映画、エルヴィスのことを書きます。
当時、ロックン・ロール排斥運動があったことは知っていますが、この映画はエルヴィスを好ましく思っていない政府が、彼の影響力を削ごうと躍起になっているところまでちゃんと表現されていて、なかなか切り込んでいるなと思いました。
当時の政府がなぜエルヴィスを快く思わなかったか。
それは彼を反体制のシンボルと受け取ったからと言われています。
エルヴィスがそのような発言をしていたことはないと思うだけに可哀想です。
(黒人差別を許さない発言は知っていますが)
自分たちのコントロール下にない、若者の絶大なるカリスマが登場したことが脅威だったのでしょう。
エルヴィスの人気絶頂期に、突然ドイツに徴兵したことなどは完全な封じ込めだと思います。
この徴兵の最中にエルヴィス最愛の母親が薬物によって亡くなっていますが、これも偶然のことなのかどうか。
というのも、この頃のロックン・ローラーは、みな不幸に見舞われているからです。
●57年末
・リトル・リチャード
→乗っていた飛行機が墜落しそうになり牧師に転向
●58年
・エルヴィス・プレスリー
→入隊
・ジェリー・リー・ルイス
→いとことのスキャンダルで放送禁止に
●59年
・バディ・ホリー
・リッチー・ヴァレンス
・ビッグ・ボッパー
→ツアー中の飛行機が墜落し事故死
・アラン・フリード(ロックン・ロールを広めたトップDJ)
→レコードをかける見返りが問題視され業界追放
・チャック・ベリー
→未成年者を連れ回していたとして逮捕
●60年
・エディ・コクラン
→自動車事故死
・ジーン・ヴィンセント
→自動車事故で重傷(エディ・コクランと同乗)
影なる力が働かずに、ここまで全てのロックン・ローラーがいなくなることは僕には考えにくいのです。
主要なロックン・ローラーがすべてです。
さて、エルヴィスが除隊した1960年はもうロックン・ロールの時代は去り、エルヴィスは映画主体の活動になるよう、マネージャーのトム・パーカー大佐に誘導されます。
(映画「エルヴィス」ではパーカー大佐は政府の指示で動いているように描かれています)
しかも、映画としては評価されない、歌もの映画ばかり。
映画「エルヴィス」の話が本当であれば、エルヴィスが68年末に出演したカムバックスペシャルというTV番組。
ここでもパーカー大佐はエルヴィスに当たり障りのないクリスマスソングを歌わせようとしましたが、エルヴィスの判断でロックン・ロールを歌いました。
その結果、彼は完全復活を果たします。
それ以降、久しぶりにビルボードナンバー1ヒットを出し、「世界ツアーに出たい」というエルヴィスを、またパーカー大佐が足止めします。
今まで稼いだエルヴィスのお金は無く、莫大な借金しかない、と。
それを返済するためにラスベガスのホテルのショーに出続けなければならないと。
エルヴィスはカナダ以外では一度も海外公演をすることなく42歳でこの世を去ります。
医師に処方された薬物乱用や、ドーナツの食べ過ぎなど、お決まりの訳の分からない理由です。
・ブルース・リー
・マイケル・ジャクソン
・ホイットニー・ヒューストン
などの大スターと似たものを感じます。
不思議なものですね。
とにかくエルヴィスは卓越した才能と、そのカリスマ性ゆえに、全ての活動を邪魔されたアーティストだと思います。
彼が56年にテレビで腰をくねらせて歌っていた頃までが本当のエルヴィス。
それが原因で燕尾服を来て犬を相手にハウンド・ドッグを歌わされた頃から、彼のがんじがらめの人生がスタートします。
わずか1年にも満たない輝きです。
あまりにも酷い。
ただ才能があるだけなのに。
アメリカが葬ったロックン・ロールは、イギリスからの逆輸入のような形で1964年から再興します。
しかし、その頃からロックン・ロールは若者のドラッグと退廃の道具として逆に利用されていたように思えてなりません。
1970年代に登場したパンク・ロックは、最後の輝きだったように思います。
だって自らアナーキー・イン・ザ・UK(反政府主義)を名乗るのですから。
反体制主義のロックはこれが最後。
それ以降、世の中は良くなっているでしょうか。
映画「エルヴィス」は僕にとって、改めてそんなことを感じさせる映画でした。
この映画で感動したのは、主演のオースティン・バトラーです。
劇中のほとんどの曲は彼自身が歌っているといいます。
その歌声はまるでエルヴィス本人のようです。
相当な訓練を積んだと言われており、その敬意は本物だと思いました。
またエルヴィスの本来の姿に迫った映画としても、この映画には変なプロパガンダ要素がなく、エルヴィスへの愛を感じます。
観た感想は人それぞれ。
でも一度は観て、何かを感じてほしい映画だと思いました。
chuma@WDRS