「おあっ!?」「兎に角…早く逃げ…」
「いやダメだ!…階段を駆け下りている最中に全員潰される!」
「じゃぁ一体…どうすれば…!」
「くっ…」
騒ぐ皆。
しかし、為す術もない。
ただただ、慌てふためくのみ。
それでも、この基地は揺れる。
徐々に、揺れは大きくなる。
外壁が崩れるような音も響く。
足場が大きく揺れ…
足元が、覚束無い。
考えろ。
考えるんだ。
どうしたらいい…!?
今この場にあるのは、4つの軍ほぼ全員の力…
そしてその皆の技…
それ等を使って、この基地から…
…せめて、地上階まで降りられれば…!
さて、どうする…
一体、どうすればいい…!?
…しかし、幸いなのはこの基地の形状…
自分達二次白軍のような基地の形なら、空まで届くような高い塔。
鋭い円錐型で、縦に細く長い。
あの形状でこんな爆発が起き、基地が崩れ始めたら…それこそもう直ぐに、基地は不安定になり…瞬く間に基地はぺしゃんこだ。
それに比べれば、この基地はまだフロア面積がかなり広く、同じ面積のフロアが7階まで続く、円柱型…
そして何と言っても特徴的な、フロア中心部の大きな空間…
まるでショッピングモールにあるような…
…うん?
…そうか…
「これだ!!!」
「えっ…?」
叫んだ俺に、周囲は声を漏らす。
「これなら、此処から逃げ出せる!!!」
「何っ?」
セフトが呟いた。
そこに、リバース様が言う。
「…説明している暇はないのだろう?…ラッシュ。今は他に策は無い。君の好きにやってみよ。皆も協力してくれ。」
「…あ、あぁ…」
「よし。」
リバース様に答え、周囲の皆は唖然としながらも賛同する。
悩んでいる暇はない。
…やるぞ。
「…やるぞ…!」
叫ぶ。
「…ハンマーさん!」
「は、はい!?」
急に呼ばれて素っ頓狂な声を出す、ハンマーさん。
しかし、気にしていられない。
「この基地の中心部から、1階フロアに向けて、全力でグランドバリアを放ってくれ!」
「こ、この基地の中心部から…わ、分かった!」
「ザイディンさん!」
「…分かっている。」
走るハンマーさん。
それに合わせ、高い手摺を越えられるように、鉄の立方体が小さい階段を作る。
「おおおおお…!!!」
強く武器を握る、ハンマーさん。
鉄の立方体の上を駆け…
「グランドバリアー!!!」
1階フロアの中心を目掛けて、武器を投げる。
その直後。
「うわあぁっ!」
走りを抑え切れず、ハンマーさんがフロア中心部に飛び込んでしまう。
そこを…
「…おぉっと…」
「…た、助かったー…」
ディヴィラルのバインディングレイディエイションがハンマーさんを縛り、救う。
それとほぼ同時に、1階の方から轟音がする。
「…どうだ…?」
下の方を覗き込むと、1階フロアの中心部が強く広く円形に抉れ、その周囲の地面が大きく盛り上がり、円柱型の箱の様になっている。
盛り上がってできたその壁面は、高さが疎らで所々が尖っている。
想定通りだ。
「…よし、そしたらこのグランドバリアの壁面上部に、外側から満遍なく剣と槍を突き刺すぞ…!…剣や槍を持っている皆、頼む…!」
「「「おぉ…!」」」
走る戦士達。
それに合わせ、ザイディンさんの鉄の立方体が更に召喚される。
それを各々駆け上がり、フロア中心部の空間の手前で留まって剣と槍を投げ込む…!
俺も含め、イクスサンダー、そのまんまさん、リフィーネさん、ヴルン、リメア、ディルファーツ、ゼンディックス、フェス、スカイカット、シュラ、ファイ、トリナッツァチ、アズラク。
剣と槍がほぼ均等な間隔で、グランドバリアの壁面を少し高くするように刺さる。
「よし!…此処に、オースィー!…スポンジボールを大量に蹴り込んでくれ!…できれば、大きめのやつだ!」
「…お、おぉ…な、何でスポンジボールの事を…?…いや、任せろ!」
ハンマーさん同様に走るオースィー。
ザイディンさんの召喚した鉄の立方体を駆け上がり…
最後の鉄の立方体を強く蹴って跳ぶ。
そして身体を大きく回転させ…足を大きく引き…
巨大なスポンジボールを召喚する。
それも連続して何個も。
それ等を真下に向けて、一気に連発させる…!
「スポンジボール!!!」
フロア中心部に飛び込むオースィー。
此方もまた、ハンマーさん同様にディヴィラルのバインディングレイディエイションでオースィーを救う。
ハンマーさんの作ったグランドバリアが、大量のスポンジボールで埋め尽くされる。
「よし!最後だ!…此処に、リメア!…巨大な網を放って張ってくれ!…さっき投げた剣や槍の持ち手部分が、その網の支点になる!…できれば、細かめの網目だと良い!」
「了解した。」
中心部近くにいたリメアは直ぐに動き、1階フロアに向かって網を放つ…!
