
でも、当然お互い意識はしているので、挨拶くらいはどちらともなくしている。
私の出発時間の方が早いので、「それじゃあまた」といった感じで手を上げて挨拶をした。
ケムも微笑で応えて手を上げる。
ライバル選手同士とのそんなやり取りに心が少し暖まった。
【勝者のトロフィーと敗者のトロフィー】
日本人一行は空港へ向けて車を走らせた。
香港空港では伊澤波人選手と一緒に写真を撮った。
「伊澤くん、本当におめでとう」
「佐藤さんの結果って、結局どうなったんですか？」
「うん、再協議にかけられるみたい。本当は一緒にベルト巻いて写真撮りたかったけどね。でも、結果が変わって日本に送られてくることを信じているから」
「僕も祈ってます」
【「Tall」が最小サイズっておかしくない？と思った香港空港のスタバ】
香港空港内のスタバでラテを飲み、そして私は日本に帰った。
自分が勝ちか負けかもわからない状態のまま。
2014年深セン遠征『英雄伝説』①
2014年深セン遠征『英雄伝説』⑫
2014年深セン遠征『英雄伝説』⑬
2014年深セン遠征『英雄伝説』⑭
2014年深セン遠征『英雄伝説』⑮
明るく生こまい
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勝敗が決まっていない状態で、試合後の夜を明かしたのは１９９８年にデビューしてから初めてのことだった。
しかも、結果は転々とし、負けからドロー、そしてドローから再審議へと……。
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頼む、このまま私をチャンピオンに変えてくれ。
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「選手が命を賭けて戦っているのと同じように、我々審判団も命を賭けて試合を裁いているんだ。バカにするな！！」
選手と同じように命を賭けている？
いや、それは間違いだ。
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ふと足下を見ると、自分の足にまだ試合用のテーピングを巻いたままだったことに気がついた。
急いで会場から逃げ帰ってきたため、外すのを今の今まで忘れていた。
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打ち上げが夜遅くまで続いて胃ももたれていたので、朝は抜くことにした。
そして空港へ出発する前に、昼食を食べておこうということになり、近くの中華のファストフード店でお粥を食べた。
横にはケムがいた。
まだ戦ったことはないが、同じ大会によく出ている同階級のムエタイトップファイターだ。
彼は元々寡黙なタイプなので話したことはほとんどない。
でも、当然お互い意識はしているので、挨拶くらいはどちらともなくしている。
私の出発時間の方が早いので、「それじゃあまた」といった感じで手を上げて挨拶をした。
ケムも微笑で応えて手を上げる。
ライバル選手同士とのそんなやり取りに心が少し暖まった。
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「伊澤くん、本当におめでとう」
「佐藤さんの結果って、結局どうなったんですか？」
「うん、再協議にかけられるみたい。本当は一緒にベルト巻いて写真撮りたかったけどね。でも、結果が変わって日本に送られてくることを信じているから」
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