天然100%!今日もがんばるオレンジブログ!

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基本的にはポケモンの二次小説で、時折色んなお話を!楽しく作りたいですね!

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 ペリッパーたちに驚かれるくらいにたくさんの依頼をこなしたわけだけど、まだまだ次のランクには程遠いようだ。世界一の救助隊に一歩でも近づくには、どんどん頑張れってことか。



 翌日。それまでと変わらない朝を迎える。基地の窓から差し込む日差しや鳥ポケモンたちのさえずり。それらの組み合わせでボクはゆっくりと目を覚ます。



 「う、う~ん………朝だ。そうだ!チカは!?」



 しばらくの間ぼんやりとしていたボクだったけれど、すぐに彼女の笑顔が恋しくなってしまう。ガバッと藁のベッドから飛び上がると、朝食として彼女が用意してくれたリンゴや木の実を食べず、すぐに外に出ていく。



 (………まだ来ていないのか。早く会いたいな。じゃないと寂しくてたまらないよ)



 当然のことだが、そこにチカの姿は無い。だいぶ離れて暮らしているのだろうか。だとしたら毎朝自分を迎えにやってくるのは相当な負担なはず。いくらボクたちが異性コンビのチームとはいえ、果たしてこんなことを続けて良いものか不安が過る。………そんなときだった。迎えに来た彼女に声をかけられたのは。



 「おはよう、ユウキ。きょうもよろしくね♪」

 「チカ………こっちこそよろしくだよ!目一杯頑張ろうね!」



 チカが小さく首を傾げながら微笑んだのだ。その瞬間、ボクの心は満たされた。誰よりも可愛いその笑顔が大好きだから。



 こんな感じでボクの11日目が始まった。まず日課になりつつあるポストの確認をチカと一緒にやる。駆け出しにも関わらず、“メモリーズ”を指名してくれた依頼の手紙の数々を投函するペリッパーを見送った後に。小さい体を目一杯動かして。この時間だって自分には気持ちが安らぐし、同時にやる気にもさせてくる。



 「あった!えっと………なになに?“モモンのみ”を友達にプレゼントしたいので、“ちいさなもり”で一緒に冒険させて下さい………だってさ!…………依頼主はヒノアラシだね」

 「ふ~ん」

 「どうしたの、ユウキ?なんか乗る気じゃないね?」



 依頼の手紙が入っていたことで、チカのテンションは日々高まっているように感じる。一方でボクは手紙の内容に妙な違和感を感じた。そのせいかパッとした返事じゃなかったらしく、当然チカが不思議に感じて尋ねてきた。



 「いや。大したことじゃないんだけどさ、木の実関係って“カクレオン商店”で売ってなかったっけ?それも1ポケで。なのになんでわざわざ危険な不思議のダンジョンの木の実を欲しがるのかなぁ………てさ」

 「私もよくわからないんだけど、噂ではお店にある木の実とは微妙に味や雰囲気が違うみたいなんだよね」

 「なるほどね」



 それなら納得だ。依頼主には悪いけれど、労せず手に入るものの為に命懸けになるなんて、ボクには出来ないから。



 「ひとまず“ペリッパーれんらくじょ”で待ち合わせってなっているね。準備を整えて向かおうか」

 「そうだね。頑張っていこうね、ユウキ!」

 「うん!」



 こうしてボクたちの一日がきょうも始まった。



 「あ、“メモリーズ”さんですね?わたしの依頼を引き受けて頂いてありがとうございます」

 「いやいや。ボクたちこそ嬉しいよ。たくさんの救助隊がいる中で選んで貰えて」

 「私たちがしっかりついているから、安心してついてきて下さいね♪」

 「はい、よろしくお願いします!」



 連絡所に到着すると、掲示板の近くにヒノアラシの姿があった。頭に小さな赤いリボンをつけていることや、話し方からすぐに女の子だと言うことはわかった。人見知りのように、少々恥ずかしそうにしているのは種族柄の臆病気質もあるのかもしれない。ペコリと頭を下げるその礼儀正しさが伝わったこともあって、ボクたちは一層やる気を出させてくれた。



