前代未聞の「ファイティング・オペラ」イベントは大成功! | 高木圭介のマニア道

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~浮世のひまつぶし~



 前代未聞、色んな意味で無謀かつ破天荒なオペライベント「クリスマス歌合戦 ~泉良平vs新津耕平~」(12月12日、横浜みなとみらいホール・小ホール)が大盛況のうちに終了した。

 始まる前までは不安要素しか見当たらないイベントだった。オペラ対決を行った泉良平さん(バズーカ・バリトン)、新津耕平さん(ハイパー・テノール)はもちろん、ピアノ演奏の山中惇史さん(スーパーピアニストにして作曲家)は当代一流の演奏者なのだが、観客席からのリクエストを募って、ほぼ即興でそれを舞台上で披露してしまうという趣向。しかもリクエストはオペラ専門曲とは限らない。童謡(ぞうさん)あり、歌謡曲(また逢う日まで=尾崎紀世彦)あり、そして演歌(北酒場=細川たかし)ありと、まさに千差万別。これらを瞬時にオペラ風に変換して歌いつつ、ピアニストの山中さんは、バリトンやテノールに合わせた形で微妙なアレンジを加えつつ演奏しなければならない。笑えるワリには、実は相当に高度な技術が要求される余興だったのだ。しかもオペラにはまったく疎く、プロレス畑で育った山口雅史君(自称nMo社長)と私が実況と解説を務め、ところどころでゴングが打ち鳴らされる異色っぷりだ。


 お客さんは通常のオペラ楽曲を楽しむだけでなく、よく知られた様々なジャンルの楽曲のオペラバージョンをも楽しめるという面白さ。やっぱりプロのバリトン、テノール歌手の声量というか「アンプの性能の違い」というのは凄まじく、舞台上の司会席から聴いていても、ノーマイクでホール全体に響き渡る歌声には圧倒されるばかり。そして即興のため、ほぼ楽譜なしでも楽曲を成立させてしまうスーパーピアニストの腕前にも驚かされるばかり。これまで自分には縁のない「芸術」だとばかり思い込んでいたオペラが「本来は娯楽」「高度なエンターテインメント」ということを思い知らされた。生でオペラを聴いたことがない一般層にもオペラの魅力を知らしめるためのヒントに満ち溢れた貴重な実験イベントになったはずだ。

 イベントは大成功に終わり、山口君も私もほっと一息。本番前、山口君から貸してもらい生まれて初めて締めた蝶ネクタイを外した私に待っていたのは、同行した小西耕太マネージャー(鬼畜)による厳しい叱責だった。今回はシモネタも完璧に封印し、無難にそして上品にトークを繰り広げたつもりだったが、絹の目よりも細かいと恐れられる「小西チェック」は甘くはなかった。


 イベントの序盤、会場の「横浜みなとみらいホール」を、不覚にも「野毛ミュージック」(昔、横浜にあったストリップ劇場)と言い間違えてしまったことや、リクエストされたオペラ楽曲をついつい「愛のコリーダ」と読み間違えてしまったことを、いちいち観客席から目を光らせ、細かくミスをメモしてチェック。さらに楽屋に置かれていた崎陽軒のお弁当を2つ食べてしまったことなどを挙げては「貴様はまだ反省が足りん。本来ならnMo事務所の秘密地下独房でたっぷりと反省させてやるところだが、私も今夜は錦糸町での(キャバ)クラブ活動が忙しいからな。夜が明けるまで、あそこ(象の鼻パーク)で正座でもしておけ!」と言い残し、山口君とともに私を置き去りに、さっさと横浜を後にしてまった。


 哀れ、深夜の横浜みなとみらい地区に取り残された私は、象の鼻に正座しつつ、遠くベイブリッジを眺めては涙と鼻水でグシャグシャの顔で、さきほど覚えたばかりの「ぞうさん~オペラバージョン」を歌いつつ夜明けを待つのであった。


㊧から山口君、音楽解説の山田香さん(作曲家)、新津さん(ハイパー・テノール)、泉さん(バズーカ・バリトン)、山中さん(スーパーピアニスト)、そして私