ここからは、講演に引き続き行われた「臨床医の質問に答える」コーナーに入ります。



1)躁状態での精神療法について接し方のコツがあればぜひご指導頂きたいと思います。


これはだいたいもう言いましたが、ともかく不自由感が悪いということ。それから躁状態は一見楽しいようでも必ず苦しいですから、「衝動が突き上げてきて、じっとしておれなくて、くたびれるね」とか、「楽じゃないね」とか、「大変ね」とかいうような言葉は入ることがありますから、それを言ってください。

「だから、あなたは病気よ」とか「躁状態がひどいね」とか言ったらだめです。「もう忙しくて大変だね」とか「休む暇がないね」とかいうようなのから入るようにしましょう。


はい、次。


2)精神科医も躁患者も、自分が一番正しく力があると思う人種のようです。この為か、しばしば「どっちが上か」の力くらべや覇権争いのようになります。精神科医自身の万能感の自覚が第一ですが、他に何かうまく治療関係を成立させるコツがあればご教示ください。


これは面白いね。「自分が一番正しく力があると思う人種のようです」。必ずしもそうではないんです。困っている人を支えてあげようと思うと、努力して自分に力があるように自己暗示をかけなきゃ、やってられんのです。だけど、そうなると精神科医は大変ですよ。生物学的に躁状態になっているのはまだいいけれど、努力で躁状態にしていたら大変です。だから万能感の自覚なんかせんで、早くめげるといいです。


忙しい精神科医は、患者さんに愚痴を言って慰めてもらう。これをやってください。愚痴を言うことは、燃え尽き症候群を防ぐコツであり、かつよい診療、上下関係ではない相互扶助的診療、より自然な人間関係の方へ、自分の診療態度を変えていくコツです。


精神療法のそもそもの発端は愚痴を言うことです。井戸端会議みたいなのが精神療法の原点です。集団精神療法。言っているのはたいてい愚痴。「うちの亭主がなんとか」と愚痴を言って、「そうよ、あなたの亭主は馬鹿よ」とか言われたら怒る。「いい人よ」とか「そんな思わんで」とか言ってあげると、自分で「あの馬鹿亭主」とか言うたくせに、ニコニコして、いいです。



次、行きましょう。


3)再発を繰り返す方に病識を持ってもらうにはどういうアドバイスが適切でしょうか。


「これは体質だ」と言うこと。それから「遺伝である」と言うこと。「あなたは、おじいさんの血筋を受けてんだなぁ」とか言う。そうすると、ここに何が生じるかと言うと、自分と先祖との絆、血筋の絆。絆っていいのよ。「ああ、おじいさんの血を受け継いだんだなぁ」となる。


そして誉めるの。「おじいさんはこんなにして成功された。あなたも同じような可能性がある」と言うて、誉める。誉めたからといって、病識になるかどうかはわからんけど、「ああ、そうなんだなぁ」と、「やっぱり波があるんだなぁ」と思う。


誉められたことは、みんな受け入れるから、誉めといて「だからこうしたらいいのよ」と言う。行き過ぎたときには薬を飲む。そして「波のある資質が生かされるような生き方をすれば、だんだん波が小さくなるからね」と言うて、「それを探しましょう」というふうにする。


自分の脳に波があって、そして外向的になることが向いている、自分の脳の資質を活かした人生をいかに作っていくか、ということを話すことが、これによって、病識かどうか知らんけど、病識よりもっと先の養生法ができてきます



(つづく)









◎ この一連の記事はすべて神田橋先生の了承を得て載せています。