 「それじゃあ早速“ちいさなもり”へ行きましょう♪」

 「はい!」







 「ヒノアラシさん。くれぐれも私たちのそばを離れないでくださいね♪」

 「はい!」

 「何かあったら、ボクたちがしっかり守りますから!」

 「ありがとうございます!」



 森の中にはあのときの地震で出来上がった地割れがそのまま残っていた。あのときはまっ逆さまに落下する形でダンジョンに入ったけれど、今回は違う。バッジのおかげで、安全にスーッとその中に降りることが出来た。



 まずは地下1階。ここはまだ地上からの光も届いていて明るさもある。最初の部屋はそれなりの広さがあり、南北に道が延びているのが確認できた。チカに意見を求められたボクは、ひとまず北側の道へと進む。すると少し歩いたところで道はL字型に変形し、西側へと進路変更した。更にボクたちは歩く。



 「こ、怖いです………」

 「大丈夫、大丈夫だよ」



 やはり自分たちのような救助隊と異なり、一般住民のポケモンたちにとって不思議のダンジョンを歩くのは抵抗がある様子。怯えるヒノアラシにチカが優しく声をかけてる姿が印象的である。



 (無理も無いか。外の世界ではこの場所は危険な場所として浸透しているようだし。そういえば…………チカも最初の頃は嫌がっていたよな)



 ボクは何だか懐かしい気持ちになる。“でんじはのどうくつ”の崩壊事件もあって、ボクたちが救助活動が出来るのは“ハガネやま”とここしか無いし、しかも入る度に雰囲気が変わって、さらに何度か歩いたこの場所にそんな感情を持ってしまうのは、ちょっと変な感じもした。



 ……………だけど、



 (あんなに怖がりだったチカが、他のポケモンを守ろうと強くなってるんだ。確実に“メモリーズ”は良い方向に向かっているはず。例えダンジョンの雰囲気が変化していてもボクたちの頑張りは記憶として刻まれている…………。きっとこの先も)



 ボクは気持ちを強く持って前進することだけを考えた。きょうも自分たちを信じてくれる依頼主さんに笑顔になって欲しい…………それが自分たちにとって一番報われる瞬間なのだから。



 「あっ!余所者がやってきたぞ!」

 「やっつけろ!」

 「追い出してしまえ!」

 「うわっ!」

 「キャッ!」

 「何するんですか!?やめてください!」



 道を抜けて部屋に突入すると、三匹のポッポが翼を広げて攻撃してきた!ボクやチカはバトルのレベルがそれなりに上がって耐久力が増していたので、さほどダメージは無い。問題はヒノアラシだ。同じ攻撃のはずなのに、一番最初の頃のボクたちのように一つ一つの傷が深い。このままでは依頼主が倒れる事態になってしまう。



 「もう、襲ったりしないから変に攻撃しないでよ!!」

 『うわあああああああ!!』



 チカが赤い頬っぺたから電撃を放った!苦手な攻撃だったこともあり、ポッポたちはみんな我先にと逃げ出した。ボクは彼女に感謝しつつ、ヒノアラシに駆け寄る。



 「ありがとう、ユウキさん。私なら大丈夫です。心配かけて申し訳ありません」

 「それなら良いけれど………」



 一応バッジの効果で自然回復は可能だけど、それまでにヒノアラシの体力が持つかが心配だった。しかし“オレンのみ”を差し出しても拒むばかり。押し付けることも出来ないので、ひとまず先に進むことにした。



 「本当に大丈夫?」

 「良いんです。私のことで“メモリーズ“に迷惑かけることは出来ませんから」



 私には彼女がすぐに嘘をついていることくらいわかりました。どう考えても息は荒いし、歩き方もふらついている感じに見えたから。まあ私たちのバッジのおかげで、ダンジョンでのダメージ蓄積現象から守られてるでしょうし、逆に自然治癒効果で持ち直すとは思いましたが。それに、



