「観察」  の続き



■面接


双極性障害の部類ではないかと思う人がいたら、例えば「わぁ、遠くから来られたのね。たいへんだったでしょう」とかいうようなことを言うの。情緒的なコミュニケーションを投げるわけ。そしたら「いやもう、道に迷いましてね」とかいうような応答が出てきたら、もうマルですね。これでだいたい診断は決まる。まだ、主訴も何も聞かないんですよ。聞かないけど、情緒的な因子で、これは双極性障害の範疇だと思う。それから主訴を聞いたりなんかします。


で、大抵は、うつで病院に来るんだけど、あるいは少し乱暴になったとかいうようなことで家族が連れてくるんだけど、双極性障害の範疇だと思ったら、次の2つを必ずやってください。


1つは「ひょっとしたら、あなたはもともと波がある体質かもしれない」と言う。「そういう躁うつ体質というのがあるんだ」と言う。で、「それはだいたい中学から高校の頃には自分でわかっているから、振り返ってみて、中学、高校の頃に好調の時期、不調の時期というのがありませんでしたか?」ということを聞いてください。これでだいたい6~7割りぐらいは、本人の自覚が得られます。それが1つ。


それから、躁うつ病は遺伝かどうか、まだはっきりしていないらしいですが、私はやっぱり遺伝だろうと思うんです。私はいい加減だから、「これは体質だから、遺伝です」と言い切るの。で、「あなたはこの体質を、お父さんの側から受け継いだか、お母さんの側から受け継いだか、どちらかだ。どっちかの方に、あなたと同じような波のある人がいるんじゃないかと思うけど」と言ってみるんです。これもまあ結構、いい線いきます。まあ6割ぐらいですかね。


で、その2つが合致すれば、主訴なんかはもう何でもいいんです。主訴は何であれ、強迫症状であれ、双極性障害を基盤にした何とかかんとかです。双極性障害を基盤にしたパラノイア、あるいは強迫、あるいは非行、あるいは家庭内暴力、不登校、何でもあります。過食、食べ吐き、リストカットもそうです。そしてまず、気分安定化薬を使うんです。


ところが近ごろこまるのは、バージン・ケースではない人がいっぱい来るの。インターネットで誰かが推奨するもんだから、私のところにいっぱい来るんです。バージン・ケースではない人がね。そういう人はほとんど双極性障害ですが、それらの人は、ほとんど次のような病歴です。これを覚えておいてください。


これは悲惨な治療経過の典型的な流れです。はじめ、うつ病とか、神経症の症状で、精神科に行きます。そして抗うつ剤や抗不安薬を投与されて、一生懸命に診療されます。


なぜ一生懸命、診療されるのか。患者さんがお医者さんに合わすタイプの人だもんだから、ついつい先生も情が移って熱心に治療するようになる。「こうしてごらん」と言えばちゃんとしてくるし、した結果を先生にフィードバックする。行動療法では、普通は先生が患者にフィードバックする。そうじゃなくて患者が、先生にフィードバックをちゃんとするものだから、先生の診療行為に報酬が与えられて、熱心な診療行為が行動療法的に強化されて(会場笑)、そしてだんだん、だんだん患者が訳がわからんようになる。


そしてこれを覚えておいてください。突発的に不安が起こるようになりますと、不安時に飲むようにマイナートランキライザーが出されます。出されますと、まず1年以内に手首を切るようになります。手首を切ったり、薬をがばっと飲んで救急車で運ばれたり、物品を壊したりするようになります。


そうするとそこで診断名が。それまで1年、2年そうじゃなかったのに、3年目か4年目くらいに「この人は人格障害を基盤にした神経症だ」という診断が確立するんです。もうそういう人ばっかりが、私のところに来るんです。


なんでこんなにうまく人格障害になるんだろうと思いますが、それはほとんどの精神科医が、患者さんの一生懸命すがってくるという行動によって、操作されている。患者が意図的に操作しているわけではないんだけれど、行動療法的に巻き込まれて、そうなってしまうんです。



(つづく)







◎ この一連の記事はすべて神田橋先生の了承を得て載せています。