ワラーチで走りたくて

ワラーチで走りたくて

ウルトラマラソンやトレイルのレースに出た結果を記録に書いています。ワラーチで走ってます。

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7月19日におんたけウルトラ100kmを15時間10分13秒で完走した。すでに1か月を経過したが、やっと記録を書く気になったので、拙い駄文を記すことにする。

前日の18日、車で雨のなかを出発した。明日は晴れる予報が出ているし、おんたけ
のコースは林道で、美ヶ原のような泥沼トレイルではないので、雨のことはあまり
気にしていなかった。

今回もすべてワラーチで行くつもりである。ただし、7/4の美ヶ原トレイルを泥沼激坂でのワラーチ破損が原因で、わずか20kmでリタイヤしているだけに、用心をして予備のワラーチをバックパックに入れ、その予備も壊れた時のために、急遽購入したビブラムのファイブフィンガーズもバックパックに押し込むという念の入れようだった。

雨は数日前から降り続いていて、Yahooカーナビでルートを検索すると、松原スポーツ公園に向かう御嶽湖沿いの道に通行止めのマークが何カ所もついていた。
Yahooカーナビもそれを避けて付知峡方面から王滝村に向かうルートを示している。このルートも相当困難な山道に見えるが、せっかく行って通行止めでDNSになってしまっては死んでも死にきれない。今回はなんとしても完走してUTMFポイント3を得なければならないのだ。Yahooカーナビの通りに行くことにした。

ところが、付知峡を越えてしばらく進むと、渡合方面はがけ崩れで通行止めとの看
板があらわれた。この情報はYahooにはない。通行止めを無視、Yahooカーナビを信
じて前進する。道はすれ違い困難なほど狭く、路面はガタガタに荒れて、車が4WD
で良かったが、これはたどり着けないのでは?と心配になってきた。

前方からワンボックスの車が現れて、ぎりぎりですれ違いざまに、運転手のラン
ナーっぽいお兄さんがウインドウを下ろし、「この先行き止まりでした」とい
う。「おんたけですか?」と聞くとそうだという。彼もYahooカーナビを信じて来た
らしい。「御嶽湖のあたり通行止めらしいですよね」と言うと、「あっちは広い道
路だからなんとかなるでしょう」との返事。行き止まりでは仕方がない。自分もそ
こでUターンすることにした。

この判断は正解で、通行止めのマークが出ていたところは、たんなる工事中で、土
日は工事も休みとなっており、何の問題もなく通行できた。もしかしたら、DNSにな
るかと思っていただけに、あそこでワンボックスのお兄さんに会えてよかった。

1年ぶりに来た松原スポーツ公園は、駐車スペースが雨でぐちゃぐちゃにぬかる
み、大きな水たまりがあちこちにできていた。
受付け場所に行きゼッケンなど一式をもらってくると、それだけで足は泥だらけに
なってしまった。参加賞のTシャツは赤色でちょっと残念。赤のシャツは、派手なの
で普段着としては使いにくいのだ。

細かい雨が降り続いている。時折、車の屋根をたたく雨音が強くなり、明日は晴れ
るという予報であるが、本当だろうかと不安になる。

昼は、パスタをゆでてトマトソースで和えたものをタッパー2つに分けて詰め込んだ
炭水化物弁当。ひとつを昼に食べて、もう一つは夕方にとっておく。おにぎりも5つ
持ってきていて、3つを食べて、2つはデポバッグに入れた。おかずは毎度おなじみ
のサバ水煮缶と魚肉ソーセージ。今年は春から数えて6回目の遠征であるが、毎回同
じ様なメニューで飽きてきた。そろそろ新しいメニューを考えないといけない。

おんたけはUTMFの資格3ポイント得られるので、絶対完走しなければならない。ワ
ラーチ2足の紐を念入りに確認する。最初に履くワラーチの紐は、硬めのナイロンで
漁業ロープに使われるもの。耐水性と強度があるが、肌への当たりは荒く、雨でふ
やけた皮膚がすりむける恐れがある。そこで足の甲からくるぶしにかけて、細い骨
がでっぱったところを中心に念入りにキネシオテープを巻いた。