 (少しでも早く“モモンのみ”が見つかれば良いな。木の実だから通路に落ちている可能性は低いだろうけど、早く見つけて安心させたいな)



 そう。今回はいつもと異なり、変にバトルを繰り広げなくても目標達成出来る依頼。気分的にはラクでした。逆にしっかりダンジョンの深くに進むより、フロア内を歩かないといけないので、体力を使うことにはなりましたが。



 (今回は手慣れたダンジョンだし、そこまで強いポケモンもいないから堪えてないけれど、依頼主さんを連れて歩くタイプの仕事は内容をちゃんと選ばないとキツいことになりそう。ちゃんとユウキにも伝えないとね)



 バトル終了後、私たちはさらに部屋から西へ伸びる道を進みました。そのとき狭い道の中でヒノアラシちゃんが攻撃されないように、私が一番後ろを歩くように態勢を執り直す形に。



 (なんかちょっと心細いな。いつもユウキのそばを歩いてるせいなのかな?)



 リーダーであるユウキの指示に従い、尽くすのがパートナーである私の務め。それは理解出来ているのですが、いつも二人っきりで行動している分だけ、ずっと二人で一緒に歩きたい。いつの間にかそんな気持ちが芽生えているのは事実。だからこそ混乱している自分がそこにいました。



 だってこれから救助活動を続けるために、仲間を増やそうって決めたのは他の誰でもない私自身。なのに二人っきりでいたいって気持ちは仲間を拒むことを意味しているのですから。



 (一体どっちの道に進むのが、自分には幸せなんだろうな………)



 「ここにも無さそうだなぁ。他の場所を探してみよう」



 次の部屋でも“モモンのみ”は見つからなかった。ガックリとしたけれど、すぐに気持ちを入れ直して歩き始める。幸い他のポケモンとのバトルもあれから無いし、ヒノアラシの傷もだいぶ癒えてきてる様子。少しは余裕が出てきた。



 先ほどの部屋からは南に道が延びていた。ぐるりと反時計回りでフロア内を歩いていることになる。その証拠として途中に東へ進める道が枝分かれしていたけれど、間違いなくそこを歩いたら出発点に戻るだろう。だからボクはまっすぐ進み続けた。



 するとどうだろう。やがて道は東へ進まざるを得ない作りになっていた。恐らくここが地下1階の南端ということだ。方向転換をして、更に先に進む。途中で上空から見たらきっと階段状になってるだろう造りのところを歩いた。



 やがて部屋へとぶつかる。かなり広めだった。多分本日最大級だろう。奥には下につながる階段も見える。アイテムも落ちていた。“オレンのみ”にリンゴが三つ、それに10ポケほどのお金も。けれどそれらは全てボクたちの目当てと違う。普段は嬉しいことのハズなのに、きょうは違う。それはチカも感じているハズだ。



 「チカ、下に行ってみる?」

 「いや、まだ歩いてない場所があるよ。別の部屋があるかも知れないから、そこに行ってみよう」

 「うん、わかった」



 私の言葉にユウキは頷くと、階段より先にある道を目指しました。そこは北へと進める道。迷いを振りきるようにどんどん歩くのでした。



 「あ、侵入者!!先に進ますもんか!」

 「これでもか!?“ひのこ”!」

 「何すんだ!?わあああああ!」



 その道中でケムッソに出くわしたけど、ユウキの攻撃であっという間に倒れました。本当に力の差など無視した容赦ない攻撃。本当は好きじゃないけど、今回は自分たちだけじゃないこともあったので、私はぐっと気持ちを我慢したのです。



 「よし、早く先に行こう。ややこしいことになる前に」

 「うん」



 今度はユウキの言葉に私が頷きました。問題はこの先にある部屋の中に”モモンのみ“があるかどうか。発見できなかったら階段で地下2階に向かう必要があったのですから、彼の考えにも納得出来ました。



