色とりどりの飾り。
雪の聖夜だと喜ぶ声の陰で。


私は泣いていた。


雪は綺麗なんかじゃない。


冷たくて、痛くて、全てを埋め尽くしてしまう。
どんなに逃れようとも、凍える寒さはどこまでも追いかけてくる。


私を抱えて寒さから守ろうとしたお母さんは。


朝には冷たくなって、もう動かなかった。
お母さんにしがみついていたきょうだいも。


ただ、お母さんの胸だけが、ほんのり温かかった。


私は独りぼっちだった。
寒くて暗い空の下、白い夜に。


人々の幸せな声も。
口々にその名を呼ぶ『神様』も。


私には遠い、温かいものなんだろう。


こんな夜にも星がある。
むしろ、いつもよりギラギラと私を見下ろしている。


お母さんやきょうだいのように、私もこのまま寒さと空腹で死んでしまうのかな。
それを楽しみに待っている目、目、目…


寂しくて怖くて。
涙で星が霞んだ。


「…おい、お前どうしたんだよ。
独りぼっちか?」


空を遮るように私を覆う声。


空の星より、瞬く飾りより。
煌めくエメラルドグリーンが私を見つめていた。


真昼のお日様みたいにキラキラと。
灯りを背に金色の髪が輝いていた。


誰だろう、この人は。


「そいつら…そうか」


その人はお母さん達を認めると、全てを察したみたいだった。


「辛かっただろ?」


そう言うと、私の頭を撫でる。


逃げた方がいいのかも知れない。
一瞬そう思ったけれど。


その手は暖かくて、心地よくて。


迎えに来てくれたのかな?なんて思ったから。
私はその手から逃げなかった。


大きな手が、私をそっと持ち上げる。


「お前ガリガリだな。
いいぜ、ナギ兄に旨いもん作ってもらおうぜ!」


その人は笑う。
大きな両手に包まれて、上着の胸元に優しく仕舞われると。


あったかい。
この人の胸はあったかくて。


思いもしなかった温もりに、もう大丈夫なのだと目を閉じた。


「お前が元気になるよう、俺が面倒見てやるから心配すんな!
ぜってー船長のこと、説得するから」


見上げると、星より綺麗なエメラルドの瞳とぶつかった。


「…にゃあ」


「お、一丁前に返事なんかしやがって」


嬉しそうに笑うと、服の上から私を支えて勢いよく走り出す。


聖夜のイルミネーションも、行き交う人々も。
目の前を流れるように過ぎて行く。


「こんな夜はお前だって、幸せな気分になっていいんだよ!」


そう言って風のように走り抜ける。
ヒゲが海風を受けて、ヒクヒクと蠢く。


「あれがシリウス号だ。
今夜はお前も一緒にいようぜ!」


初めて見る巨大な船と、窓から洩れるオレンジ色の灯り。
初めて触れる人の温もりは、心にまで染み込んだ。


「人任せにするなよ、ハヤテ。
お前が拾った猫なんだからな」


この人の襟の合わせ目から顔を出す私のおでこを、チョンとつついて微笑む船長に。


「猫のメシは自分で用意しろ。
面倒見るって言ったのお前だろ?」


そう言いながらあったかいミルクをくれたのは、この人のきょうだい…かな。


「拭いたらホラ、こんなに綺麗な毛並みですよ!
キミは美人だねえ」


汚れを落としてくれる、少年の手も優しい。


「猫に美人って何だ、トワ。
おかしな事を言う奴だ」


冷たい声で片目の人が言うけれど、怒ってる訳じゃない。


「健康状態は…悪くないね。
おいしいものをたくさん食べて、大きくなろうね」


私の体のあちこちを確かめて、優しく笑う人からは草みたいな…ちょっと苦手な匂いがする。


「ホラ、みんな大歓迎だろ!?」


私を拾った、太陽みたいな人が高く高く私を抱き上げる。


「お前もシリウスの仲間だぞ!」


私より誰より。
私の居場所が見つかった事を喜んで。


「にゃ~」


しか言えない私だけど。
あなたが見つけてくれて、本当によかったと思う。


雪の中から拾い上げて、あなたは私に命をくれた。


人が寄り添って、幸せに過ごすこの夜に。
仔猫の私にも奇跡が舞い降りた―――