少年が、駆けていた。
「なんで……!なんで僕が、こんな目に!」
駆ける、駆ける、駆ける。
その顔には恐怖が浮かんでいた。
「シロボシくん、だっけ?」
少女の声。少年は驚愕する。
彼を恐怖に陥れた存在。
先ほどまで彼女は後方にいたはずだった。だが少女は今、確かに目の前にいる。
「アハハ☆もっと、もっとあそぼう!」
少女が笑い、手に持つ鎌……鎌のようなソレをこちらに向ける。
「……!」
少年はーーー灰崎 白星は元来た道へと走り出す。
「そうそう、そうやってぇそうやってぇ……そうやって逃げて!もっと!もっと、あそぼう!」
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白星の外見は、普通とは言い難かった。
肩下辺りまで伸びた、ボサボサの髪。つい先刻まではポニーテールに結わえていたはずだが、必死に走っているうちに解けてしまっていたらしい。
その髪の色は、白銀であった。
「はぁ……はぁ……。」
荒い息。
彼はいま、クラスメイトや友達や、弟のことを思い起こしていた。
走馬灯、だろうか。
「まだ……まだ、死にたくない。」
頭痛。またか。
彼も、彼の弟も抱える問題だった。
それは、過去を、自分たち兄弟の幼少期を思い出そうとすると起こるものだった。
「あっ……!」
頭痛に気を取られ、躓く。
派手に地面にダイブすることになってしまった。
まずい。まずい!
急いで身を起こそうとする。
「ねぇ、シロボシくん?」
……。
「シロボシくんは、楽しかったぁ?」
ーーー人は、人は。
「アタシはたのしかったよ!アハッ☆」
人は、本当の恐怖や絶望に立ち会ったとき言葉を、思考を失うという。
自分の耳元で聞こえる少女の声に、彼は。
「じゃあね、バイバイ!」
人。人、血。人血人。
血。血、血。血血血。
肉。肉、肉。肉肉肉。
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