 「…………やっぱり見当たらないなぁ」

 「そうだね。残念だけど、地下1階には恐らく落ちてないんだろうね」

 「だとしたら下に降りるしかないかぁ。よし、そうと決まったら階段のところまで行こう!」

 「そうだね、ユウキ!」

 


 チカも期待したに違いない。けれどこの部屋にも何も存在しなかった。ボクはヒノアラシにも声をかけて、階段のある部屋まで戻ることにした。



 「いたぞ!救助隊だ!」

 「逃がすな!!やっつけるんだ!」

 「おー!!」

 「くっ、段々と他のポケモンも増えてきたね。みんな、逃げるよ!しっかりついてきてね」



 その道中、ボクたちの噂を耳にしたポケモンたちが攻めてきた。ポッポ、ケムッソ、そしてヒマナッツの三匹である。いつもなら応戦するところだけど、きょうは違う。バトルになれば一般住民のヒノアラシまで変に巻き添えにする可能性もあるのだから。とにかく逃げることに専念する。



 ところが彼女は違った。キリッと真剣な眼差しになると、クルっと体を半回転させて四つ足になると、赤い電気袋をバチバチさせる。ポケモンたちを迎撃する態勢をとったのである。



 「チカ!!」

 「ユウキはヒノアラシちゃんを連れて先に行って良いよ!!私があのポケモンたちとバトルするから!」

 「えっ!?でも…………!」

 「気にしないで!バッジのワープ機能で、どちらかが階段を降りれば自動的に次の階に集合できるからさ!」




 背中越しで促してくるチカ。確かに今の彼女のレベルだったら、この辺りのポケモンを相手にするなんて簡単なことだし、“パートナー”に託すのも悪い手じゃない。



 でも、ボクが決断出来なかったのはそんなことじゃない。単純にチカが自分のそばから離れることが寂しいだけなのだ。だけど彼女の気持ちは変わらない。ボクはヒノアラシと共にその場を立ち去った。







 「あ、逃げやがった!追え~!!」

 「そうはいかないよ!“でんきショック”!」

 「うあああああっ!!」



 私はユウキとヒノアラシちゃんが逃げたのを確認すると、追ってきたポケモンたちに向かって電撃を放ちました。狭い道の中ということもあって逃げ場は存在せず、たちまちダメージによる苦しみの声で溢れることに。それでも比較的ダメージが少なかったヒマナッツだけは倒れず、自分に向かって飛び付いてきたのです!



 「よ………よくも友達を傷つけてくれたな!お返しだ!」

 「きゃっ!!くっ…………!」



 眩しい光が差し込んできて咄嗟に目を瞑った私。するとその直後に鋭い痛みと共に、何か力を奪われる感覚に襲われたのです。くさタイプが得意としている“すいとる”でした。その場にガクッと崩れかかりましたが、ここで倒れたらユウキに迷惑をかけてしまう………そのように考えた私は、目一杯電気袋に意識を集中させたのです。



 「友達を攻撃したのは謝るよ。だけど私たちも好きでこんなことをしてる訳じゃないんだ。可哀想だけど許してね!」

 「えっ!…………ぎゃあああっ!!」



 完全に体が密着していては、いくら相性がいまひとつのヒマナッツでも強烈なダメージを避けることは出来ませんでした。私は心の中で何度も謝罪しながらも、このバトルを終結させたのです。これまでなら「誰かのために頑張る自分が悪役扱い」されることに理不尽さも感じていたのですが、段々とそれにも慣れてきた感じもしました。それよりも依頼主さんやユウキの喜ぶ姿を観るのが嬉しいから。



 「さてと、ユウキたちと合流しないとね♪」








 (もしかして、バトルが終わったかもしれないな………)



