マニピュレーターとは何ぞや! | 音鳴るトコへ

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サウンドクリエイター 篠崎恭一の日常を徒然と。

最近、「マニピュレーターってどんな仕事?」って聞かれることが、また増えてきた。
いい機会なのでじっくり説明しまっす!

一言にマニピュレーターと言っても、いろんな仕事をする人がいるんだけど、
僕らがやってるのは、主に「ライヴにおける同期音源とクリックの管理」がメインです。

まず同期音源に関して。
これは発売されてる音源には入っているけど、生演奏だけでは再現できない、もしくは足りない音です。
「半オケ」とか「シーケンス」とか呼ばれたりもします。

ライヴのサポートメンバーとなると、
多いのがギター・ベース・キーボード・ドラムという編成。
でもこれだけじゃ再現できない曲が沢山ある。
例えば、ストリングスやパーカッション、大編成のコーラスやシンセ。
効果音やリバースシンバルなんかが入ってる曲もありますね。
これらを、あらかじめ作られた素材を元に、メンバーに同期音源に合わせて演奏してもらうのです。

そう、あらかじめ作られた(録音された)ものに合わせて、ミュージシャンに演奏してもらうのです!
当然、ただ垂れ流しても綺麗に合わせて演奏はできないので、合わせて演奏してもらうために「クリック」というテンポの基準になる音を作ります。
簡単に言えばメトロノームのようなもの。

これもミュージシャンによって好みがあるので、演奏者の好みにあったものを作ります。
例えば、カウベルの音がいいとか、ドラムのスティックカウントの音がいいとか、「ピッポッポ」という電子音がいいとか。
さらに小節頭にアクセントをつけるか、一定なのか。
「カッカッカッカッ」と四分音符がいいのか、「カツカツカツカツ」と八分音符がいいのか。
八分なら、四分音符と八分音符の音量差は?
場合によってはずっと四分音符なんだけど、間奏だけ八分音符とか。
ミュージシャンにはこちらに合わせて演奏していただくので、ミュージシャンが演奏しやすいクリックを作ることも大切な仕事です。



さて、同期音源の話に戻ります。
これはメーカーさんやレコード会社さんから受け取る場合もあれば、自分たちで作る場合もあります。
受け取る場合でも作る場合でも、当然1曲1曲音量差があるので、その音量差を調整します。
その上で、CDの音と聴き比べて、なるべく近いバランスになるように、楽器の音量を調整して行きます。
さらに、いただいた音源はCDで使っている音の場合が多いので、
場合によってはそのままライヴで使うと、音質的に問題がある場合もあるので(特定の周波数が多い etc...)、そこは細かく聴いて調整していきます。

そこまでやった上でリハーサルに望みます。
リハーサルで初めて生楽器の演奏と合わせてみて、さらに音量や音質を調節します。
さらに、リハーサルで楽曲自体のアレンジや長さ、キーやテンポが変わることもあるので、それにも対応します。もちろん、ミュージシャンはリハーサルで初めてマニピュレーターが用意したクリックを聴くので、当然クリックに関するお願いが来るので、それらにも対応します。

さらにCDの音に近づけて音量や音質を調整してますが、
それらをリハーサルで生の演奏と合わせると、違和感(音が小さい、音質的に抜けてこない etc...)が出る場合もあるので、それも解消するように調整します。

そして、同期音源に合わせて演奏してもらう上で大切なのがプリカウント。
ミュージシャンは同期音源の音が出た瞬間に演奏を始めることはできないので、
あらかじめクリックを聴くミュージシャンに、曲が始まる前に1小節か2小節のクリックを聴いてもらって、曲の始まりぴったりに演奏を始められるようにするんです。
ただ、メンバー全員がクリックを聴いている場合は1小節でもいいんですが、
全員がクリックを聴いていない場合(こちらの方が多い)は、
ドラマーに1小節か2小節クリックを聞いてもらって、その次に、クリックを聞いていないメンバーが合わせるために、
ドラマーから別のメンバーにカウントを叩いてもらって、曲がスタートとなるわけです。それがプリカウント。
なので場合によっては、同期音源をスタートさせてから数小節後に曲がスタートとなるわけですね。



さて、無事にリハーサルを乗り切ったら当日です!!!
まず会場によって響き方が違い、聴こえかた違ってくるので、会場に合わせて微調整。
ここはほんとに「微」調整。
ここで大幅に手を加えると、せっかくリハーサルで作ってきたものが崩れかねないので。
その辺りは、アーティストやPAさんと相談して決める場合もあります。

さて、本番!!!
本番は何もトラブルが起きなければ、同期音源をスタートさせるだけです。
アーティストによってですが、同期音源を使わない曲もあったりするので、本番中は同期音源を使う曲になるのを、静かに(僕は静かではないですが)待ちます!

さぁ、同期音源を使う曲になったら、同期音源をスタート!

で・す・が!

先ほども書いたように、同期音源に合わせて演奏してもらう場合はプリカウントがある場合が多いのです。
そう、同期音源をスタートさせてから、実際に曲が始まるまでにタイムラグがあるのです。

例えば、MC明けで曲のタイトルを言って演奏スタートの場合。
仮にLOVE PHANTOMだった場合(笑)
「それじゃあ次の曲聴いてください、LOVE PHANTOM!」(稲葉さんは絶対言わない言い回しだけどw)と言った場合、LOVE PHANTOMと全部聞いてから同期音源をスタートさせたら、
演奏が始まるまで、全く音がない時間ができちゃうわけです。
そこで歓声が上がればいいんですが、本当に無音になったら気まずいことこの上ありません。ファンの方々のテンションもガタ落ちです。
なので、あらかじめそのタイムラグを先読みして、LOVE PHANTOMだったら「ファントム」の「ファ」のあたりで同期音源をスタートさせたりするのです。

ところがこれまた一筋縄ではいかない。
当然曲によってテンポが違うので、先読みする時間も違うわけです。
プリカウントが2小節あるbpm60の曲だったら(滅多にないですがw)、同期音源をスタートさせてから演奏が始まるまで実に8秒先読みするのです!

しかし、先読みすればいいというものでもない!
前後の曲に流れや、その日のファンの方々のテンションなどを踏まえて、微妙にスタートさせるタイミングを変えて、一番気持ちいいタイミングで曲が始まるように、場合によっては意図的に無音の時間を作ったりします。
さらにさらに、演出や楽器の持ち替えなども考慮して、スタートさせるタイミングを決めるのです。



でもこれはまったくトラブルがなかった場合。
トラブルが起こることだってたまにはあります!
よくあるのが同期音源と生演奏がずれちゃった。
そうしたら同期音源を生演奏の方に合わせます!
その他にも、本番では驚くようなトラブルが起こることもあります。例をあげたらキリがありません。
僕のまだ短いマニピュレーター歴の中でも、いろんなトラブルを経験しました。
それらにも瞬時に適切な対応を判断して、
できる限りの対処をするのです。

結果として、マニピュレーターはファンの方々の耳に届く音に直接影響しているので、
現場によってはスタッフではなく、サポートミュージシャンと同等の扱いを受ける場合もあります。
なにぶん、この仕事が成り立つようになってからまだ日が浅いので(おそらく、20年もたってない?)、まだまだデフォルトが固まってない仕事なのです!
だからこそ決まったやり方がないので、自分たちで新しいやり方を開発していける面白い仕事なんです!
そして、地味に見えてとってもクリエイティヴな仕事なのです!!!



「マニピュレーターって何だろう?」って思っていた方、もちろん知らなかった方にも。
ちょっとは理解していただけたらありがたいです♪