「臨床医からの質問 ④」  の続き




10)最近、古典的‘うつ病’は減って昔は‘神経症性うつ病’としていたいわゆる‘擬態うつ病’(文芸春秋2004年8月号)が増えているように思われる。‘うつ’表現の神経症が増えたのか、それとも昔から日本人は‘うつ的’だったのか。



これは面白い。‘擬態うつ病’という言葉があるんですね。私は知りません。


「昔から日本人はうつ的だった」というのは、前からよく言われています。うつ的な人は、日本ではだいたい人間としての評価が高いですよね。軽躁的な人は「おっちょこちょい」とか、あまりよく言われないですけれど。だから日本人はうつ的なものが多いし、それが、価値が高く言われていたのは昔からそうだと思います。


S氏(F病院)  神田橋さん、‘擬態うつ病’というのは、文芸春秋に書いた人の作った言葉で、先生が言った、要するに人格障害みたいになっちゃってる例が増えているよということで、人格障害が増えてるのに、うつ病と言っちゃうから問題があるんじゃないかという話なんです。だけど先生の話だと、もともと躁うつ病なのに、人格障害だと言っちゃうからまずいということだから。


神田橋   そうですね。私は世の中が窮屈になってると思うんです。窮屈っていうのは、私は標語を作るのが楽しいから標語にしてますが、本当のうつ病って言うかな、今、増えてる自殺したりするようなうつ病は「徒労感によって生じる」、それから、躁うつ病的な波のある体質の人は「不自由感によって波が大きくなる。そして病院にかかるようになる」と言っています。


ただ、私のところには、徒労感によるうつ病の人はあんまり来られません。なぜかと言うと、インターネットで見て、どこに行ってもうまくいかなかった人が来るもんですから、ほとんど扱い壊された双極性障害の方が来られるので、もう全然比率が違います。だから、どれが増えたのかはちょっとわかんないです。


(つづく)







◎ この一連の記事はすべて神田橋先生の了承を得て載せています。