 チカと離れて階段のある部屋を目指すボク。その途中でなんとなく振り返ると、突然遠くが落雷のように発光した。心の中で呟いたのはそのときのことである。この考えが正しければ、彼女はボクたちを追ってくるはず。そう思うと、変に動かない方が良いのではないか…………そんな風にボクに次の一歩を踏み出すことを躊躇させる。



 「あの…………。大丈夫ですか、ヒトカゲさん」

 「え?あっと…………アハハ。すみません。何だか心配かけてしまって…………」



 そんなボクを不思議に思ったのか、ヒノアラシが声をかけてくる。平常心を装うのもラクじゃない。このモヤモヤした気持ちを解消するには、やっぱりチカとの合流だろう。いや、最初から共にバトルをすれば良かっただけの話なのだ。どうやらきょうも自分の優柔不断さは変わらないようである。



 でもまあそんなこと嘆いても仕方ない。とにかく自分はヒノアラシと一緒に階段を下ることだけを考えれば良い。ボクは迷いを振り払うようにどんどん先を歩いた。そうしている間に、いつしか目的の場所にたどり着いた。



 「見て、あの階段を下れば次のフロアだよ」

 「下のフロアに“モモンのみ”が落ちていますように!」

 「だね。ボクもそう願っているよ」



 祈るような仕草をするヒノアラシ。その姿にボクは気持ちが引き締まる。それからさりげなく後ろを振り返った。



 (結局チカは間に合わなかったか…………。まあいいか。次のフロアに降りれば合流出来るわけだし…………)



 モヤモヤした気持ちは続いたが、だからといってこのままじっとしている訳にもいかない。ボクは気持ちを強く持って階段を下りた。



 「ユウキ!ヒノアラシちゃん!」

 「チカ!良かった。ちゃんと合流出来た!」



 次の地下2階。そこでボクはチカと再会した。恐らく走っていたことも関係しているのだろう。彼女は呼吸を荒くさせて苦しそうな表情だった。それでもボクには関係無い。ただただ彼女とまた共に行動できる安心感の方が勝ったのである。



 「無事そうで良かったよ………。ゴメン、負担をかけてしまって」

 「ユウキってば、恥ずかしいよ………/////。ヒノアラシちゃんの見てる前で急に抱きしめるなんて…………」

 「あっ………/////」



 チカに指摘されて、急に恥ずかしさが増す。ヒノアラシも想定外の展開にオロオロしている。きっと目のやり場に困っているのだろう。ボクは彼女を少しでも労って優しくしたい気持ちからか、思わず抱き締めたのである。いや、違う。むしろボクの方が安心感に満たされる幸せを感じていたのかもしれない。だってチカの体、たくさんの毛でふわふわするから。



 私も戸惑うばかりでした。嬉しいのか、嫌だったのか。わかっているのは自分の体に残るユウキの温もりが愛おしいことだけ。そして子供のように甘えたり、寂しがったり、喜んだりする彼がとても可愛くて、何だかもっと尽くしたい気分にさせてくれること。これが母性本能なのだろうと思いました。



 「クスッ♪ユウキさんとチカさんってお似合いですね。種族を越えてこんなに相性がピッタリなんて凄いですよ………」

 「え、お似合いって………」

 「いやいや!そんなんじゃないってば……////!同じチームってだけだから!男の子を好きになるとかそんなのとは違うんだよ…………!!」



 まさか依頼主さんからそんな風に言われるとは思ってもなかった。自分はちろんだけど、一番慌てたのはチカだろう。その言葉が本意かどうかはわからない。だけど執拗に一生懸命ヒノアラシの言葉を否定する辺り、ひょっとしたらみたいな気持ちがボクの中に芽生えたのは事実だ。少しだけこの世界にいる嬉しさを感じられるから。



 (いつか本当にリーダーとパートナーの関係を越えるような…………そんな関係になれたら良いになぁ)



