大事なお客様がまた一人亡くなった。前田さんはフランクに話しかけてくる大柄な落語好きおじさんというイメージだったが、信州に引っ越したのをきっかけに私の信州の独演会でスタッフとして働いてくれるようになった。落語通のスタッフさんが少ない中で、落語会の運営とはこういうものだとみんなに説いてくれるような面があったので私もずいぶん助けられたしかなり頼りにしてた。


 つい先日の4月の会でも手伝いに来てくれて「ちょっと痩せたね」「うん、ダイエット。正ちゃんも少し痩せた方がいいよ」なんて会話してた。あれはダイエットではなかったみたいで、しっかり病魔が前田さんの体に侵食してたみたい。その前に足の手術をしたと聞いていたのでいつもに比べると疲れてそうだったからみんなで力仕事はやらなくていいよなんて言ってたんだけど違ったんだね。


 いつもと同じように今度の7月の会も手伝いに来てくれるものだと思ってたら「改めてお会いできることはないと思います。お世話になりました」なんてメールが突然来て驚いたのなんの。訊いたら病院行ったらもう末期と告知されたとの事だった。「死んじゃダメだよ。まだ恩返しもままならぬうちに」って送ったら「頑張るから。師匠は名人目指してね。頼むよ」って送ってきてくれて「ありがとう」というのが最期のメールだった。いつも割と僕のことを「正ちゃん」って呼んでたのに最後は「師匠」だったね。「ありがとう」って言ってフッといなくなっちゃうなんてカッコ良すぎるよ。


 それにしても早すぎるって。いつも体大事にしてよって言ってたでしょ?また宿で遅くまで飲もうよ。そのうちに畳の上で大いびきかいて寝てるあの姿に今だから言うけど「あー僕のためにいつも一生懸命になってくれてありがとうね」って感謝してたのよ。僕の名前の入った法被、前田さんわざわざ自分用に一枚作ったじゃない?あれどうすんの?向こうに持って行く気?じゃあまたそれ着てこっちに手伝いに来てよ。そっちの柳枝後援会、いつものバイタリティでとりあえずまとめておいて。そっちの支部の新規会員はしばらく募集しないでいいからね。


 いつまでもクヨクヨしてたら怒られそうだからもうしないよ。そちらから見守ってて下さい。前田さんとの約束を守れるように頑張ります。本当にありがとうございました。ゆっくりお休みください。

合掌


柳枝