予備のワラーチは、やわらかいナイロン繊維の紐(3ミリ径)を使っている。耐久性
に不安があるが、100kmを通して履くわけではないので何とか持ちこたえるだろ
う。メインのワラーチがビブラムシート2枚の凸凹面を外合わせに接着したものに対し、予備ワラーチはビブラムシートにペレマットを重ね滑り止めのざらざらしたゴムシートを貼ってある。

さらに両方のワラーチがダメになった時のために、VFF(ファイブフィンガーズ)も
用意した。これはデポ地点に預けるつもりでいたが、そこにたどり着くまでにワ
ラーチが持たなかったら困ると考え、これも最初からザックに入れていくことにし
た。

VFFで走ったことは一度もない。数日前に買ったばかりだ。履いてみた感じでは、シューズ感たっぷりでワラーチのような解放さはまったくない。しかも親指の
長さに合わせてサイズを選んだのだが、他の指が短すぎてVFFの各指収納エリアに収
まってくれない。またソールが足裏のアーチをかたどって成形されているのだが、ゴムが硬くて自分のアーチになじまず、いまいちしっくりこない。

これなら、普通のトレランシューズを予備に持った方がよさそうだったが、それだ
と背中のザックに収まらない。VFFの良いところはコンパクトに収納できることだ。

暗くなって7時に二つ目のパスタ弁当を夕飯に食べ、仮眠に入る。うとうとしなが
ら、8時の100マイルスタートの声を聞いた。

10時半ころに起きて、トイレに行く。雨は止んでいた。とりあえず魚肉ソーセージ
と、手製のグラノーラバーを食べる。ファイントラックのドライメッシュを、昨年
のKOUMI100でもらったTシャツの下に着て、ひざ下まであるランパンを履いた。

ハイドレに2リットルの水、エネルギージェル10個、手製のグラノーラバー、予備のワラーチ、VFFで、リュックはパンパンである。また、ヘッドライトとハンドライ
ト、予備の電池、携帯も装備し、総重量は5㎏近くなっていると思われた。ゴアテックスのカッパは、気温が高く下半身は濡れても平気との判断で、上だけをザックに入れた。

デポ袋には、薄いウインドブレーカー、タオル、おにぎり2つ、後半用のエネルギー
ジェルを放り込み、口をしっかりと紐で縛った。

11時半に車を出て、スタート地点に向かう。ワラーチ履きの人は見かけない
が、Face Bookの情報によれば、2~3人はいるはずだった。

他のランナーから話しかけられることはなく、その視線はあまり好ましいものではないような気がした。ロードならともかく、トレイルをサンダル履きで走るなんてなんと非常識な!?といった感じか(被害妄想に過ぎず)。

スタートしてしばらくは濡れた舗装路を行く。昨年は故障していて大腿部に力が入
らず、スタートしてすぐに最後尾となったことを思い出す。スイーパーの軽トラッ
クのヘッドライトに始終照らされながら、8時間もかけて40km地点までしか進めなかったという苦い記録だ。

今年は痛いところはどこもなく好調だった。舗装路が終わり、林道に入ると道幅
いっぱいにひろがった水溜りがあらわれ、周囲のランナーはシューズの浸水に声を上げていた。自分はワラーチなので、水溜りは歓迎だ。ざばざばと入って泥を洗い
流す。

おんたけの林道は、黄土色のさらさらした泥で、ワラーチにまとわりつかな
い。美ヶ原のトレイルは粘着質の黒土で、ソールに付着したものがどんどん堆積
し、それがぬるぬると滑って地獄だった。おんたけはその点らくちんだ。

調子よく走っていたが、最初のチェックポイントが遠く感じられた。32kmという
マップ上に表記に対し、実際は37km地点という説明だった。

夜が明けてきて、まだ第1関門にたどり着いていなかった。ワラーチの凸凹が水でふ
やけた足裏に凸凹をスタンプして痛みを感じる。ガレた下りで痛みがつらくな
り、とりあえずワラーチを脱いだ。ザックを下ろしてVFFに履き替えてみる。ところ
がこれが最悪だった。まるで足に合わない木靴のようだった。ソールは板のように
硬く、とがった岩石からガツガツと衝撃が伝わってくる。こりゃとても駄目だと
思った。30分も持たなかった。