網の端の方は、幾つもの剣や槍の持ち手に引っかかり…
グランドバリアとスポンジボールを大きくカバーするように、巨大な網が張られた。
…よし、完璧だ。
「これで、擬似的な救助マットの完成だ…!…全員、此処に飛び降りるんだ!!!」
「「「お、おぉ…!!!」」」
走る戦士達。
フロア中心部へ、次々に飛び込んでいく戦士達。
大きく崩れる足場。
…よし。
…これで、何とかなれば…!
落ちる。
落ちていく。
7階もの高度を、凄い速度で落ちていく。
落下による風が、身体の下から上に向けて、強く身体中を撫でる。
凄まじい勢いだ。
…そこに、一言。
「…やりましたね。ラッシュ。」
「リバース様…!」
すぐ隣を、一緒にリバース様が落ちている。
しかも、シェダルの四肢を抱えながら。
「…ふっ」
リバース様は、此方に向かって微笑んだ。
それに対し、俺も直ぐに微笑み返す。
そしてそのまま…
…落ちる。
ぐんぐん落ちる。
そして…
遂に地上に到達する…!!!
「うっ…!!!」
…突発的とはいえ、流石の弾力だ。
まるでトランポリンのような、擬似的な救助マット。
この高さからの落下の衝撃を吸収し、戦士達全員を受け止めた。
成功だ。
「ふぅ…」
何とか…助かった。
…生きている。
「…すげぇぜ、ラッシュ。」
「あぁ、本当に驚いたぜ。」
ふと、その声の方を見ると、セフトが歯を見せて笑っている。
隣には、イクスサンダーが微笑んでいた。
その2人に、俺は元気に言葉を返す。
「…まぁな!」
微笑み合う俺達。
…だが、しかし。
「…!!!」
「やばい!!!」
…恐れていた事態が…
上の方を見ると、崩れた基地の瓦礫が大量に落下してくる。
かなりの量だ。
これだけの爆発を起こしてしまっては無理もない。
地上階まで降りられたとは言っても…
このまま瓦礫が落ちてきては…かなりの外傷を追う事は間違いない。
下手したら、死に至る。
危ない…!!!
反射的に、眼を瞑ってしまう。
…しかし…
瓦礫は1つたりとも、この巨大な網の上に落ちて来ない。
瓦礫が落ちて衝突しているような音は響いているのに…
「…うん?」
…一体、何故?
…恐る恐る、眼を開く。
すると…
「なっ…!?」
「お前達…!」
最上階から落下した、俺達4軍全員を囲むように、半球状の巨大な結界ができている。
その結界が瓦礫を阻み、俺達を守っているようだ。
「…くっ…此処で…」
「…お前達を守らねば…」
「…ラッシュの言っていた…コノヤロ。」
「…『虹色に染まる夢』ってのは…」
「…描き出せねぇからな…!」
カフ、ツィー、セギン、ルクバー、そしてアキルド。
…5人のカシオペヤのメンバーが、結界を生み出していた。
…全員、血塗れのまま…
…各々に残った、星の力で。
「…お前達…」
結界内部で、カシオペヤのメンバーを眺める。
瓦礫は止めどなく、落下を繰り返す。
「…ありがとう。」
「…ふっ」
笑ったのは、ツィーだ。
「…礼を言うのはこっちの方だ。目が覚めたぜ。…まさかお前の志が、こんなにも強いとはな。…びっくりしたぜ。」
そう告げる、ツィー。
そして…
「ありがとな。ラッシュ。」
「…ふっ…」
上部に向けて手を伸ばしながら、ツィーは言った。
外傷は酷いが…その容貌とは違った、穢れのない微笑みを見せている。
その顔には、汗が浮かんでいる。
本当に、最後に残った力を振り絞っているのが、窺えた。
…軈て、瓦礫は落下し尽くし、基地の崩壊は落ち着いた。
同時に、カシオペヤのメンバーによる結界も解け…俺達はやっと開放されたのだ。
「ふぅ…」
…微かに、音が鳴る。
…スマホの着信音だ。
やはり、それはNo.017のスマホだった。
「…もしもし?…あぁ、うん、全員無事!…二次白軍のラッシュ君が凄くってねー…!」
元気良くそう話すNo.017。
彼女のウインクが、俺に向けられる。
「いやー、さっきの狙撃…本当に助かったよ!…ありがとね!」
電話口に向けて、そう続けて話すNo.017。
グランドバリアの端に腰を据え、彼女は座り込む。
…ふと。
「…ん?」
俺の肩に触れる手。
「ラッシュ。」
「外、行くぞ。」
振り向くと、セフトとイクスサンダーの微笑みが、そこにはあった。
とても優しい微笑みだ。
…そしてそれに視線を向け、俺もはっきりと…
一言を返す。
「…あぁ…!」
続く。