 もし本当にそれが実現したときにも自分はちゃんと人間に戻る意志を持てるのか。それは全然わからない。だけどそれくらいチカの存在は自分にはでかいし絶対に失いたくなかった。彼女からすれば、束縛しているみたいで迷惑極まりないけれど。



 さぁ気分を取り直して、再び“モモンのみ”の捜索再開だ。まず最初の部屋は東西にかなり広い造り。これはそれなりに期待を持って大丈夫かなと正直思った。だけどやはりそんな簡単な問題ではなかった。確かに“オレンのみ”やポケと言ったようなアイテムは落ちていたものの、肝心な“モモンのみ”は存在しなかったのである。これにはボクもチカも、それからヒノアラシも溜め息をついてしまう。



 「しょうがない。先を急ごう」

 「そうだね。頑張らないとね」



 ややうつむき加減だったチカに手を差し出す。彼女は応えようとしたのか、若干無理矢理な笑顔を見せる。ひとまずボクたちは部屋から北へ続く道を歩く。さすがに細い道にアイテムが落ちているなんて考えにくいのだが、見落としてはいけないと思って隈無く探し続ける。まあ結局“モモンのみ”が見つかることはなかったのだが。



 何度か変形した道を進むと、西へと分かれる道が見つかった。だがボクは構わず北進を続ける。やがて次の部屋に突入した。そこは最初の部屋と違ってかなり狭い部屋。道は続いておらず先へは進めない。特に道具が落ちている様子もなく、完全に時間を浪費しただけになってしまった。



 「くそっ、なんだよ」

 「しょうがないよ。さっきの分かれ道のところまで戻ろうか」



 苛つく自分のことをチカがなだめてくれる。と、そのときだ。グワッという音と共に、背後から強烈な風が吹き荒れたのは。



 「わっ!?何だ!」

 「ヒノアラシちゃん、大丈夫!?」



 ボクたちは咄嗟にその場に伏せた。それでもじわじわとダメージが重なるのを感じる。特にバトルなどほとんど経験の無いヒノアラシにかかる負担は相当だろう。チカが励ましたりとカバーしているとはいえ、恐怖心からブルブルと体を震わせているのが目に入った。



 (やっぱり一般住民のポケモンは、あまりバトルをするってことは無いんだな。そりゃあダンジョンに迂闊に入ったりしたら、どうにもならないわけだ)



 ボクはこの世界の生活をまた一つ知ったような気がした。それとともに自分たちの持つ役目の重要さも感じずにはいられなかった。





 (さっきの技は“かぜおこし”!でも近くに気配を感じない…………ということは!)



 私は襲撃してきた相手を発見すべく、上空を見上げました。予想は的中。そこには翼をバサバサとさせて強い風を地上へと送るポッポの姿がありました。だけどまだこちらには気づいていない様子。追い払うには絶好のチャンスです!



 「え~~い!!!」

 「!!」



 私は道具箱からタネを取り出すと、ポッポに向かって投げました!相手もビックリした様子でこちらに気づいて、サッと離れたのですが…………、



 「それは囮だよ!!“でんきショック”!!」

 「な、しまった!!うぎゃああああ!」



 そう。単純に攻撃を仕掛けても空中で回避されるだろうと予測した私は、先にタネをぶつけて回避行動による移動が落ち着いたところを狙い打ちしようと考えました。その作戦は見事に的中。文字通り直撃という形になったポッポは悲鳴を上げると、そのまま地上に墜落したのでした。



 「チカ、見事な作戦だったね!」

 「うん。空中にいる相手だと簡単に技は命中してくれないからね。決まって良かったよ」



 バトルを終えると、ユウキが声をかけてくれました。その言葉がなんだか恥ずかしかったけれど、笑顔な彼が可愛いし、何より力になれていることが嬉しくてたまらなかった。



 (ユウキは人間の世界に戻りたいらしいけれど、出来ることならずっと一緒にいてくれたら良いな…………。凄く幸せだから)