雨がまた降ってきていた。ザックをおろし予備のワラーチに履き替える。足の甲に
巻きつけたテーピングをすべてはがしたら、巻きがきつ過ぎたのか青黒くうっ血し
ていた。予備ワラーチは柔らかい紐を使っているのでテーピングは要らない。これ
でいつも練習で履いているワラーチスタイルになった。

ペレマットがクッションに入っているので、ガレた下りもわりと苦なく行けるよう
になった。やっぱりワラーチは良い。なによりも毎日履いていて、体がワラーチで
走ることに馴れていた。第1関門がすぐに見えてきた。

第1チェックポイントのエイドで、オレンジを切ったやつを4つ立て続けに食べ、バ
ナナ、おにぎりとむさぼり食った。大をしたかったが、トイレは何人か並んでいた
のであきらめて出発。

ここから先は、単調なトレイルが続いたせいか、どの地点での記憶だったか定かで
ない。思い出すままに記しておく。

100マイルの選手をときどき見かけるようになった。100マイルは我々より4時間早く
スタートしていて、出会った時点でおおむね40kmは先行していると思われる。彼ら
は淡々と一定のリズムで走っている。登りも歩くことなくトコトコ走っていく。あ
る女性ランナーについていこうとしたが、登りでじわじわと引き離されてしまっ
た。

他の大会でよく見かける、サルカニ合戦の衣装を着けた人も100マイルを走ってい
た。彼は昨年のKOUMI100でも見かけた。こちらがすでに間に合わない4周目を走っているところを、ラストの周回と思われるサルカニさんに追い抜かれた。「それで走ってるの?」追い抜きざまにワラーチをみてそう声をかけられたのを覚えてい
る。強健で寡黙なランナーである。名前はわかっているがここには記さない。ネッ
トで検索しても彼のことは何もわからない。自分のことをブログに書いたりFace
Bookで公開したりしない人なのだ。静かに自分のウルトラを走っている。日本には
このようなウルトラランナーが他に何人もいるのだろう。

50kmの小エイドでやっと大のトイレに入り、2つ目のチェックポイントではデポ袋からおにぎりを2つ食べた。エネルギーはどれだけとっても足りない感じがし、エネルギージェルを1時間おきに摂取する。

もうだめ、リタイヤかなと思っても、それは単なるガス欠で、骨格や筋肉というメ
カが壊れたわけじゃない。エネルギーを補充してやればまた走りだせるのだ。

第3関門を越えるころになると、ガレた石が足裏に激しく痛みを与えるようになって
きた。できるだけ平らな石や草地に着地するように、脳が素早く画像処理をする
が、その頭もだいぶ朦朧としてきた。下りは衝撃がつらくどんどん抜かれる。登り
は衝撃が少ないので、また抜き返す。その繰り返しだ。

最後の小エイドに向かう長い下りは特につらかった。ゆるめの下りでスピードが自
然に上がるが、足裏への刺激が容赦ない。小柄な女性が先行しそれを追いかけていたが、小エイドにつくまでに引き離されてしまった。彼女は100マイルの選手でエイドを超えて左折、100マイルのループに分かれていった。

この小エイドで残り5kmと思っていたが、なんと残り7kmと告げられた。そのときのショックは大変なものでいっぺんに力が抜けてしまった。急に走る気がなくなりとぼとぼと歩いた。

2kmほど歩いて、今度こそ本当に残り5kmになったところで、なんとか走りだした。松原スポーツ公園に向かう舗装路を、歩くのと変わらないスピードでよたよたと走った。

息子よ、見ていろ(見れないけど)。男の意地はこうやって見せるのだ。

Power Sportsの黄色い旗が見え、橋を渡り、ゴールが見えてきた。

完走できる。そのよろこびで体中が満たされた。