日本では今日からゴールデン・ウィークに入られたという人も少なくないだろう。学生の時分は夏休みが2ヶ月、春休みが2ヶ月ほどあったものだから、新入社員で初めてゴールデン・ウィークを迎えた時は「ゴールデン・ウィーク」が「ゴールデン」であるゆえんがよくわかった。考えてみれば社会人にとって1年間で最も長く休みとなるのはゴールデン・ウィークなのである。当時のブログを読んでみると、「ゴールデン・ウィークは本当にゴールデンだ!」と書いてあったくらいだから、よっぽどこの連休が嬉しかったのだろう。

ちなみに、「ゴールデン・ウィーク」という呼び方は映画業界に由来する。「ゴールデン・ウィーク」という呼び方は人口に膾炙しているが、特定企業や特定業界の宣伝を避けるという発想からか、NHKのニュースでは今でも「大型連休」という呼び方を続けている。(何しろ山口百恵の『プレイバックPart 2』の中の「ポルシェ」の歌詞を「クルマ」と置き換えさせたくらいであるからうなずける)。

日系企業であってもサウジアラビアでは当然ゴールデン・ウィークなどなく、FBなどで日本にいる友人たちの休日のつぶやきを横目に通常通り仕事をしている。サウジアラビアではラマダン明けのイードル・フィトルと呼ばれる連休(5日間)、ハッジ明けのイードル・アドハー(5日間)と呼ばれる連休と建国記念日以外の祝祭日は存在しない。ちなみに建国記念日以外はヒジュラ暦で考えられるため、グレゴリオ暦上は毎年ラマダン明けとハッジ明けの連休を日本のお盆としお正月になぞらえてしまうと、祝日は建国記念日のわずか1日だけである。他のイスラム教国がムハンマドの誕生日を祝日にしていたり、立憲君主国が君主の誕生日を祝日にしていることを考えると祝日が極端に少ないという印象を受ける。ちなみにムハンマドや国王の誕生日をわざわざ祝日にしないのは、「偶像崇拝の禁止」という事情があるためだ。

先日、サウジアラビアの祝祭日の少なさについてふれたつぶやきをしたところ、「日本では山の日ができる」というコメントをいただいた。ジョークかと思いきや国会で可決されたとのことだから驚いた。「海の日」があるなら「山の日」もということなのだろう。はっきり言ってしまえばバカバカしいの一言に尽きる。「山の日」があることそのものを否定するつもりはないが、わざわざ祝日にする必要があるのだろうか?わざわざ「山の日」を祝日にするくらいならば、いっそのこと「空の日」や「川の日」まで祝日にしてしまってはどうだろうかと思う。

日本の祝祭日はサウジと比べるとずいぶん多いのであるが、このことはすなわち「国民意識」を強化したいことの表れのように思えてならない。昨年の同じ時期に「記念日をきまじめに」と題したブログでもふれたとおり、国民国家における「記念日」とは「国民」の思い出、すなわち「歴史」の共有であり、「国民」の絆、すなわち「国民意識」の強化を目的としている。大型連休というものを単なる「休日の連鎖」と捉えるのではなく、日本という「国民国家」の「記念日」の連鎖という観点できまじめに考えてみると、この期間には「国民国家」による「歴史」を考え、「国民意識」を呼び覚まされるのである。「山の日」というものもまた、国土の73%を山地が占めていることに起因し、ここから「山地国家」であるという「国民意識」を呼び覚まそうということであろう。

加えてこんなにも休日が多いのは、実は政財界が「祝日全体主義」とでも揶揄すべき状況を作りたいがゆえではないかと思うのである。休日を数多く作ることで国民の大多数が同じタイミングで財・サービスを消費することとなる。この大多数が消費するタイミングに合わせて企業は財・サービスを効率的に供給するといった具合である。従業員に連休をしっかりと休んでもらう一方で、連休に提供される財・サービスを計画的かつ効率的に生産するために有給休暇を取り辛い同調圧力をあえて作り出しているのではないだろうか?

みんなが同じ時期に休みを取り、みんなが同じような休日の過ごし方をして、みんなが渋滞に巻き込まれる。そして休日が終わると、みんなが同じ時間に出勤し、みんなが同じ時間に昼食をとり、みんなが同じ時間に勤務し、みんなが同じ時間に帰宅する。平日も休日もみんな同じようなストレスを分かち合う…。一体休日の意味があるのだろうかと思う。

日本は休日が多い一方で、休暇を取りにくい国ではないかと思う。一般的に海外の会社と比べると長期の休暇という制度が保障されているとは言い難いし、意思決定の「権限移譲」がきちんと制度化されている会社は少ないのではないだろうか?私は海外での勤務経験は現在のサウジアラビアしかないのだが、長期の休暇という制度がきちんと確立しており、休暇を取った場合の「権限移譲」と「代行者」というものが明確に定められている。個人が個人の都合で自由に休暇を取り、休暇は休暇としてきちんと心も体も休めることができる。わけのわからない祝日を増やすのではなく、個人個人が取りたい時に休暇が取れる制度を構築する方がはるかに意味のあることのように思う。

ちなみに今回制定された「山の日」は8月11日なのだという。これで祝日のない月は6月だけとなる。たしかドラえもんののび太が最も嫌いな月が6月であったはずだ。理由は日曜日以外の休日がないためであった。きっと近い将来、「6月に祝日がないから」という理由で祝日が制定されるだろう。「祝日全体主義」的な雰囲気のある国であるから冗談では終わらない。