 出逢った頃はユウキが人間に戻れるように努力しようと考えていた私でしたが、いつしか彼がこの世界に残ることを望むようになったようでした。



 それは決して叶うことは無いと言うのに。




 「とりあえずみんなケガは無さそうだね。早く“モモンのみ”を見つけて帰ろう」

 「是非ともそうして欲しいです。怖い想いしたくないし、正直もう帰りたいです…………」

 「ヒノアラシちゃん………」

 


 ユウキは優しく励ます中、ヒノアラシちゃんはもう外の世界に戻ることしか考えられない状態。依頼主さんにそんな気持ちにさせてしまった自分に情けなさを感じました。彼も同じ風に感じていたかもしれません。だって一瞬ドキッとしたような表情を浮かべたのですから。



 それでもここで帰るわけにはいきません。歩いてきた道をひたすら歩き、分岐点のところまで戻り、私たち今度は東へと続く道から少し進むと広めの部屋に突入したのです。



 「ここにも無さそうかな…………あっ!」

 「あったね、ユウキ!!」

 「良かった…………!」



 これまで通り何も無さそうな雰囲気がありましたが、微かに遠くの方で木の実が転がっているのが目に入りました。それもひとつだけでなく、10コほどのまとまりで。すかさずそばに駆け寄る私たち。これでようやく依頼達成ということになり、それまでの不安感は一気に喜びへと変わったのでした。ヒノアラシちゃんもよっぽど嬉しかったのでしょう。その場でピョンピョン小さく跳ねているのが目に入りました。



 「ありがとうございます!私の友達もきっと喜んでくれると思います!」

 「いやいや。それよりも怖い想いさせてゴメン」

 「いえいえ、とんでもないです!私こそ“メモリーズ”のお二人が大変な想いをされながら自分を守ってくれていたのに、自分勝手な発言をしてしまって…………」

 「気にしなくて大丈夫だよ。私たち、危険なことから依頼主さんを守るのも役目だからさ」

 「チカさん…………」



 ユウキの言葉でハッとした様子のヒノアラシちゃん。けれどあの「帰りたい」って発言をしたい気持ちは私にも理解できました。初めてこの場所での救助活動中に、自分も彼に同じような発言をしたのですから。



 「ひとまず戻ろうよ」

 「そうだね、えい!」



 ユウキと私はバッジを空高く掲げて、脱出機能を発動させました。その直後に眩しい光が三匹を包み込んだのです。それはきょうの救助活動が無事に終了したことを意味するものでした。








 場所は変わって連絡所近くにある掲示板前。辺りはすっかり空も海もオレンジ色に染まっていた。その中でヒノアラシが何度も深々とお礼をしている。お陰でこっちの方がたじたじしてしまう。



 「本当にありがとうございます!これはほんのお礼です!受け取ってください!」

 「わあ!“あかいグミ”に“きいろグミ”に200ポケ!ありがとう!」

 「いえいえ、それじゃあ私はこの辺で!」

 「うん、気を付けて帰ってね!」



 ヒノアラシが振り返って町の方へ歩いて帰る姿を僕らは手を振りながら見送った。その後、受付のぺリッパーに手紙を見せて依頼達成の報告をした。報酬として5ポイント。またブロンズランクに一歩近づいた。



 「ご苦労様ダヨ!この調子で次も頑張るダヨ!」



 ボクはぺリッパーにも労いの言葉を送られた。大きく頷いて決意を固める。チカが思い描く、みんなが平和に暮らせる世の中へと近づかせるために。



 「きょうも頑張ったね、ユウキ。私も疲れちゃったから帰るね」

 「うん、帰り道に気を付けてね」

 「ありがとう。それじゃあ………」

 『また明日♪』



 基地に戻った頃にはすっかり夕暮れだ。それでもボクにも、そしてチカにも笑顔がこぼれる。それだけ充実しているのだ。だけど彼女を見送った後には寂しさが込み上げる。きょうもまた夜は一人だ。



 


         ……………メモリー50へ続く。